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カエデが部屋に戻り、オリエンテーションの時間まで待機していると、セオドアがやってきた。
「ちょっといいかな?」
カエデは、セオドアにソファーに座るように伝える。
セオドアは小さくありがとと伝えながら座った。
「先ほど、クレアシオンの人と打ち合わせをしてきたのだが、どうやら色々変更があったみたいなんだよ」
カエデは、セオドアの話の続きを待っている。
「と言っても、私たちの行動が変わるわけではないのだけどね。クレアシオンからこちらに向かった王子が第四王子から第三王子になったらしい。」
カエデは、真剣に聞いているフリをしながらミシェルの記憶を頼る。
え~と、第四王子はルーク王子か。魔法大好きな王子様なんだね~。
で、第三王子はルカ王子か、この人は外交担当だから別に変ではないのかな?
カエデは、フムフムと頷きながらセオドアの話を聞いていた。
「あと、こちらの魔法軍の師団長が、ハリス・フルームから元副師団長のニコラス・モーエンになったらしい」
「そうなんですね…。」
「それに伴い、ミシェルの希望だった魔法研究所の見学が延期になってしまったよ」
カエデは悲しそうに
「そうなのですね…。それは残念です」
ちょっと、気になったけど仕方ないか…。
一応、ミシェルへの連絡は終了したらしく、ポケットからハンカチを取り出してきた。
カエデは思わず
「あっ」とそのハンカチに反応する。
セオドアは苦笑いしながら
「ミシェルはこのハンカチが本当に気になっているんだね。嫉妬されてるって勘違いしてしまいそうだよ」
「まあ、フフフ」
なんとも言えない雰囲気になってきたのでカエデは笑って誤魔化した。
「見てみるかい?」
セオドアはカエデにそのハンカチを渡す。
「ええ、いいんですか?」
驚いた表情をしてしずしずと受け取る。
こんなの見せてもらっても仕方ないじゃん。これ刺繍かな?
ん~?ん?
カエデは、ハンカチからかすかな違和感を感じる。
「セオ、なんかこのハンカチ変ですね?」
カエデは何が変なのか分からない。
なので、とりあえず匂いを嗅いでみる。
「えっ!」
そんなカエデの行動にセオドアは驚いた。
「匂いじゃないか…。でも、魔薬に似てるんだよなぁ~」
カエデは仕事柄良く摘発対象になる違法魔法薬物、通称『魔薬』に似ていると感じた。
そして、思わず素がでる。
セオドアはクスクスと笑いながら
「そうだね。このハンカチにはかすかに『魅了』がかけられているんだよ」
カエデは、思わず持っていたハンカチを落とした。
「私、性悪女の事好きになっちゃうの…」
一応、失礼なので落としたハンカチを拾うが汚い物を触る様に端っこだけを持ちそのままセオドアに渡した。
「これ…。セオにどうぞ。返却します」
セオドアは、ミシェルの行動を見て大笑いする。
「いや~。ミシェルは年々おもしろい子になっていくね」
と言って、普通にそのハンカチを大切そうに受け取った。
それを見てカエデは思わずうわぁ~。ないわ~と心の中で呟く。
ねぇ、ミシェル、世の中には素敵な男性がいっぱいいると思うから、もうこの人辞めたら
とカエデはミシェルが起きたら説得しようと思った。
「ねぇ。ミシェル」
セオドアは微笑みながらカエデに声をかける。
カエデは、その甘ったるい声で背中に悪寒が走りながらも平常心、平常心と念じながらセオドアを見つめる。
「はい。セオどうしましたか?」
「君は一体だれなんだ?」
先ほど微笑みは消え、無表情でカエデに問いかけた。
最後までお読みいただきありがとうございました。