15
ようやく異世界転移できました。
「えーっと」
「フウト先輩~。課長~。」
夜中に自分の知っている人の名前を片っ端から呼んでみる。
聞いたことのない可愛い声が部屋に響く。
確かにさっきまで私は仕事をしていたはずだ。変なぬいぐるみへの結界が甘くて魔力汚染してしまったところまでは覚えてる。
次に目が覚めるのはたいてい、魔力汚染対策がなされている病院の天井だよね。
真っ白いヤツ。んで、腕からは点滴がつけられていて。看護師さんに気が付いてもらってモニター越しで両親と少し涙目のフウト先輩がいて…。イヤあいつは泣く奴じゃないか。
聞いていないと思うから軽くディスってみる。
広い部屋の一室にクローゼットがあったので中に入り姿見を発見。直ぐに自分の容姿を確認しにいく。
「どこの美少女だお…。」
カエデは動揺して語尾を間違えた。
肩より長い綺麗な黒髪に桃色の瞳、愛想笑いですら儚く見える容姿の美少女が目の前にいた。
「えーずっと、この容姿を褒めたたえることができるんですけどー」
自分の顔をペタペタと触りながら感動していた。
すると背後から別の魔力を感じすぐに振り向く
「誰?」
そこには、美少女とよく似た色相の全身真っ黒な衣装を着た男性が立っていた。
カエデは何かを思いついて右手で左手の掌をポンッと叩く。
「(この美少女の)お父さん?」
すると、その男性はクツクツと笑いながら
「違うな」と答える。
クイズに間違ったような感覚になったカエデは
「あっ、ハイ!すみませんでした…。お兄様?」
見た目若いもんな。悪い事しちゃったな。
「だから、違うと言ってるだろ」
カエデはそのクイズにはもうあきたらしく
「だったら、不法侵入者だね!」
と言った瞬間にその男性に対して飛び蹴りをした。
綺麗に避けられたのでそのまま、懐に入り脇に装着している警棒を取り出して…。
「あっ、丸腰だった…。」
カエデはしまったと思いそのまま後に引き下がろうとしたがその男性が、カエデの腰に手を回し身動きが取れなくなってしまった。
「ちょちょっと放してよ」
カエデは抵抗するが、男性は何も言わずにそのままソファーへ転移した。
「うわっ」
ボフンと音が鳴りそうな勢いでソファーに二人で座ると
「少し、私の話を聞きなさい」
と強めに注意された。
カエデは半分白目になりながら(実際白目になっているのは美少女だが)
「初対面の人にこの距離感はないでしょ?」
と呆れながら言った。
男性は小さく溜息をつくと
「では、納得するまでこの形でいるんだな。私は、この世界では魔王と呼ばれている。ミシェルの魔力に変化があったから覗きにきたら、知らん魔力のお主に中身が入れ替わっていた。詳しい話を聞こうとしたのだが、このように攻撃してくるとは。お転婆な娘だ」
カエデは自称魔王と言っている人の話をとりあえず一通り大人しくきいたので拘束は外してくれた。
そして、口をとがらせながら
「だって、目が覚めたら自分の姿じゃない人間になっているんだもん。驚くでしょ?」
おまけに、美人さんだし!
「それに、真夜中にレディーの部屋に訪れるのは駄目だと思いますけどね!」
カエデは少しだけ正論を投げてみた。
最後までお読みいただきありがとうございました。