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いわゆるジェフの回
ジェフはサミュエル第一王子の執務室を出ると小さく息をつき廊下を歩いていく。
すれ違う文官はほぼ自分より爵位が高い者ばかりなのですれ違うたびに廊下の端により頭を下げる。時折聞こえてくる
「第一王子の子飼いと」彼の耳元で囁きながら通り過ぎる物もいる。
若い内からサミュエルに気に入られていることが癪に触るらしい。
「僕だって好きで飼い犬になっいるわけじゃない」
まだまだ若いジェフは小さい声で抗議するが誰にも聞こえなかった。
ジェフがセオドアのご学友になったのは、ミシェルが婚約者になった時と同じタイミングだった。もちろん、ジェフの意志ではなく両親からの進言によるものだ。
子爵と言っても元は商家だった曾祖父が国の貢献に一役買ったと当時の国王に認められて爵位をいただいた古参の貴族からみると成り上がり貴族と呼ばれるものだった。一代限りの男爵位を頂いたが次の代では平民に戻る予定だったらしい。しかし、祖父も負けず劣らずの商売のセンスがあったらしく、男爵から子爵へ昇格してしまう。
商売のセンスがあっても、政治のセンスはあまりなく貴族同士の応酬にテイト家は疲弊し始めていた。そんな時に、商売で知り合ったミシェルの父親とジェフの父親が意気投合しそのままバイヤーズの後ろ盾を頂くことになった。
そう、テイト家は本来バイヤーズ派閥なのにジェフは敵対勢力とまでは言わないが第一王子の子飼いになってしまったのだ。
この話がサミュエルから聞かされた時、ジェフは絶望した。
しかし、拒否することはできない。次期王位につく人物からの要請を。
だから、ジェフは考えた。もし、裏切者のレッテルを張られるのならば自分だけでいいと。
ジェフは三人兄弟の末っ子だった。本家を継ぐ兄も、そのスペアとされている兄も立派にテイト家を盛り立てている。自分がいなくても大丈夫だと判断した。
だから、両親にもミシェルにも相談せずにサミュエルに即答した。
かしこまりました。と
ジェフは一人この後の事を考えながら王宮を後にした後、黒いシンプルな馬車に乗り家路に着いた。
家族で夕食を取った後、父親がいる執務室を訪れる
父親にソファーに座る様に言われそのまま座った。
仕事が忙しいのか少し目の下に隈ができている。
「ジェフ、珍しいなどうした?」
ジェフはメイドに紅茶を入れてもらい父親は蒸留酒を用意させていた
「はい。実はクレアシオン王国に交換留学生として1カ月ほど行くことになりました」
父親は驚きながら
「そうか…。急な話だな」
ジェフは苦笑いをしながら
「そうですね。僕も驚いています」
父親は誰から言われたのかは聞かなかった。多分、知っているのだろう。
「気を付けていきなさい。署名が必要な書類は届き次第私の所へ持ってきなさい」
「はい。ありがとうございます」
ジェフはそういうと部屋を出て行った。
ジェフの後ろ姿を見送った父親は
「助けてやれない父親ですまない」
執務室のドアに向かって一人で謝罪していた。
こっコメディー・・・。
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