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いわゆるニキ登場回
パラッパラッ紙をめくるだけが聞こえる。
最後のページを何度も読み直す。
「う~ん。で、ミシェルちゃんはクレアシオン王国に行っちゃうのか~」
綺麗にまとめられてた報告書を机の上に置く。
目の前には背筋を伸ばし腕を後ろに組んで次の指示を待つジェフ。
「それにしても魔王様から魔石をもらっていたなんて、ミシェルちゃんも愛されてるね」
先ほど学園長室でやり取りした内容が既にここに報告書として上がってきている。
昔から愛用している椅子にもたれかかりながら目をつぶる人物
「クレアシオン王国に行っている時はさすがに私も報告はできませんよ」
ジェフは愛想笑いをしながら冗談っぽく話す。
「そうだね…。そんなことできたら怖いかも」
「それにしても、セオもミシェルちゃんと距離を置いたと思ったら急に一緒に行くだなんてあちらで婚約破棄を言うのとか勘弁して欲しいんだけどな~」
その答えをジェフには求めていないみたいでゆっくり瞳を開けるといたずらを思いついたようにジェフを見ると
「じゃぁ~。ジェフも一緒に行っちゃおうか?行ったことないでしょ?クレアシオン。
そうしよう。んで、セオとミシェルちゃんがどうなるかを見届けてよ」
そう言うとデスクの引き出しから用紙を取り出す。
サラサラと何かを書いた後、手に魔力を込めながらサインをした。
「ジェフ・テイト セオドア第三王子と共にクレアシオン王国へ交換留学生として同行するように」
その書類をジェフに渡して
「父上には適当にねじ込むようにお願いするから。後は、よろしくね」
そして、右手で払うようにする。ジェフに退室を促す合図だった。
ジェフは改めて姿勢をただし
「はっ、サミュエル第一王子の仰る通りに」
一礼をしながら執務室を出た。
サミュエルはジェフを見送った後席を立ち後にある窓の外の風景を見る。
次の王位は自分になることが確定しているが、不安がまったくないという状況でもない。
数年前から使用を禁止されている魔法を盾に今までロストの技術を応用して社会を組み立てようとする自分の邪魔をしている魔法派閥をこのタイミングで根絶やしにしようとがんばっていた。
まずは学園での魔法科の地位と権力を落とす。そして、いずれは魔法科を廃止させようとしていた。
弟のセオドアの事は嫌いではないが、どうやら魔法派閥が彼を神輿にあげようとしている節があった。その代表が、ミシェル・バイヤーズとの婚約だった。
バイヤーズ家自体は中立の立場をとっているが、いかんせんミシェルの魔法の才能がありすぎた。
それは、サミュエルへの敵対行為にも見えた。
「全てを魔法で賄うことなんてできるはずがないのに…。」
異世界から時々舞い降りるロストと呼ばれる存在を知ったのはサミュエルがまだ学生の時だった。学生だったサミュエルも魔法科に所属し将来の役に立てるために色々学んでいるところだった。
しかし、ロストの人が自分の知識を形にし発表している事を知りその内容が自分の求めている物に近い事が分かった瞬間、魔法とは距離を置きロストの人々との交流を始めた。
そうなると、魔法派閥がおもしろくなくなる。次の王になる人物が魔法をおざなりにしはじめたからだ。それまでは好意的だった彼らはすこしずつサミュエルについて意見しだすようになった。
あまりの妨害に腹をたてたサミュエルが国王に訴えたところ
「バランスって大事だよね?」
と一言返されただけだった。
思いのほか自分をフォローしてくれない父親に反発するようにサミュエルは魔法を忌避しだした。
「ミシェルちゃん、そのままクレアシオン王国に住んでくれないかな~」
彼女自身に何の罪もないことは理解しているが、サミュエルは彼女の処遇を考えあぐねていた。
「う~ん。とりあえず、クレアシオンでのジェフの報告でまた考えよっかな」
サミュエルは自分の執務室を出て父親にジェフの追加する報告に向かった。
最後までお読みいただきありがとうございました。