最終話 悪役令嬢は卒業しました?
穏やかな陽光が差し込む執務室で、オリヴィアとリアムは寄り添っていた。
ふたりはふたたびデスクに寄りかかり、手を繋いでいる。
「お兄様を探す?」
オリヴィアが尋ねると、リアムは少し考えてから、首を横に振った。
「……いいや。やめておく」
「いいの?」
「なんだかね……予感があるんだ。彼はそのうちひょっこり顔を見せると思う」
「そう?」
「だってね、マシューは気分屋なんだ。誰にも言わずに彼は消えたけれど、少したったら気が変わるはず」
「猫みたいね」
「そう、彼は猫みたいなんだ。たぶんまったく悪びれずに、僕たちの新婚生活を冷かしに来ると思う」
「じゃあ私、それを楽しみに待つわ」
「さっきまで『結婚はまだしたくない』と言っていたのに」
「私がそう言ったから、怒っているの?」
「すごく怒っている。……でも君がキスしてくれたら、怒りが溶けてなくなるかも」
「じゃあ怒らせたままにしておこうかしら」
「ひどいな」
「拗ねているあなたは可愛いもの。私のハリネズミさん」
「じゃあ結婚したくなった?」
「結婚はまだしたくないけれど」
「本格的にグサッときたよ。君はひどい女だ」
「それはほら――なんといっても、元悪役令嬢ですからね」
「だけどもう卒業しただろう?」
からかうように彼からそう問われたオリヴィアは、とびきりキュートな笑みを浮かべた。
「――さぁどうかしら。まだ現役かもしれないわよ」
悪役令嬢卒業後のゴージャスな偽装結婚(終)
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