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24.恋の魔法


「私のデスクが少し斜めに設置してあるのは、窓の外が見やすいように、ですか?」


 自席に着いたオリヴィアが尋ねると、左隣――というか左斜め前?のデスクに着いたリアムが答える。


「そう。ゲルダがね――この配置がいいと」


 オリヴィアはなんとなく、デスクは彼と横並びの配置になると思っていた。――彼に用がある時は顔をしっかり真横に向けないと、コミュニケーションを取れない、という配置に。


 ところがこの位置関係だと、少し視線を横にズラすだけで、互いの姿が視界に入る。


 オリヴィアのほうは安心できるけれど、彼はどうなのだろう。


 昨日の『ずっと一緒にいて飽きないですか?』問答を思い出す。彼は気を遣って『飽きない』と言ってくれたようだけれど、ここまでオリヴィアが視界に入り込んでくるとは思ってもみなかったのではないか。


 少し心配になったけれど、またあの話を蒸し返しても、どうせ優しいリアムを困らせるだけなので、やめておくことにした。


 今日一日過ごしたら、彼のほうが『これはキツいぞ』となって、翌日には横並びに直っているかもしれないし。


 それでオリヴィアはほかに引っかかったことを尋ねてみることにした。


「そういえばさっきの話で気になったんですけど、このデスクは侍女のゲルダさんが運び込んだんですか?」


 先ほど『重そうだわ』と言ったら、リアムは『侍女のゲルダが頑張った』と答えなかった?


 ゲルダは頑健そうではあるけれど、女性であるし、ひとりでこの重そうなデスクを運ぶのは無理じゃないかしら。というか男性でも、ひとりで運ぶのは無理そう。


 オリヴィアの問いに、リアムが可笑しそうにこちらを見返してくる。


「さすがに彼女自身が運んだんじゃないよ。ゲルダは屋敷に眠っている最適な家具を見つけ出してくる天才なんだ。そしてほかの人間をこき使うのも上手いから、何人か男性使用人を見繕って、君のデスクを見事な手際で移送してくれた」


「魔法使いみたいですね」


「ゲルダは本当に魔法を使えそうだよね」


「恋の魔法とか?」


「うん――そうだ、僕も習おうかな」


「え」


「ゲルダから恋の魔法を習得できたら、君にもやり方を教えてあげる」


 オリヴィアは顔がかぁっと熱くなってきた。……リアムと話していると、たまに理由がよく分からずに、すごくドキドキする。なんなの、これ。


 ゲルダが魔法使いのわけもないし、そもそも魔法使いなんて童話の中にしか存在しないし、リアムがそれを習得できるわけもない。これはただの雑談――馬鹿げた『もしも』話なのに、なんだか半分真剣に考えてしまう。


「……私がそれを悪用したら、どうするんです?」


「君は悪用しないさ」


「分からないですよ」


「じゃあさ、せーの、で互いに魔法をかけるのはどう?」


「恋の魔法を?」


「そう、恋の魔法を」


「互いにかけてしまったら、誰も解けなくなるわ」


「何十年後かに、どちらかの寿命が尽きる時が来て――君は元気いっぱいだから、たぶん僕が先に逝くかな?――いまわの際にこう言うんだ――『この温かい気持ちは、魔法の力じゃない。元々魔法にはかかっていなかった。心から愛している』って」


 オリヴィアは笑みを浮かべてみせた。……上手く笑えているか分からなかった。泣きたいような気もしたし、浮き立つような気分でもあった。


「……あなたはロマンチストですね」


「そうだね。たぶん君よりはずっと」


「ひどいわ」


 そう言って笑みを零したオリヴィアの瞳は少しだけ潤んでいた。鼻の先も少し赤くなっている。


 オリヴィアはデスクの引き出しを確認するフリをして、慌てて顔を伏せた。




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