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【幕間】世界終焉の予言


 ネフィとの戦いが終わってすぐ、俺は学園長室に呼び出しを受けていた。


 「稀代の天才魔術師、千導真凛。」

 「そんな異名で一回も呼ばれたことありません」

 「天眼の予言者、マーリン」

 「………それ言ってるのあなただけですよ」

 「なんだよーママに向かって、敬語は使うなよーもう十年以上の付き合いじゃないか?」

 「…………」


 俺は、ケラケラ笑う学園長を半目で見ながら溜息をつく。

 学園長室には、大量の学園ものの漫画やライトノベルが乱雑に置き捨てられており、足場はほとんどない。


 「で、どうだね? 亜紗宮邑歌は?」

 

 まっすぐにこちらを射貫く少女の瞳は、一切の誤魔化しを許さない威圧感に満ちている。


 「……強いよ。身体能力が異常に高い。なにより……あいつの能力……本当に覚醒させていいのか? あまりにも危険な気がするが。」


 俺は率直な考えをそのまま口にする。


 「危険だとも。だが、彼女の危険など、君がかつて私に予言した世界の終焉に比べれば安いものだ。」

 「…………」

 「君の幻想結界、天眼エンド・アイ。未来を予知する能力。君が私にした予言は、今でも覚えている。

 『赤き竜が降臨し、世界は終わりを迎える』…と」


 それは、幼いころ俺の能力が覚醒した際に、見た夢。

 ―――世界は炎と血で赤黒く染まっている。

 ―――人間だった者は、そのほとんどが肉塊となって転がっている。

 ―――人類の文明は、崩壊した。

 ―――目の前にて世界を燃やし尽くす、赤き竜によって。


 思い出すだけで怖気立つ夢。否―――未来予知。

 

 「君の予知は実に精度が高い。事実、外したことは一度もない。幻想結界を利用した大規模テロ、第三次世界大戦。厄災の歌姫。不死身なる獣………いずれの予知も、悉く的中している。君の予知が無ければ、対処は間に合わず、世界はとっくに滅びているというものさ。4人目のレベルⅤとして扱っても差し支えないんじゃない?」

 「勘弁してくれ。それに対処したのは俺じゃない。メインはアンタだろ。」

 「否定はしないよ。私は最強だからね! フハハハハハ! 」


 謙遜どころか胸を張る天上院は、ひとしきり高笑いをしたあと、両肘を机につく。


 「で、だ。その赤き竜に唯一対抗できるものが、亜紗宮邑歌だと私は確信している。」

 「……何を根拠に……」

 

 そう呟くと、天上院は椅子から立ち上がり、こちらの至近距離まで近づいてくると、目を細めて笑う。

 

 「世界最大の厄災を払うのは、人類最強の英雄だからさ」

 「………アンタは、邑歌が何者なのか……知っているのか?」

 「勿論、だが。いずれ君も、その予言で知るだろう。全てを理解したとき、君が彼女の隣にいるかは、甚だ疑問だけど」


 意味深な言葉を並べるだけ並べ、真実を語らぬまま天上院は自身の席へと戻る。


 「というわけで、いつもの如く君の肩には、世界の命運がかかってるわけだが。何か質問は? あっても真面目に答えるかは別だけど」

 「……単純な疑問だ。仮にその竜を倒すのがアイツだとして、どうして能力の覚醒を手伝うのが俺なんだ。俺の能力はあくまで予知だ。教育に向いてる性能じゃないのは、付き合いの一番長いあんたが分かってるはずだろ。適任者は他に……」

 「……………………だって君童貞でしょ?」

 「――――なんて?」

 

 俺は、言われたことが一瞬分からず聞き返す。

 天上院は至極真面目な顔で続ける。


 「幻想結界は、能力者の精神状態にその成長率は左右されるとの論文がある。つまり誰かを守りたい、といった正の感情、あるいは野郎ぶっ殺してやるといった殺意や憎悪といった負の感情の爆発などで、その能力の効果や影響力、範囲が広がるとされている内容だ。

 君の予知も正確ではあるけれど、大きな予知ほど、発動タイミングが掴めない。つまりある意味で君もまだ能力は成長する余地がある」

 「……つまり?」

 「ユーたちセックスして互いを守るって気持ち沸かせて能力覚醒させちゃいなYO! そのために例外同棲生活許可したし、あと避妊ゴムは無くなったら送るから! え、もしかしてもう渡したゴム使いきった? 」


 最低の一言しか出てこない屑みたいな理由だった。

 つまり、未成長(落ちこぼれ)同士仲良く能力強化に励めということか。

 あとゴムを送り付けるな。未成年のエロを助長するな。


 「聞いた俺が馬鹿だったよ」

 「うむ。これからも分からないことがあったら何でも聞いてくれたまえ。 あ、でももうそろそろ他の学園都市に出張しないといけないんだった。」

 「しばらく帰ってくんな」

 「これが、噂の反抗期か。ママ寂しい」

 

 目薬をさして嘆き始めたロリを無視して、俺は学園長室を後にする。

 扉を閉める寸前、ロリは最後俺に向かって微笑むと、


 「あ、次はちゃんと君も能力使って戦ってねー。じゃなきゃコロスー」


 と平然と脅迫してきたのだった。





   ●   ●   ●





 千導真凛が立ち去った部屋で一人、天上院冠唯は、自身のとっさについた嘘に対して、我ながら上出来だと自己称賛した。

 確かに、愛する者をつくれば、能力覚醒は促されやすいかもしれない。

 だが、そんなことはこのペアの本質ではない。

 亜紗宮邑歌あさみや・おうかに、千導真凛せんどう・まりんが必要な訳ではない。

 千導真凛に、亜紗宮邑歌が必要なのだ。

 

 「期待しているよ。私の、最強英雄ちゃん」



 それは、どちらに向けて発された言葉なのか。 

 それは、最強の幻想結界者しか知りえない。

 

 

 

 

 

 


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