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お蔵入り聖剣


 霊装。簡単に言えば、幻想結界者の能力の発現力を補助する装置。

 幻想結界の強度は、能力者の想像力に比例して高まっていくとされている。 

 例えば、何でも切り裂く能力を持つ者がいるとして、剣やナイフなどを持っているほうが何も持っていない状態よりもその情景をイメージしやすくなるため、刃物系統を霊装として利用している場合が多い。

 治癒系の能力なら、注射器などを霊装にすることで、自身の中での、能力のイメージ強度を上げることで効果の上昇に繋がるだろう。

 

 「じゃあ空飛ぶ能力とかなら、翼の霊装を使えば空を飛ぶイメージが固まりやすいってこと?」

 「そういうことだな。」


 邑歌はなるほどー。と頷きながら隣を歩く。

 

 「あ、じゃあ真凛も霊装持ってるってこと?」

 「まぁな。俺のは、無難な杖なんだけど」


 俺は鞄から30センチ大の銀色の棒を取り出すと、中腹部についているスイッチを押す。すると棒は、1.5メートルほどの大きさになり、上部が開いて装飾が展開する。

 

 「うぉぉ!? すっごい! 杖からビームとか出るんでしょ!」

 「出んわ。最低機能しかついてないからな」

 

 中には、使用者の能力に関係なく、電撃を放てるモノや煙幕を出せる物、いわゆるカスタマイズ品もあるにはあるが、付属効果によっては非常に高価なためなかなかに手は出しづらい。


 「なーんだ。ビーム出せる剣欲しかったのに」

 「剣に射程範囲を付けるな」


 そういう話しているうちに、学園内の管理棟の一室、霊装保管庫前に到着する。

 電子手帳を扉の端末に照らすと、扉が無音で開く。

 体育館ほどの大きさのある部屋には、ショーケースのなかに千差万別の霊装が並べられている。

 

 「ほぉぉ……凄い数……これ全部霊装?」

 

 邑歌がショーケースに手をついて霊装を眺めていると、バタバタと慌ただしい足音が近づいてくる。


 「アポなしで来るんじゃねぇんじゃい!」


 シャチの着ぐるみの上に白衣という極めて謎ファッションの女は、巨大な胸を大いに揺らしながら跳躍すると俺の腹にドロップキックをかましてくる。

 大振りな動作を躱すと、それは床に派手に激突して滑っていく。

 その緑髪の女はすぐさま起き上がり、割れた眼鏡を拾うと表情に怒りをにじませる。

 

 「避けるな! 天上院のパシリ!」

 「避けるわ、そもそも何度もアポ電したのに繋がんなかったぞ」

 「昼寝してるんだから当たり前さ! 私の活動開始時間は23時からさ!」

 

 当然のように夜型屑ムーヴ宣言をする女に呆れていると、白衣女は邑歌を指さす。


 「で、これが例のレベルⅥか?」

 「話が早すぎんだろ」

 「お前ら生徒とは違って天上院からレベルⅥに合いそうな武器を見繕えとお達しがあったんだよ! おかげでさっき寝始めたばっかさ!」

 

 じゃいじゃいギャーギャー騒ぐアホに対して、邑歌は若干困惑したように手を差し出す。

 

 「あはは…えーと私のせいでごめんなさい。私は亜紗み」

 「自己紹介は不要さ、人の名前なんぞ憶えてられん。私のことはシャチ先生と呼びなさい」

 「はい! シャチ先生! ……なんでシャチ?」

 「その女に突っ込むな、変人だ」

 

 俺の言葉を否定することなく、シャチ先生(着ぐるみによって名前が変わる)は、奥へと歩いてく。


 「ついてきなさい。君だけの固有(カスタマイズ)霊装を用意してある。」

 「………だから、話が早すぎんだろ…」

 

 とはいえ、予想していなかったわけではない。世界初のレベルⅥ。そんな特別な存在の待遇が通常の能力者と同列のはずも無い。

 学園長は勿論、ほぼ大抵のレベルⅣは、固有霊装を所持しているらしいしな。

 シャチ先生が電子タブレットを操作すると、床から黒い2メートル四方の箱がせり上がってくる。

 

 「見るがいい! これこそ我が学園技術開発部の最高傑作霊装! その名を【黄昏剣カラドボルグ】!!」


 箱の外装のロックが外れ、内側から放たれし閃光が視界に広がる。

 1メートル強の白銀の輝きを纏いし刀身。金色の柄には真紅の宝石が埋め込まれ、神話やゲームに出てくるような異質さがそこにはあった。

 興奮しながらシャチ先生は、タブレットを操作する。


 「うひひ…いつ見ても美しいねぇ……通常汎用霊装の増幅出力リミットは200%に抑えられている。固有霊装にあってもせいぜいが400%。それ以上は幻想結界者の負担が大きすぎるからね。だが―――この霊装にそのリミットは存在しない。

 なんせレベルⅥなんて世界初の化け物の内包エネルギーが計り知れないからねぇ。

 ようするにだ、性能は使い手に完全比例する。最大出力は計測したことないけど、この浮遊学園都市くらいは落ちるんじゃないか?

 理論上ビームだって出せる。」

 

 シャチ先生は、眼鏡をくいっと押し上げると、シレッと超危険兵器であることを嗤いながら語る。

 あと剣に射程範囲を付けるな。

 

 「無論、君にこれを使う覚悟があれば、の話だがねぇ」

 「……大丈夫、使いこなしてみせるよ! だって私、最強にならないといけないから!」

 「…うひひ。そうかい、なら柄を掴み、幻想結界の出力をイメージしたまえ。」


 シャチ先生は俺の隣に立つと、興奮気味に口を開く。


 「君の幻想結界で、彼女がこの剣で世界を壊す未来とか見えないのかい?」

 「………生憎、俺の能力は任意で発動できないんだよ。」 

 「うひひ。そいつぁ残念だ。私的には、こいつで全世界の能力者相手に出力検証をしてもらいたいものだが。」

 「そんときは真っ先にお前を盾にしてやるよ」

 「それはそれでいいデータが取れそうだ」

 

 邑歌が剣の前に立つと、俺に振り返る。

 

 「……どうせ言っても、止めないんだろ?」

 「流石真凛! 私の思考が分かってるね!」

 「ぶっ倒れても保健室に直行してやるよ」

 

 そんな俺の軽口に、邑歌は頷くと、剣に向き直り、その柄を掴む。

 

 「聖剣―――抜刀!」

 

 少女は自らの幻想結界を起動する。

 刹那、少女を中心に、思わず顔を覆うほどの風が吹き荒れる。

 剣は周囲に稲妻を奔らせ、こちらまで総毛立つようなエネルギーを放出する。

 己こそ最強であると誇示するその光は、やがて邑歌を包み込み――――

 邑歌を、後方へと弾き飛ばした。


 「!?」

 「邑歌っ!?」


 尻もちをついた邑歌に駆け寄ると、邑歌は自らの赤くなった手に息を吹きかけている。


 「いったぁぁあ! なに今の!? 滅茶苦茶痛かったんだけど!?」

 

 肝心の剣を見ると、先ほどの輝きは嘘のように消え失せ、最初の位置から全く動いていなかった。

 シャチ先生は、信じられないといった表情でタブレットを操作していたが、やがて震えるようにつぶやいた。

 

 「あの……使い手の想定レベルより出力が遥かに低すぎて……適合しなかったんだけど」

 「「えっ」」


 世界最強の霊装は、厳重にロックを施され、地下へとお蔵入りになった。

 こういうのって適合するモンなんじゃないの?

 

 

 


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