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可愛くて頭のオカシイ戦闘民族


 授業は急遽中止になり、自習となった。

 教員もレベルⅥの転校生のことはまったく知らされて無かったらしく、職員室へと駆けこんでいったため、クラスは亜紗宮の席へと殺到した。

 

 「世界初のレベル(シックス)なんて凄いですね!日本人?」

 「能力まだ覚醒してないんだって?どんな幻想結界なのかも一切分からないの?」

 「それよりさっきの自己紹介で英雄になるってどういうこと?ウケ狙い?」

 「さっきの自己紹介――面白れぇ女。」

 「てか可愛い~ 髪は白染めてるの? 地毛?」

 

 俺のなかでは、何故俺が殺されなきゃいけないという疑問を解決してほしいのだが。

 質問攻めにあっている邑歌を眺めていると、リエスは俺の顔を伺う。

 

 「あの……さっきから顔が青ざめてますけど……学園長に何を言われたんですか?」

 「いや、邑歌とは仲良くしてくれって言われただけだよ」

 「ふぅん」

 

 言ったところで信じてくれない……いや、学園長の言うことなら……リエスにはあとで言ってみよう。

 

 「というか、亜紗宮さんのこと、もう名前で呼んでるんですね。」

 「それは、あいつがそう呼べって言ってきてだな……」

 「あ、目をそらした。もしかして仲良しですか?」


 リエスのからかいをあしらいかけたところで、バンッと勢いよく何かをたたく音が響く。

 

 「お前ら、なんで仲良くなろうとしてんだよ! レベルⅤでさえ、戦略兵器って言われてんだぞ! その上って……ただの化け物じゃないか!」


 しん、と教室が静まり返る。

 この反応もまた、当然だろう。

 幻想結界はレベルが高い程、もたらす影響は大きくなっていく。

 レベルⅠ、Ⅱの規模ならばともかく、Ⅲ、Ⅳの能力は犯罪に利用された際の被害は、並みのテロの比ではない。レベルⅤに関しては、その遥か上の次元の存在であり、その者を抑止、制圧することは世界大戦相当の犠牲、もしくは制圧側の全滅を意味するとされるほどである。

 当然、能力には様々なものがあるため、一概にレベルが高いのと危険度はイコールではない。事実として、レベルⅣには病気を即座に完治させる治癒系もいれば、スーパーコンピューターより早く演算できるなんて奴もいる。

 が、直接的な危険度には繋がらない可能性はあれど、レベルが高い程常人の域を出ているのもまた事実なのだ。

 レベルの判定は、世界に三つ存在する幻想結界者養成機関を取りまとめる上層組織、統制委員会ガーディアンが行っているが、判定基準は一切明かされていない。

 だが、無からほぼ全ての物質を生み出せるという反則でしかない能力がレベルⅤ。核弾頭だろうが巨大隕石だろうが、自由自在に作り出せる。

 つまるところ、そんなチートを超えるレベルⅥなんてもの、世界を一撃で滅ぼすなんて奴でもなんらおかしくはないのだ。

 邑歌は、あははと苦笑しながら席から立ち、教室のボードの前で一息つく。


 「じゃあ私の能力見せましょう!」

 「!?!?」


 クラス全員の顔が一瞬で凍り付く。

 邑歌は構わずに、右の掌を前に出す。 

 そうだ―――学園長は、能力は未覚醒だが、開花してないとはいってない!

 全員が身構えるより早く邑歌は叫ぶ。


 「来て、聖剣!」


 眩い光と共に、邑歌の手元に何かが出現する。


 ————刹那。

 脳裏に、景色が一瞬見える。

 神々しい光を纏った剣を掲げる邑歌。

 …………この光景は……。俺の能力が発動してるのか?

 一瞬でその光景から現実に引き戻されたころには、邑歌の手元から輝きは消えており、そこにあるのは―――

 

 「………き、木の棒?」

 

 リエスは戸惑うような声を出す。

 クラスの全員が恐怖と困惑の視線を邑歌に向ける。


 「うん! 私の能力は、木の棒を出すことです」

 

 ………。

 邑歌はにへらっと笑いながら頭をかく。その動作に思わず、心拍数が上がる。


 「いやー期待させちゃってごめん。世界を滅ぼすとか怖い能力邪全然ないよ。学園長?も世界を滅ぼすとかそんなんじゃないと思うって言ってたし。あ、でも剣術は強いよ! この世界の一番の英雄になるからね! みてほらっ独学剣術!」

  

 邑歌は木の棒をぶんぶんと振り回し始め、ようやくクラスメイトの警戒心が和らいだ。


 「……ま、安全面は学園長が保証してるなら…大丈夫じゃね?」

 「てか、こんなに可愛いのに危険とかありえないっしょ。ほんと可愛い。うちらと今度カラオケ行こうよ」

 「それな。亜紗宮ちゃんポンコツ可愛い~」

 「いやマジアイドルみたいに可愛いよ」


 どうやら、邑歌は孤立することはなさそうだ。

 囲まれる転校生を眺めていると、リエスは微笑みながら話しかけてくる。


 「安心しましたね。クラスになじめそうで。先導くんもホッとしてるようで何よりです」

 「……そんな顔してるつもりはなかったが」

 「ツンデレですか?」 

 「違うわ」


 邑歌はそんな会話をしている俺たちの前に来ると、こちらに手を差し出してくる。

 

 「改めてよろしく!真凛!卒業までの教え子として頑張るから!」

 「…………なんて?」

 「あれ。学園長が、これから卒業までは真凛は衣食住を共にするパートナー&幻想結界教育係だからよろしくって言ってたよ? 」

 

 俺を含めたクラス全員が固まる。

 

 「…………すまん、場を和ませる冗談だよな?」

 「ううん、書類手続きは済んでるらしいし、真凛の家の鍵とかも貰ったよ?あと…何に使うか分からないけど、この中に薄い風船みたいなのが入った0.01って書かれた」

 「何でだよ! あと最後のは捨てなさい」

 「それが一番大事に使えって言われてるのに!」

 「とりあえずあのロリ学園長ぶっ飛ばすか」


 主に夜の営みで使用するゴムを邑歌から回収すると、若干邑歌は困ったように続ける。


 「…ちなみに断ったら、全校生徒は一日一回、先導真凛に能力を全力でぶっ放すってのを校則に加えるって……」

 「死ぬわ」


 なんでそんな大集団リンチを受けなきゃならんのだ。レベルⅣはこの学園に俺を除いても4人いるんだぞ。ボコボコどころか塵になるわ。

 しかし、あの女は、やるといったらやる。

 そのことを、これまでの中で嫌というほど知っている。

 事実上の同棲に、男女関係の話として色めき立つ者もいれば、俺のことをみて「ご愁傷様です」と憐れむ者と反応は主に二つに分かれた。

 

 「リエス。ちょっと俺抗議に………リエスさん?」

 「先導くんが…死ぬ…でも…女の子と…d、同棲……」


 何故かリエスは、口をパクパクしながら混乱状態になっていた。

 さすが人をダメにする美少女。優しさの化身として、俺が死ぬかもしれない状態に困惑してくれたのだろう。もはや聖母じゃん。

 俺はすぐさま学園長室に乗り込み、まずロリ顔をぶん殴った後で諸々を撤回させる……ビジョンを頭に浮かべようとして絶対にそんなのできる相手ではないと悟って深くため息をつく。

 俺に対する学園長からの勅命という名の嫌がらせは、今に始まったことではない。

 そして、拒否権はどれも存在しなかったのだ。

 

 「…………死にたくはないからな。よろしく」


 俺は可愛らしくも、ちょっと変な夢を持っている女の手を取ると、少女は満点の笑顔を咲かせる。


 「うん!よろしく! 早速だけど! この学園で一番強い人と戦いたいんだけど紹介してくれないかな?」

 「やっぱ関わりたくないから抗議しにいくわ」

 「なんでっ!?」


 訂正、ちょっとじゃなくて頭のオカシイ夢持ってる戦闘民族だ。

 

 

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