ラッキースケベは嫌いですか? 不審者のパンツはそんなに興奮しない
路地裏のゴミ収集場に、パンツを大公開中の女の子が逆さまに刺さっていた。
真っ赤なドラゴンが大きくプリントされた謎センス。
そこからしなやかに伸びる華奢な足は、顔が見えずとも女の子と認識は出来た。
が、一ミリもエロくなかった。むしろシュール過ぎて怖い。
あとで録画してみたとしても多分今の衝撃が脳内再生されて致せるのか妖しいレベルでシュール極まりない。
というか、生きているのだろうか。
実は幻想結界に目覚めている者、通称発現者同士の殺し合いがここで行われていて、命を落とした?
学園への近道を通る選択をした自分を激しく攻めつつ、恐る恐る生存を確認するために近づく。
「あの……大丈夫、です、か?」
ピクリともそのパンツは動かない。更にそのパンツ……その人に近づいて声をかける。
「大丈夫ですかぁ!」
「んっ………ふぁぁぁ」
パンツはようやくもぞもぞと動き始め、ガサゴソとゴミをかき分ける音と共に、パンツから上、即ち埋もれていた上半身が露わになった。
スラリとした体型。歳は同い年くらいなら、15辺りか。
透き通るような長い白髪のてっぺん付近には、ハエが一匹飛び回り、整った顔立ちは、ゴミのせいか黒ずみがついているように汚れており、少女の全身からは、ゴミの匂いが放たれていた。しかもよくよく見ればうちと同じ学園の制服である。
だが、そんな明らかに嫌悪したくなる状態にもかかわらず、真凛は、胸が一瞬跳ねるほどには、その少女が、可愛いと感じた。
一瞬の昂揚を取り払って声をかける。
「あの…大丈夫ですか?…もしかして誰かにやられたなら通報します?」
「えっ……なんで……あぁ、ここで寝てたら不安になりますよね! 大丈夫です!ただの浮浪者です!」
どの辺が大丈夫なのだろうか。
好感度以前に、関わりたくないという想いが一気に噴き出してくる。
「あ、そっすか。じゃ俺はこれで」
「あっ!その制服、アルカディア学園の生徒さんですよね!私、今日からアルカディア学園にお世話になります!亜紗宮邑歌です!道分からないので良かったら連れて行ってもらえませんか!」
ゴミに埋もれていたパンツ浮浪少女は、天真爛漫元気いっぱいに手を差し出してくる。
ますます関わりたくないなと思う反面、そんな手を振り払える精神力を持ち合わせていない俺は、乾いた笑みを浮かべて握手を交わすことしかできなかった。
☩ ☩ ☩
「千導真凛さんって言うんですね! 素敵な名前!あ、真凛って呼んでもいいです?」
「アッハイ。どうぞ……亜沙宮さんはどうして…」
「邑歌でいいですよ!」
「…邑歌さんは…」
「邑歌のほうが友達っぽいですね!」
意外と圧しが強い浮浪娘に対して、俺は諦めるように嘆息した。
「……邑歌はなんで、浮浪者になってんだよ。外からここに連れてこられる前に、居住地とそれなりの額をもらっただろ」
さっそく素で疑問を投げると、何故か邑歌は、「あはは…」頭をかきながら薄く笑う。
学園都市アルカディア。地球のどこかに浮遊している機関であり、幻想結界の発現が確認された時点で、その者は如何なる事情を問わず、この地に隔離される。
世界には三つの学園都市が存在し、いずれも個性があれど、教養と隔離を目的としている。
何故学園という呼称なのかという点に関しては、強制移送という名の入学と、晴れて外界に帰れる卒業という制度がある為だ。
卒業要件は、
・自己の能力に対する理解及び完全制御
であるが、外界で能力を犯罪に使用していた者などは、更なる更生プログラムがあるらしいが、詳細は犯罪者では無い上に情報公開されているわけでも無いので知る由もない。
尤も、能力が危険すぎる為、入学すれば最後、一生をこの学園都市で過ごすことを強制されることから、ここを【世界で最も自由な監獄】と称するものもいるが…。
当然、外界から送られる際、居住などは保障され、学園に通うだけで給付金が発生する為、困らないようになっている。
「実は、昨日ここに送られてきたときに、当てられた家が良く分からないけど爆発して、お金は、道端でヤンキーに絡まれてる人のためにあげて回ったり、この壺を買ってもらえないと家族を養っていけないという人から、壺を買ったの。後日家に壺が届くらしい!しかも路地裏で親切な占い師さんが、お金を持っていると悪霊が取り付くので、この場で通帳と暗証番号を書いておいていきなさいって言われてね、新天地で幸先悪いのもあれかなって」
「まてまてまてまて。なんだその情報量は」
不幸の一日が濃すぎない?なんで人生で一回遭遇かどうかの不幸をくまなく受けてるの?
「あと、この街を親切な人に観光案内してもらったんだけど、ここってチップ代結構かかるんだね!」
「お前はよく生きてきたなここまで」
この騙され具合は、箱入り娘という次元じゃない。バカ娘だ。
バカ娘ステークス1番人気。彼女の体質には合っていますね。
「で、なんだかんだお腹もすいてふらふらしたらあそこに」
「よしわからんが分かった。」
別にこの学園都市は、平和って訳じゃない。
勿論、警察組織も構成されているが、ここには、善人悪人問わず収監される。
むしろ発現者しかいないので、事件が発生した際にはその規模も大きくなりがちだ。
故に、犯罪の巻き込まれ防止のために、半数以上の生徒は、相棒システム、共同生活者と二人以上で暮らしているのだ。
まぁつまり、こういう奴が増えないようにってことなのだが。
真凛はバカ娘を見やるが、当の本人は自身の不幸を嘆くわけでも無くけろっとしている。
そんな少女の顔を見て、真凛は僅かに不気味さを感じていたが、やがて正面に学園の門がみえたことで、この不思議な縁から解放されることに安堵する。
「あ!あれがアルカディア学園!送ってくれてありがとう!」
「はいはい。職員室は一階ね。校舎入って一番左端だから。」
基本的に流れはおなじはずだ。学園への編入手続きは既に都市に来る前に行われており、あとは職員室で所属クラスを言い渡される。
生徒数は既にこの学園だけでも5万を超えており、まず会うこと自体が稀だろう。
そう考えると若干の寂しさがこみ上げてこなくもない。来なかった。あまり関わりたくない。
そんな個人的人生の中で関わりたくないランキングトップ3に入る少女は、学園を指さして堂々と宣言した。
「私は、この世界で一番凄い英雄になる為にここにきた!」
「…………うわぁ…」
関わりたくないランキングが二位に上昇した。