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魔族の子。  作者: フツキ。
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24.傭兵と模索。

 結局街のあちこちを探ってみたものの、これといった変化は見られなかった。昼食の時間になってしまったので、我は根城である宿屋へと戻って来ていた。食堂は変わらず繁盛していて、客の数は多い。だがいつもの席が空いていたので、我はそそくさとそこへ座った。それを少女が見つけ、我に水を差し出す。

「どうしますか?」

「これを」

 日替わり、と書かれたメニューを指差すと、了解ですと少女が笑って答えた。メニューの内容は書かれていないし、我も聞かなかった。だが出されたものはほぼ食べれるゆえ問題無い。この街は豊かだからそうでもないが、他の街では、毎日きちんとした食事にありつけるのが珍しいくらいなのだ。

 この世界は常に魔物の危険に晒され、街から街への移動は、冒険者や傭兵を雇った商人に限られてしまっている。ごく普通に住んでいる人間が外出しようものなら、すぐさま魔物に襲撃されるか、もしくは他の街に辿り着けずに命を失う。ここから近い街に行くのでさえ、数日かかるのだ。ゆえにほとんどの街はそれひとつですべてが上手く回るように出来ている。衣、食、住、すべてにおいて。

 出された水を一口飲んでから、これからのことを考える。噂話が真実であるならば、その話の時間帯……もっと深夜に行動を起こさねばならない。とりあえず子供が寝静まる頃に、また宿屋を出ることにしよう。女主人に一言出て行くと伝えておいた方がいいかもしれない。万が一、子供が起きたときに対応をしてもらう必要がある。

「お待たせしました~!」

 少女の明るい声が響き渡る。目の前には頼んだ食事が置かれていた。どうやら考え込み過ぎたようだ。問題はいったん隅に置いて、食事に集中しよう。街にいるときくらいは、何も考えず、気を張らず、ゆったりと食事を楽しみたい。「仕事」の最中の食事は腹を満たすための行為でしかなく、こんな風に和やかになど出来ない。敵はどこにいるか分からないのだから。

 少女から噂話の情報をもっと仕入れようかとも思ったが、今日はあまり接触できずにいた。少女も仕事をしているのだから、わざわざこちらから話し掛けるわけにもいかない。それは彼女にとって営業妨害にあたる。そもそも幽霊の話は、一応、噂でしかないのだ。下手に聞き込み過ぎて逆に探られてしまうかもしれない。そうなると少々厄介だ。

 食事も取り終わり部屋に戻ろうと立ち上がると、食堂の入り口に子供が立っていた。ちょうど学校から帰ってきたようだ。ゆっくりと近付くと、「ただいま」と少年が笑った。何度言ってもなかなか言い慣れない「おかえり」を我は返してやる。よく見るといつも持っているカバンが少し膨らんでいる。どうやら宿題が出たか、本を借りて来たのだろう。

 この子はいつも勤勉だ。宿題を忘れることもないし、この世界のあらゆることを知るために本を読む。我が子供の頃は…子供の頃は、どうしていただろうか。何度も思い出そうとしても、それが出来ない。こんなにも思い出せぬものなのか。それとも、我の記憶が、拒否しているのか。誰かに聞くことも可能だろうが、女主人にも、ギルドマスターにも聞くわけにはいかなかった。何故だろうか、己の過去を思い出すのが、いささか怖いのだ。

「おじさん?」

 長考していたらしい我に、不思議そうな顔をしながら子供がそう呼びかけて来た。こんな巨体が棒立ちしているのだから、そうなるのも仕方がない。どうも今日は考えに耽ることが多くなってしまう。今まではひとりで過ごしていたから、こうやって誰かに声をかけられることも無かった。これも、子供を迎え入れたゆえの日常の変化だ。

「済まぬ。考えごとをしていた」

「だいじょうぶ?」

「ああ」

 そう、短く言葉を交わす。すると子供の表情が、いつもの柔らかな笑顔に変わった。いつまでも食堂の前に居座るのも向こうに悪い。早く移動せねば。そう考えていると、子供がまるでこちらの考えを覚ったかのようにこう続けた。

「お部屋にもどるの?」

「ああ」

「じゃあ僕もいっしょに行く」

 断る理由が無かったので、我はそれを承諾した。

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