表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔族の子。  作者: フツキ。
26/35

22.傭兵の決心。

 決心すれば、意外とやる気というのだろうか、覚悟のようなものが出来ていた。他人の邪魔にならぬよう、教室の隅になるだろうが、それでも子供の姿を見守ろうと、我は決めた。それがこの子のためになるのであれば。この子のためならば、我は何でもすると決意した。ならばそれを実行するだけのことだ。だがまあ、初めてのことに、迷うのは仕方ない。

 女主人の言葉を聞いた翌日、我は学校に行く準備をする子供に声を掛けた。いつも準備をしてから、二人で朝食をとりに行く。それが我らの朝の習慣だった。我が「仕事」で朝早く出るときは、声を掛けずに出て行くのだが、今日は別件で街の中心部へ行こうと思っている。

「来てくれるの!?」

「ああ」

 我の返事を聞いた子供が、満面の笑みでそう聞き返してくる。その表情を見て、決意を固めて良かったと改めて実感した。子供の憂う顔は見たくない。何より子供が学校でどう振る舞っているのか、逆に他の子供たちからどう扱われているのか、少し気になってきた。本人が語る内容を聞くに、悪い扱いは受けていないようだが。

 返事を聞いて上機嫌だからか、今日の子供は我にいつも以上に甘えてきた。手を繋いで食堂に行きたいと言い出したのには驚いたが、今回だけは甘えさせておくことにした。ここまで純粋に喜びを表されてしまうと、こちらまで照れ臭くなる。だがこれも、家族の在り方なのだろう。誰かと手を繋いだことなど、我の記憶にはほとんどない。

「おはようございまーす!あら、手を繋いでるなんて、珍しいですね」

「これに良いことがあってな」

 朝食の忙しい時間だからか、トレイに様々な食後の皿を載せた少女がそう声をかけて来た。食堂は半分ほど人で埋まっている。普段より人が多い。だがいつもの席は空いていたので、我はそう返してから、子供と共にそこへ座った。そそくさとキッチンへ戻った少女が、水の入ったグラスを持って現れる。

「いつものを頼む」

「分かりました。ちょっと混んでるので、すみませんが、お待ちくださいね~」

 我の注文にそう応えてから、少女はまたキッチンへと消えていく。そしてまた大量の朝食をトレイに載せて、あちこちを走り回っている。その動作は我から見ても俊敏で華麗、なおかつまったく隙が無かった。少女は完璧な身のこなしで、客を捌いている。これもあの女主人の教育の賜物だ。だからこそ滅多なことが無い限り、この食堂は彼女ひとりで回っている。

「おじさん、今日はどこへ行くの?」

 忙しく走り回る少女を眺めつつ、子供がグラスを持ってそう聞く。恐らくだがギルドに依頼した調査は時間がかかる。何よりあまりあそこに足を運びたくない。なので今回は、例の幽霊騒ぎとやらを、少し調べてみようと思った。本当に幽霊が現れたのであれば、その痕跡は必ず残っている。

「街の中心部だ。調べ物がある」

「しらべもの?なにか探してるの?」

「そうだ。なかなか目に見えないものだからな。慎重に調べねばならん」

 なるべく嘘にならぬよう、それでも真実を告げないよう、我は上手く誤魔化しつつそう答える。すると水を飲み終えた子供が、勢いよくこう続けた。

「僕もお手伝いする!」

「大丈夫だ、我ひとりでも出来る」

「そうなの?そっか…」

「…もし我だけではどうしようもなければ、手を借りるかもしれん」

「わかった!」

 快い返事が聞けなかったからか、いささか曇りがちになった子供にそう言うと、今度はその表情を和らげて、こくりと頷いた。この子供は聞き分けも良く物分かりも良いのでほとんど注意したり禁止を言い付けることは無いが、やはりどうしても気になる件に関しては、その好奇心を抑えきれないようだ。まあその方が子供らしいと言えば、子供らしい。

「お待たせしました~!遅くなっちゃってごめんなさい」

 そう話しているうちに、少女の快活な声と共に朝食が我らの前に置かれる。さて、待ちに待った朝食の時間だ。これを食すことによって、ようやく一日が始まったと実感する。我らは今日も食べ物の恵みに感謝をしてから、静かに食事を始めたのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ