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魔族の子。  作者: フツキ。
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2.少年と術式適性。

 小さな手を引きながら、街中を歩く。お互いの体格がまったく違うからか、子供の歩みは我に追いつこうとして、どうしても早足になってしまう。必死にこちらに追いかけるものの、少しずつ距離は開いていった。

 今日は子供の新しい服を買うのと、術式適性を調べるために繁華街まで向かうことになった。我が拾ったときは真っ白な上下を着ていたが、そのままにしておくのはかわいそうだと女主人が進言してきた。確かにどこかに預けるにしろ、どうするにしろ、この服装のままにしておくのはこの子にも良くない。

 子供は必死に歩いているが、その努力も虚しく距離はどんどん離れ、手を繋げなくなりそうになってしまう。迷子になられても困ってしまうので、仕方なく我は子供を抱えてやった。途端に子供は嬉しそうに笑ってから、我のマントをぎゅっと握った。

「落ちるなよ」

「うん」

 我がそう言うと、子供は素直にこくりと頷く。こうやってきちんと言葉のやり取りは出来るのに、名前だけは覚えていない。まあ我も同じように名を名乗らなくなったので、人のことをとやかく言える立場でもないのだが。

「おじさん、いつもとお洋服が違うね」

「あの鎧は「仕事」をするための装備だ」

 自分を拾ったときの外見と違うからか、不思議そうに子供がそう聞いてきた。今の我は普段纏っている鎧ではなく、軽装にマント、そして顔を覆うように頭巾を被っている。己の名を名乗らなくなってから、我は誰にも素顔を見せることは無くなった。

「…怖いか?」

「怖くないよ」

 ふとそう聞いてみれば、子供がにこりと笑って答える。こんな武骨で愛想のない男を怖くないと言えるのは、なかなかに度胸がすわっている。まあ、変に怖がられてしまうよりは、この方がいいのかもしれないが。

「おじさん、どこ行くの?」

「服屋だ。それから術式適性を調べるために神殿に行く」

「しんでん?」

 初めて聞く単語だったのだろう、子供が不思議そうに聞き返す。

 神殿は大きな街には必ずある、この世界の神を祀り祈るため、そして術式にまつわるあれこれを取りまとめている場所だ。子供は必ずここで術式の適性を測り、今後の人生の指標にする。

 高い者であれば我のように傭兵になったり、神殿で働いたり、術式にまつわる道具を作る職人になったり、術式を使わず普通の人生を送る者もいる。術式だけ高くても、戦闘がからっきしの者もいるので、たとえ高くても低くても、争うことなく様々な生き方がある。だから術式適性で差別が起こることはほとんどなかった。

「行けば分かる」

 説明をするのはどうにも苦手だ。ゆえにそう短く告げてから、我は懇意にしている服屋に入った。今纏っているマントも服も、この服屋で仕立ててもらったものだ。古めかしい扉を開けると、縫い物をしていた老主人が視線を上げた。

「おや、あんたが来るとは珍しい」

 そう言って、老主人が我の腕の中にいる子供を見やる。そしてほう、といささか愉しげに息を吐いた。

「とうとう身を固めたか」

「期待に添えずに済まんが、拾った子だ。これに合う服を見繕ってくれ」

 からかうようにそう聞いてくる老主人に、我は嘆息しつつも、子供を下ろしてそう注文する。やや緊張気味に老主人の前に立つ子供を、眼鏡の奥でじっと見つめてから、少し待てと言われた。我は服に関してはほとんど無頓着だ。なのでこういうことは、本職に任せたほうがいい。

 しばらく待っていると、老主人がいくつかの服を持ってきた。試着をしたほうがいいだろうとのことなので、試着室へ子供を連れて行った。初めて訪れる場所だからか、その顔から緊張の色は消えない。

「ひとりで出来るか?」

「うん」

 そう聞けば、さっきまで着ていた服を脱ぎながら子供が答える。用意されたものを着て鏡でその姿を見る…というのを何回か繰り返してから、子供は深い青色と薄い灰色の布で誂えた、装飾の少ない服を選んだ。銀髪とアイスブルーの瞳によく合う服だと、内心でそう感想を漏らした。

「ありがとう、おじさん」

 洋服代を老主人に渡すと、丁寧に子供が礼を言った。構わないと我は返してから、ここに訪れたときのように子供を再び抱えた。その表情がいつもより明るく見えるのは、服装が変わったからだろうか。

「次は神殿に行くぞ」

 そう告げると、こくりと、子供が頷いて応えた。店から神殿まではそこまで遠くはないが、やはり子供の足では時間がかかるので、先程のように我が抱えてやった。いつもと違う服装が楽しいのか、さっきとはうって変わり、にこにこと笑っている。そうしているうちに、我らは神殿へと辿り着いた。

 朝方に行われる祈りの時間が終わっているからか、中にいる人数は少ない。受付の神官に術式適性の件を話すと、すぐに準備が出来ると返事があった。初めて訪れる場所だからか、さっきまで笑顔だった子供の表情が少し強張っている。

「案ずるな、少しテストをするだけだ」

「何をするの?」

「やれば分かる。我も幼い頃にしたことだ」

 どう言葉をかけてやれば良いのか分からなかったので、我も昔に同じ体験をしたことを話してやる。適性検査は簡単なもので、用意された魔石に触れて、その反応からどれくらいの能力があるのか測る。神官から声をかけられたので、我は子供を下ろしてそこへ行くように促した。

「おじさん」

「ここで待っている」

「大丈夫ですよ。すぐに終わりますから」

 不安がる子供に、神官が穏やかな声音でそう励ましてくれる。小さな手を引きながら、神官と子供は適性検査の部屋へと消えていった。恐らくだが、すぐに終わるだろう。だが立ち尽くしているのも何なので、我は近くのベンチに座って子供を待つことにしたのだった。

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