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殃禍の騎士と氷輪のマグス  作者: 个叉(かさ)
誰も妨げてはならない
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17

ナールが両手を広げる。

纏められていた紫の髪が風を受けて広がり、門扉の周囲にいた死体がカタカタと震える。

何らかの術を発動させたのであろう。

余すことなくすべての死体が門扉の中へ、ナ-ルの隣へと吸い込まれるように集束していく。

肉塊は進化して、変形していった。

相変わらず頭部にアリーシャの入った丸い玉をのせたまま、巨大はあるが、骨の剣を持つすっきりした体躯となる。

形成の際に、聖所の漆喰壁は全て吹き飛ばされていた。

その巨躯が粉塵に紛れて、骨剣を振り下ろす。


「下がれ!」


シビルが咄嗟に防御の補助術を展開し、アスレイが骨剣を剣で弾く。

骨剣の風圧で巻き上げられた物や土埃が、シビルの結界に触れ粉々になる。

シビルの結界内には被害はない。


「すごい…剣士様」


ディアドラはアスレイが巨体の剣を弾いたことが信じられなかった。

質量が違いすぎるあれをいなすこと自体、とんでもないことだ。


「嬢ちゃん、すまねえ…俺達、あんたに酷いことを」

「いいからくっついて近くにいて。範囲が広いと大変なんだから!」


ダン達やディアドラを守る、シビルが造り出した結界内。

真っ白な外界から隔てられ、煙や粉塵の影響がない。

ダン達は奇跡だ、と肩を寄せ合い震えながら、手を合わせてシビルを拝んでいる。

気持ち悪いからやめてよ、気が散る、等といいながらもシビルは律儀に結界を重ね、ディアドラも大人しく収まっている。


「あの子も邪魔ねぇ。変なユルの色をしているし、何だかちぐはぐ」


ナールが骨剣の小さいものを生み出して、シビルたちを狙う。

アスレイは手元の剣から光の礫のようなものを作り出して、それを相殺する。


「素敵。何て男らしいの。ギンナル様の前に貴方に会いたかったわぁ」

「私達を呼び出した理由がこれか?まさかこんなに直情的な女性(ひと)だとはな」


ナ-ルの挑発には乗らない。

アスレイは次に振り下ろされる骨剣を弾きながら、ナールに問いかける。


骨剣は両刃が鋭いわけではなく、鈍器のようなものだ。

巨躯は細身になったことで動きが俊敏になって厄介ではあるが、その大きさで剣を振るのは小回りがきかず単純で動きが読みやすい。

ナールはふらつきながら、頭を押さえる。

返答を考えるのが億劫そうな印象を受けた。


「理由って…ボスの邪魔になるからじゃない」


その答えにいち早く疑問を持ったのは、シビルだ。

矛盾している、と。

確か彼女はそんなことをおくびにも出していなかった筈だ。


「ボスは鉱脈の利権を貰ってご機嫌だって言ってたろ?アスレイのこと手伝うって言ってくれた仲じゃないか」

「そんなこと言ったかしら。全部がギンナル様のものになれば綺麗になるのだから、当然のこと。貴方達もその方が幸せよ」


ふらふらと呂律も怪しいナールに、アスレイは眉を寄せる。

牢では好意的で柔軟な対応をしたナールが、今は何処か投げ槍だ。

シビルが瞠目したのが、遠目にもわかった。


光を纏わせた剣先で骨剣の同じ場所を斬り続け、ひび割れさせることに成功する。

刀身のバランスが崩れた骨剣に僅かな乱れが生じ、肉塊の動きにも影響を与え始める。

アスレイが手数を増やすと、捌ききれずに肉塊の巨躯に受ける傷が増える。


「ギンナルに恩義でもあるのか。だが、人の命を奪ってまですることか?」


ナールが怠そうに地面にへたりこむ。

彼女から吐き出されている息は更に熱っぽい。

髪は乱れ起き上がることが出来ないようだ。

腕を何度か突っ張ったものの、足が全く動かない。


アスレイは骨剣と同じように、剣を持たない巨体の左の筋に当たるであろう箇所を切り崩す。

腕を振り上げアスレイに掴みかかっていた左が、一気に力を失う。

だが、次の瞬間に破損箇所に黒い靄がかかって修復する。

ナ-ルが大きく息をついた。


「…恩義?どうかしら…それに、奪ってないわ、掃除しただけよ…綺麗な形に生まれ変わらせたの」

「なに、この女、頭おかしい。この前と別人みたいだ」

「同感だ」


アスレイはシビルに同意する。

この違和感は何だ。

ギンナルの話ものらりくらりと確信に触れない。

芯を持った回答はなく、心ここにあらずというか、思考を退化させたように感じる。

この状態の人間を、何処かでも見た、気がする。


肉塊が無理矢理に骨剣を振り回す。

アスレイに傷つけられた複数箇所に負荷がかかり、ブチブチと音を立てる。


「ああああああ」


ナールは地面に座ったまま、両手で体を抱き締め叫ぶ。

身体から黒い靄が立ち上ぼり、肉塊に吸い込まれていくのが見えた。

動力源はやはりナールのユルだ。

桃色、と表現されていたユルが、今は真っ黒な靄としてアスレイの目にも見えている。

少なからず負担のかかる彼女は、しゃがみこんだままだ。


彼女のユルが注ぎ込まれた肉塊が再び変形し、大きさが縮まっていく。

アスレイの頭一つ分大きな背丈のものに三体に分離する。

動力の効率を良くしたのか。

そのうち一体の胴部分に丸い玉が配置され、少しずんぐりむっくりしている印象がある。

しかし繰り出される剣戟は先程より遥かに早く、三体が連携を取っているので隙がない。

アスレイは巨体の攻撃は軽く避けていたが、明らかに余裕がなく、寸でのところで躱すようになってきている。


「やばいかな?」

「剣士様っ」

「あんちゃん、頑張れ」


シビルの呟きに、ディアドラやダン達が焦り出す。

結界で守られているから動けない、下手をして余計な負担になるのが目に見えていた。

ディアドラがシビルに掴みかかる。

この中でアスレイの助けになりそうなのは、シビルしか見当たらないのだ。

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