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86話:竜の一族3

「な・・!誰だ?」祭司見習いの男が振り向いた。

「キルケさん・・」向こう側で小さくオースティンが呟くのが聞こえた。

「貴様っ!魔術師か?・・・そうか、お前がこの扉の封印を解いたというわけか。」

小物だな・・・。男を見て一目でわかる。対峙する相手との力の差も分からぬ様では、仕方がない、だがこいつが不可解なパーツのひとつに関わっているのは間違いないか・・。

「ふん、この程度の封印しかできない奴が偉そうな口を叩くな。だが、丁度いい、お前には聞きたい事がある。」と、キルケは薄く笑った。

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「まさかあんなに弱ってるなんて思っても見なかったんだよ!」

「あんたって、本当に嫌になるぐらい馬鹿息子ね!ちょっとぐらい考えたら分かるでしょうに!でも確かにあたくしもここまで彼が弱っているとは思ってなかったけど・・」

「んだよ、おめーも一緒だろうが!」

「なんですって?!あんた、母親に向かってそんな言葉をはくなんてサイテーね!」

「誰が母親だよ!」

「もう、止めて下さい、二人とも!それよりも、彼は大丈夫なんですか?!」

「倒れたのは突然の強い光に目が慣れなかったのと、精神的疲労だろうな。それに見ろ、この身体、こんなになるまでほっておくとはな・・・」キルケの辛辣な言葉が響く。

「「・・・・・・・・。」」

「確かに、弟をこんなになるまでほっておいたのは僕の責任だ・・。」辛そうに呟いた兄の上着をオースティンがぎゅっと握りしめた。

ジェラルドは一人、無言で壁にもたれたまま寝台に横たわる男を凝視していた。正直拍子抜けしてしまったと言っても良い。生涯の恋敵・・良く知る親友と似た顔つきだがその姿は一言痛ましいとしか言いようが無かった。

一体何を食べて来たのか、その身体はほっそりと女性の様だ。ちらっと見た時に気がついたが、身体にはかなり傷つけられた跡が残っている。自分でやった傷なのか、誰かにやられたのか、それともその両方か・・・?

恋敵・・・のはずだが、今の彼の姿を見た途端、明らかに自分の中から戦意というものが消えてしまった。なんなんだ、こいつは?!なぜこんなっ・・・たとえようも苛立が自分の中に沸き起こる。今はまだ、こいつは俺のライバルにはなり得ない・・ジェラルドは蒼白な顔をしたまだ少年とも言える様な男を見つめながら拳を握りしめた。

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幾人かの人の話し声にうっすらと目を開ける。こんな人のざわめきを聞いたのは何時の頃だったか・・・。

「あ!」っと息を飲む音にそちらに視線を合わせた。薄暗い部屋の中、やがてゆっくりと焦点が合ってくる。朧げに一人の少女の姿が見えた。誰だ・・?泣いている・・・・

「良かった・・・目覚められたんですね。」

「・・き・・みは・・・」ああ、そうだ、僕は・・あの塔からでて太陽の光がとても眩しくて、その後の記憶はない。ここは一体どこなのだろう。起き上がろうとしたが、身体が金縛りにあったように動かない。

そこにまた新たな声が加わった。

「目覚めたか。すまなかったな、お前の目が光に弱くなっている事まで計算にいれてなかった。まあこれから少しずつ慣らして行けばまた元に戻るだろうが・・。」と罰の悪そうに気を失う前あの少女と一緒に居た男性が謝った。


「いえ・・それよりも、ここは・・?」

「あたくしのお家よ。王子様」変わったいでたちをした男が寝台の側に寄ってくる。そこで初めて自分がたくさんの人達に見られている事に気がついた。

ゆっくりと視線を動かしながら一人一人の顔を見つめ、そして最後に一人をじっと凝視する。「・・・兄さん・・・?」

はっと男が顔を上げ一瞬辛そうな表情を見せたがゆっくりと側までやって来た。だが言葉無くその場でうつむいてしまった。


私は何か言おうとしたがうまく言葉がでてこない。随分長い事あっていないが、やはり彼は僕の兄なのだろう。纏った雰囲気が昔の事を懐かしく思い出させた。しばらく時間が止まったかのように僕はじっと兄の姿を目蓋に焼き付けるように見ていた。


リディアーナはそんな彼らを見てゆっくりと椅子から立ち上がるとジークフォルンらに目配せし、ゆっくりと出て行き扉をそっと閉めた。まだ今は・・・いや、いまだからこそ、彼らに時間が必要だと感じたから・・・。

扉が閉まると兄の口からとても小さな・・泣きそうなつぶやきが聞こえた。

「済まない・・・謝って済む事じゃないのはわかっているが・・・」


「夢を見ていたんだ。兄さんとあの子の夢を何回も何回も繰り返して・・・僕にとってはその二つの思い出が何よりも愛しいものだったから・・・だからいつも目覚めるのが怖かった。目覚めてしまったら其処に何も見いだせない。でも今日は違った・・・ずっと、死ぬ前にもう一度会いたいと願っていた二人に会えるなんて・・・これも夢の続きかな・・?」


「そんな訳無いだろう!僕はここに居る、お前のそばに!頼むから・・・こんな事を言う資格がないのは分かっている、だが頼むから死ぬなんて言わないでくれっ!やっとお前をこの手に取り戻せたのに・・・。」


僕は兄を見つめながら言った。「そうだね・・・塔の中では毎日死ぬ日を指折り数えていたけど今は嬉し過ぎてもったいない気がするよ。」

そして二人で泣き笑いのような表情を浮かべる。ジェラルド達に再会してからまだ1日と立っていないのにこの国の何十年もの月日を一気に凝縮した様な出来事が起っていた。

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「いいのか?あいつら二人きりにしといてよ?」カルナがくいっと扉の向こうを顎で指す。

「ま、兄弟で色々と積もる話もあるんでしょう。それにしても彼があんなに衰弱していたのは誤算だったわ。キルケちゃんどうするつもり?」


「今それを考えてる所だ。」短くキルケが切り返す。時間がないと言うのにこういう状態になってしまってイライラしているのだろう。

3手に別れた後、それぞれが自分達の成すべき役割を果たしていた。カルナとリディアーナは、王子の救出を、そしてキルケとオースティンは城の地下で思いもよらぬ成果を持って帰ってきていた。

そしてジークフォルンとジェラルドもある一仕事を成し終えて帰ってきていた。

ジークフォルンは本当に不思議な男だった。ついてこいと言われ、しぶしぶ付き従って行った先でジェラルドは思いもかけぬ事件と出くわした。


「どこへ向かっているんだ?」一向に行き先を言わないジークフォルンにイライラしつつ、ジェラルドがたまりかねたように叫んだ。

「もう、せっかちな男ねぇ、夜もそんなんだとあの子に嫌われちゃうわよ?ま、そろそろ話してあげても良いけど・・・。」そういってジークフォルンはにやっと笑った。

この男はよっぽど俺の神経を逆撫でたいらしい。とはいっても自身が嫌というほど良くわかるのだが、この男には一切の隙がない。このまま切り掛かったとしても止められるだろう、それもやすやすと・・・まったくムカつく、本当になんで俺がこんな奴と!

俺の心境を知ってか、知っていても興味が無いのか奴は先ほどまでの沈黙が嘘だったかのように話しだした。


「まあ・・・、竜の居所は大体分かってるのよね、そっちはそんなに気にしなくても良いのだけど、この間じっくり話を聞かせてもらったグランディスの密偵の話で、ちょっとピピってきたものがあって、あたくしの水晶で探してみたんだけど思ってたより面白い展開になってるみたいなのよね。ま、後々良い取引材料になりそうだから恩を売っとくのも悪くないと思って。」と心底機嫌が良さそうに口をすべらす。

「何の事だ?」話がまったく見えない。

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