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83話:塔の中での再会

「あの・・・カルナさん。私走れます。だから下ろしてくださぃ・・」最後の方は恥ずかしくて小声になってしまう。城をでてからずっとカルナに抱きかかえられたまま走って来てるのだ。

「あ?別にかまわねーよ、あんた軽いし。あんま喋ってると舌噛むぜ?」

恥ずかしいから・・・とはいえない自分に少し嫌気がさすが、この人は一体どういう人なのだろうかと考える。キルケちゃんが、この人が私たちの旅の邪魔をしていたと言っていた。でもこの人はキルケちゃんのお友達の息子さんで、今は私たちの手伝いをしてくれている。

普通ならば、信用ができないと思うはずだ。だがこの人からはまったくネガティブな感情が読み取れない。不思議な人だ・・。


しばらくすると幾度も夢の中で見て来た塔の近くまでやってくる。やはり塔の周りには幾人もの兵士がいる。カルナは音も無くゆっくりと私を下ろすと、とてつもなく軽い様子でいった。

「んじゃーちょっと行って片付けてくるわ、あんたはゆっくりここで見物してなよ。」

「え?わ、私も行きます!」

カルナはちらっと私の方を見て少し考えるようにしてからいった。「ああ、確かあんた物騒な魔法つかえたっけ?ま、好きにしたらいいよ。足手纏いにならなければね。」

「なりません!」

「じゃ、お好きに〜。とりあえず、塔の中で落ち合うってことで。」そういってカルナはさっと身を翻し、嬉しそうにナイフをちらつかせながら視界から消えた。


私も・・いかないと・・その為に来たんだもの!!リディアは少し考えると、昔こっそりと塔の中にはいった裏口方面に向かって走り出した。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

なんだか、外が騒がしい・・光が入ってくる窓はずっと上の方にあり、ここからでは外の様子を伺う事ができない。何かあったのだろうか・・最近になって、ものものしく兵が増やされた事は知っていた。このような塔の中にずっと居ると音やちょっとした変化も鋭く察知できる。

もしかしたら、今日がその日なのか?僕の最後の日・・?


僕は息を殺してじっと扉を見つめていた。誰かが階段を登ってくる音がする。いつも食事を届けてくれる名も知らないおばさんの足音とは違う。やはりと思い少し身構えたが、予想に反して僕の耳に届いたのは心地よい声だった。

「あ、あの!鍵を探したんですが見つからなくて・・魔法で扉を壊しますから少し離れていてもらえますか?!」


扉を壊す・・・?一体何を言っているのだろうか。

「あの!聞こえてますか?できるだけ扉から離れていてください!」

「わかった。」僕は一言頷くとできるだけ扉からはなれる。扉の向こうで誰かが息を飲む音が聞こえた。

「じゃあ、行きます!」呪文が聞こえる。咄嗟にボロ切れのような毛布を頭からかぶり部屋の隅に隠れると同時に勢い良く扉が吹っ飛んだ。確かに扉近くにいては命が無かったかもしれない。もくもくと煙を立てる扉だったものがあった先から、小柄な美しい少女が入って来た。

大きな黒い瞳を一杯に開いて僕を凝視する・・。何かを言いかけて少し戸惑ったような仕草を見せ下を向く。


あの大きな黒い瞳に僕は見覚えがあった。まさか・・いやもしかして・・・?

「「あっ」」二人の声が同時に重なる。彼女が顔を上げてまっすぐに僕を見る。

「あの、大丈夫でしたか・・・?怪我とか・・」

「ああ、怪我はない。」そう言って僕はおずおずと手を差し出した彼女の手を握りしめる。びくっと彼女の肩が揺れた。

「君は・・・もしかしてあの時の・・・?」昔一度だけ出会ったことのある小さな少女。その黒く大きな瞳が重なる。

驚いたように彼女は僕を見つめそして頬をバラ色に染める。「リディア・・リディアーナです。覚えていてくれたんですね・・」

それは僕の台詞だった。まさか一度だけ、迷い込んで来た僕に生きる希望を与えてくれたあの小さな女の子が成長して僕の目の前にいる。それこそ、忘れられているだろうと思っていたのだ。

「約束・・・しましたよね。きっと助けにくるって・・。遅くなってしまいましたが、間に合って本当によかった!」


僕はその言葉にはっと我に帰る。あの時の少女が危険を顧みず僕を助けに来てくれた事は本当に言葉にならないぐらいうれしかった。だが・・こんなことをして彼女は大丈夫なのだろうか・・。瞬間幼い日の自身の片割れの姿を思い出す。

僕が言葉を紡ごうとした次の瞬間、新たな第三者の声が響いた。

「姫さん、遊んでる暇はないぞ、さっさとずらかろう!」

「あ、はい。すいません、カルナさん。」

「詳しい事は後で説明します。どうか私たちと一緒に来て下さい。」

僕はその二人をじっと見ていたが決心すると、彼らの後について塔をでた。太陽は雲に遮られ、また日も落ちてきているが、何年も外に出た事の無かった僕の目は太陽の光とその眩しさに目眩を覚える。

「大丈夫か?」足下をふらつかせた僕を誰かが支えてくれた様な気がして・・そして僕はそのまま気を失った。

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