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5話:決意と想い

玉座に座った王は愛しげに愛娘を眺めつつ静かに口を開いた。

「来月、ユフテス王国カイル王子の18歳の式典が行われるそうだ・・。あいにく、私はこのところ政務が多忙で出席することができない。リディアーナ、そなたが余の代わりに出席して欲しいと思っているのだが・・・。」そこで王は一旦言葉を切ってリディアの様子を伺った。


「・・・お父様、それは・・・いえ、わかりました。このお話、慎んで御請いたします。」

リディアは王と王妃に向かって小さく礼をすると足早に玉座の間から出て行った。




ーー「のう、ロザリアよ、これで良かったと思うか・・・?余の判断は・・」


「いいえ、貴方、あの子は私達の娘ですもの、大丈夫ですわ。しかもこうと決めた事に関して梃でも動かない頑固さは、本当に貴方譲り・・。。貴方が私を射止めた様に、あの子もきっと・・」そういって王妃はにこりと王に微笑んだ。


「そうか・・寂しいものだな。娘が離れていくのは・・いや、まだ余はあれを嫁になどと思ってはおらん。そうだ、あれはこのアステールの世継ぎなのだからな・・婿をとってこのアステールを繁栄させてもらわねばならん・・その為にも良い婿を・・・」


「貴方、あの子を信頼しましょう・・?あの子がこの8年もの間どんな気持ちで頑張ってきたのかご存知でしょう?私も、心配がないと言えば嘘になりますが、私はあの子を応援したいのですわ。たった一人の大切な娘ですもの。あの子の悲しげな顔を見るのは・・」


「そうだな・・あれも本当に難儀な道を選んだものだ。神よ、どうか愛しい我が娘に祝福を・・」ーー







「マリアベル!来たわ!この日が・・・ああ、でもうまく行くかしら・・?ううん、この時のために頑張ってきたのだもの、きっと・・」

部屋に飛び込んできた姫をなだめつつ、マリアベルは口を開いた。

「姫様・・それでは、とうとう行かれるのですね?」

「ええ、出発は1週間後よ。ユフテルまでは、海路と山を超えて行かなければ行けないのですもの。本当に長かったわ。。でも私もいつまでも、何もできないままの子供ではないわ。きっと、、きっと大丈夫。」そう言ってリディアはその長い睫毛をふるわして手元にある一冊の古い本を固く握った。



ーーそう、もう何もできなかった小さな頃の私ではないのだから・・・8年前、ユフテスから帰った私は初めて自分が心から願った事がかなえられなかったことにショックを受けた。今思えば、子供だったのだ。大国の王の一人娘として生まれ、望む、望まないに関わらず、自分の周りにはありとあらゆるものが用意されていた。仲睦まじい国王夫妻を初め、城内の者達からも一身の愛情を受けて育った自分・・。自分が恵まれているという事すら意識せず、すべてが当たり前だと勘違いしていた。そう、あの時までは・・・。


初めて塔の中で出会った名前の無い少年、短い出会いだったが、それは本当に運命としか思えないほど、幼い自分を掻き乱した。

父王が、なぜあの時あれほど絶望的な瞳で私の小さな体を抱きしめ、すまない。どうする事もできないと私に語ったのか。私の止まらない涙を拭いながら、少しでも私の気が晴れる様に、逸れる様にと父様が用意してくださったご好意は、その時の私にとっては自分の願いをかなえてくれない父への怒りと腹立ちまぎれの中で余計に自分のコントロールできない感情を募らせるばかりであった。珍しいお菓子、綺麗な人形、希少な金星鳥の鳴き声も何もかも・・どうして・・?どうして私のお願いは聞いてくれないの?他の物なんていらない。。ただもう一度あの子に会いたい・・一緒にいたい・・それだけなのに。


年を得るにつれ、私は様々な事を貪欲に吸収していった。王国の王女としてのたしなみ、政治的な背景、歴史、帝王学に魔術、そういった知識を得ていくにつれ、私自身もまたかの少年が味わったであろう絶望をかいま見ていた。そして私は自分の無力さを思い知った。私が持っているのは全て、父と母、そしてアステールの国民らからの善意。私自身が持っているものなど無いに等しいと。父様の権力をもってしても、他国の政治的、また宗教的背景の根底に深く関わるものに簡単に口出しはできない。そんな事をすれば、長年友好を築いてきたユフテルとの絆に溝を作る事になる。


ユフテスは大陸の中でも4千年を超える古代王国、例えユフテスの王族といえども簡単にその禁忌を侵す事はできない。どうすれば・・どうすれば彼を助けられる?私に何が出来るのだろう・・。ーー


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