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55話:旅路3

真っ赤になったリディアに船内の部屋に連れ込まれたキルケだったが、ナタリーが用意したお茶を飲みつつ、リディアと対面していた。

「お前の行動は時々突拍子も無いな・・。」キルケがずずっと一口お茶を飲みながら言う。

「ごめん、キルケちゃん、いきなり連れて来ちゃって・・。」リディアは申し訳なさそうに上目使いでキルケの様子を伺う。気にした様子はなさそうだが、こんな小さな女の子に呆れられている事実に、ちょっとショックを覚える。いや、確かに自分が悪いのだが・・。


「で、お前はジェラルドの事が好きなのか?」キルケが丸い目をくりくりさせて問うた。

いきなりの直球にリディアは口に含んだ紅茶を吹き出しそうになる。ついいっぱい口に含みすぎた熱い紅茶と自分自身が発する熱、両方を感じる。

「あつっ!」舌をやけどしてしまったらしい。少し涙目になる。

キルケは可愛らしく首を傾げたまま自分の方を見ている。わかっている、悪気はないのだ。それにきっとキルケは先ほどのジェラルドとのやり取りを見ていたのだろう。きっと誤解してるのだ・・・。真っ赤になった自分の顔を隠したくなって来た・・・・。


「ち、違うのよ、キルケちゃん。私は別にジェラルド兄様の事が好きって言う訳ではないの。ただ兄様はいつもあんな感じだからちょっと驚いただけ。」


「そうなのか?」

うっ・・・キルケちゃんの視線が痛い。「そうよ。私は・・小さな頃からずっと想っている人がいるもの。」と小さく呟く。


「ふうん、それが例のお前が助けたいと言っていた塔の奴か?」相変わらず直球だ。

「うん・・。」

「というか、お前そいつとは一度しかあった事が無いのだろう?それで好きになったのか?」ごもっともな質問である。なんでキルケちゃんってこんなに小さいのにドンピシャな質問を投げかけてくるんだろう・・。魔術師が見た目通りの年ではないと言う事はわかっているのだが、キルケは何故か口調は立派な大人のものだが、雰囲気が幼く感じるのだ。


リディアは苦笑する。「う、うん・・・まあそうなんだけどね。なんと言ったら良いのか・・キルケちゃんにはわかるかなあ?彼と初めて会った時、すごく不思議な気分だったんだ。泣きたい様な、胸がきゅーって締め付けられて苦しいのに何処か安心する・・。子供心にこの人の事を何があっても手放したくないって思ったんだ。」


リディアの少し恥ずかしげでいて幸福そうな顔をみてキルケはアルファスの事を思う・・。なんとなくわかる感じがするのだ。

「じゃあ、ジェラルドの事は何とも思っていないのか?」


「うんん・・・確かにジェラルド兄様の事も好きだとは思うわ。ちょっと前まで苦手だったんだけどね・・今は信頼できる大切な人・・でも、キルケちゃんの言う様な好きかどうかはわからない・・・。時々あの瞳に見つめられると訳がわからなくなる事があるのよ。それに少し怖い感じがして、兄様には申し訳ないと思うのだけど、どうしてかしらね・・・。」


それは狂おしい恋の瞳・・リディアは実際にはどこかでジェラルドの本当の気持ちに気付いているのだろうが、それを認めたくないのだろう。今の関係を壊したくないのだ・・。いつまでも子供の頃のような関係でいたい。それはリディアの我が侭なのだろうが。キルケは注意深くリディアを観察する。キルケとて、外見こそ幼い成りをしているが生きている年月は人間には及びつかないほど長い。地上に降りてからも様々な人間を観察し、ある程度心が読めるようになっている。

キルケは大げさにため息をつき、一言言った。「つまり、まだお前はお子様だということだ。」自分の事を棚に上げるのはキルケの十八番である。


「・・・・・!キルケちゃん・・・ひどい・・。」リディアがむくれる。だからそう言うところが子供なんだ・・とキルケは思うが口には出さない。いずれこの娘も自分で選ばなければいけない時がくるのだ。ジェラルドの様子を見ていると、やつもやすやすとリディアを手放すつもりはないだろうと思う。見かけによらず意外に粘着質でしつこそうだからな・・と心の中で笑う。

アルファスの事はさておき、贄の男にも少し興味が湧く。

「一波乱・・ありそうだな」キルケはそう言ってにやっと笑った。


船内でリディアとキルケが恋の話に花を咲かせているとは露知らず、看板ではジェラルドや護衛の剣士達が酒盛りをしていた。

「いや、ジェラルド殿下、本当に話がわかりますね〜。」

「いやあ、王族とは思えない腰の低さだ。さすがジェラルド殿下!本当にリディアーナ様の婿としてアステールにくる気はないですか?ジェラルド殿下なら我々も大歓迎ですよ!」

「ははっ。残念ながら、リディアには振られっぱなしなんだよね。どうしてかなあ、この俺の熱い思いをわかってくれないなんてっ!」

『わははははは』皆の笑いが重なる。こうして1日目の船旅はゆっくりと過ぎていった。

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