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53話:旅路1

「相変わらず時間には正確だな、キルケ。」ジェラルドとリディアが門の前に体を預けるようにして待っているキルケを見つけて駆け寄ってくる。

「当たり前だ。準備はできたのか?」キルケが問う。

「ええ、もちろんよ。これから暫く一緒にいられるのね、キルケちゃん。嬉しいわ!」リディアがキルケの手を取り微笑んだ。

「・・・まあ、な。」キルケが頷く。

キルケを含めて約30人余、馬車と馬に乗る者たちと別れて旅立ち、2日目、大きな港のある町、ウォルガスに到着した。とりあえず出発前に感じた嫌な予感とは違い、ここまで何の支障もなくたどり着いた。


「取り越し苦労だったか・・・」ジェラルドが呟く。

「え、なに?」同じ馬車内に乗り合わせたリディアが無邪気に微笑む。少し前までは自分に対してこんな笑顔を向けてくれる事はなかっただろう。今回の救出劇は色々と不本意なところはあるが、リディアの作らない笑顔をまた見る事ができるようになったのは喜ばしい。

「いや・・・なんでもない。」そういってジェラルドは微笑み返した。


少し開かれた窓の外から港町らしい、潮の香りが漂ってくる。キルケはクンクンと鼻をうごめかして興味新々と言った様子だ。キルケのこういった姿を見るのは初めてだった。いつも外見にはそぐわない口調と態度だったが、こうして窓の外をくりくりとした大きな金色の目をいっぱいに広げ口をぽかんと開けている様は年相応の子供に見える。ついおかしくなって吹き出してしまう。

「なんだ?」視線に気がついたのかキルケから不機嫌な声が発せられる。

「いや・・・お前のそんな様子初めて見たと思ってな・・・。海を見るのは初めてなのか?」

途端キルケの顔は真っ赤になる。「うるさい!海は・・見た事はある。ただ色々と面白いものがいっぱいあるから、ちょっと興味を惹かれただけだ!」

なるほど、港町であるウォルガスは、王都付近の町とはまったく違う形相を見せている。通りに並ぶ白っぽい煉瓦作りの町並み、活気のある魚市場、大きな帆船が幾つも並び、町行く人々も陽気で楽しそうだ。


「見て!キルケちゃん、あれが私たちの乗る帆船よ。」二人は同時にリディアの指差す方を見る。確かに素晴らしく大きな帆船だ。帆船の帆先にはアステールが祀る豊穣と繁栄の女神、アルクレスの虚像が彫ってあり、帆にはアステールの紋章がついている。いかにも王家の船らしい。またまた、キルケは新しいオモチャに夢中になった子供のように帆船を眺めている。やがて馬車が留り、一行は外へでる。潮風が優しく頬を撫でた。天気も申し分無い。

マリアベルが寄ってくるとにこやかに告げる。「リディアーナ様、帆船は後一刻ほどで出航いたします。海を越えればいよいよウリムナ大陸ですわね!」マリアベルも海を渡って違う大陸へ行くのは、昔リディア付きの女官としてユフテスへ渡った時以来だ。心無しか、声が弾んでいる。


この世界には大きく分けて3つの大陸がある。一つはリディアやジェラルド達の国があるリムド大陸、もう一つは古国、ユフテスや大国グランディスが存在するウリムナ大陸、そして最後にパンディッタや、リディアーナの母の祖国スミルナ国があるドーラ大陸。この三つの大陸はもともとは一つの大きな大陸だったとらしいが、いつ、なぜ3つに別れてしまったのかは謎である。

王宮の考古学者達は今のこの魔術と技術の発達した世界の中でミッシングリンクというものがあると騒ぎ立てていたが、結局のところ、まだ何の解決にも至っていないらしい。


「どれくらいかかるんだ?」キルケがジェラルドに問う。

「そうだな、船に乗っているのは3日3晩ってとこだ。ユフテスまでは、ウリムナ大陸についてから1日半の道のりだ。ウリムナは高い山々や森が多いが、山があるのは丁度ユフテスの反対側だ。山越えがあると厳しいからな。」

知っている・・・キルケ達の住む竜の聖地はウリムナ大陸の中でも一番険しい山脈が連なるトレムにあるのだから・・。


「そうか。船に乗るのは初めてだ。なかなか面白そうだな。」キルケは帆船を見上げて言う。

「お前他の大陸に渡るのは初めてなのか?意外だな。あちこち行ってそうなのに・・・」とジェラルドが笑いながら尋ねる。


「残念ながら、ないな・・・」というのはもちろん嘘だが、船をつかって大陸を渡った事など一度もないのであながち嘘ともいえないだろう。

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