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閑話:ルーク少年のご主人様観察日記5

「あっ・・・んんっ・・・はあ・・ジェラルド・・様」

室内からくぐもった喘ぎ声が聞こえてくる。僕はいたたまれずにその場を退出した。自然顔が真っ赤になる。知識として知っていても実際にあーいった声を聞かされるとどうすれば良いのかわからない。このところ、しばらく大人しく真面目にしていると思っていたのだが、どうも今日あの肖像画を見てから殿下の様子はおかしかった。いったい何だというのだろう。


長い渡り廊下を曲がると僕はほうっとため息をついた。

「もう一度・・ペイリュード候にお話を聞いてみようか・・・殿下の様子を教えてくれと言っていたし・・。」僕はもやもやした心を抱えつつ部屋に戻った。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


その頃、ジェラルドは冷めた目でベットに横たわる女を眺めていた。幾ら女を抱いたところで、心の奥底にある飢えた渇望が満たされる訳ではない。

ジェラルドはむっくりと起き上がると、夜着のガウンを羽織る。

「ジェラルド様・・・」女の甘えた様な声が静まった寝室に響いた。

「・・・ちょっとほとぼりを冷ましてくる。」そう短く言い放つとジェラルドは女をベットに残したまま部屋を立ち去った。


慣れたものなのだろう、侍女もそれ以上は何も聞かず、手早く着替えをすませると、静かに扉を閉め出て行った。

城の大きなベランダへ続くドアを開け外にでる。ひやっとした風がジェラルドの側をすり抜けた。ジェラルドは今日ルークが預かって来た肖像画と手紙の事を考える。


その手紙は紛れもなくアステール王国からの信書であった。大抵王族の見合い用にと描かれる肖像画には、必ずその国の王族のみが着ることの事のできる、ローブデコルテを見にまとい、王家の紋章が入った品を一つ手に持っているフォームで描かれる。

アステールでも指折りの画家が描いたであろう、リディアーナはローブデコルテの上にマントをはおり、流れる緑黒の髪に大きめのダイヤとルビーをあしらった冠を付けている。少し誘うように開かれた口元、伏し目がちの大きな黒曜石の瞳、画家が渾身の腕を振るった事は間違いのない、素晴らしい肖像画だった。


だが・・・、なぜ今頃リディアとの見合いの話が持ち上がったのだろうか。しかも国王直筆と思われる手紙を伴って・・・。この見合いは望まれてセッティングされたものだ。普通ならば願ったり叶ったりだと喜ぶべきなのかもしれないが、腑におちない。

ペイリュード侯爵は、すでに結婚した兄嫁の後見人でもあり、また新たに、相手の決まっていないジェラルドに度重なる縁談をもって来ていた。


ペイリュード候爵は現国王の末の弟で王家との繋がりも深い。小さな頃は彼の娘や息子ともよく遊んでいた。それに、奴は知っているはずだ・・・俺がリディアの事をどう思っているのかを。だからこそルークにあんな事を言ったのだろう。昔から何故か奴の前では自分を偽る事ができなかった。いつも何もかも見透かした様な目でこちらを見てくる・・・。


「くそっ」何かはめられている様な苛立を覚える。


「あらあら、こんなところでそんな格好のまま立ち尽くしていては、お風邪を召しますよ、ジェラルド様・・・。」後ろから凛と張りつめた声が聞こえる。


この声は・・「義姉上・・。」ジェラルドの兄、パトリックが最近パンディッタから迎えた美貌の花嫁だった。ライラック色の薄いナイトガウンの上に厚手のチュールを羽織ったその人は流れる淡い金の髪と青い瞳を持っている。

「如何なされたのです、義姉上、こんな夜更けに供も付けず・・・」ジェラルドは少し咎めるようにきつく問いただす。


「あら、それはあなたも一緒でしょう・・?」そういって彼女はにっこりと花開いたように微笑んだ。

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