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9話:殿下の事情2

春先とは言え、朝方はまだまだ肌寒く、はく息はにわかに白くなっていた。ふと庭園に咲き誇る紅色の薔薇の前でジェラルドは立ち止まった。朝露を浴びて匂う様に咲き誇る薔薇園。ジェラルドは昔の事を思い出していた。



ーーー「ねえ、まってよ、まってったら〜」「リディアは足が遅いんだもん、そんなに待ってられないよ!」庭先を走る幼いリディアと僕、リディアはよく僕の後をついて回っていた。少し我が侭だけど可愛い僕のお姫様・・父上に連れられて良く遊びにきていたアステールの庭は、僕の庭も同然で、女兄弟のいない僕はリディアがそれはそれは可愛くて仕方が無かった。


誰でも無条件に自分を愛し信頼してくれる者が近くに居れば、自然と慈しむ様になるだろう・・だが、ある時からリディアに小さな変化が起きたのを僕は見逃さなかった。

あれは、、そうだ、アステール王がユフテスへ友好訪問して帰ってきてから数日後だっただろうか・・いつもの様に、リディアを訪ねて父上と一緒に城へ上がった日、リディアの様子がおかしかった。


何日間か泣きはらしたであろう目はウサギの様に真っ赤でその白いほっぺたに涙の筋ができるのではないかと思うほどだった。どうしたんだろう・・・誰が僕の可愛いリディアをこんなに泣かしたの?リディアに問いかけてみても彼女の話はあまり要領を得ない。

「あのね・・男の子がね・・・(ひっく)塔の中にいて、私助けてあげたかったのに何も出来なくて・・」しゃくり上げながら必死に言葉を紡ぐ。


男の子・・・?そいつが僕のリディアをこんなに泣かせているのか・・?なんだか、あった事もないその少年の事を聞くたびに、ある種の苛立が僕の中に沸き起こった。なんで、そんな1度しかあったことのない男の事でそんなに泣く?どうしてそんな辛そうな顔で塞ぎ込むんだ?


正体のわからない不安を抱えたまま、リディアを不憫に思う気持ちと、自分の募る苛立を持て余していた。それから、僕がその苛立の正体に気付いたのはそう遠い事ではなかった。15歳になって、リザルの高等学校に入学した頃から、僕はリディアを少しずつ遠ざけていった。自分の中にある狂気を押さえ込むのに必死で、大切なリディアを傷つけたくはなかった。そう、僕は彼女に嫌われたくは無かったから・・そんな僕の気も知らずにリディアは何度も僕の心を揺らし続けた。無邪気で残酷な僕のお姫様・・・・頼むから・・・お願いだから僕に君を傷つけさせないで欲しい。


リザルの高等学校に入学してすぐ、僕はユフテスの王子と出会う事になった。何の因果か彼は僕と同室のルームメイトだったのだ。王族といえども、貴族の子女らとまったく変わらず、よっぽどの理由が無い限り、個室ではなく、平等に二人一部屋のさして広くもない部屋があてがわれた。教育は、才能があれば学年に関係なく、いくらでも最高の教育が受けられる。王族として最低取らなければならない教科はほとんどユフテスの王子も同時に取っており、望む、望まないに関わらず、僕はカイルとほとんどの時間を一緒に過ごす事になった。


ーーこいつがリディアの話していたユフテスの双子の片割れ・・?日に当たると黄金のようにキラキラと輝く蜂蜜色の髪とはしばみ色の瞳。嫌みな程整った顔立ちにイラッとした。こいつじゃない、こいつが僕のリディアを泣かした訳じゃない・・だが、こいつと同じ顔をした奴にリディアは・・・


「あの・・こんにちは、初めまして。僕はユフテルのカイルと言います。今日から宜しくお願いします。」と同室になった奴は僕に手を差し出した。


「ああ、エストラーダのジェラルドだ。宜しくな。」相手に気取られない様に、慎重に手を握り返す。華奢な体と思っていたが、ごついとまでは行かなくとも彼の手はそれなりの訓練を施された手だった。


「・・何か訓練を受けているのか?」


「いや、、君と同じ程度のものだと思うよ?基礎訓練に剣や弓・・」そういって奴は僕の目を見てにっこりと笑った。


ーーこいつ・・見た目と中身のギャップがありそうだな・・。それが俺とカイルとの出会いでありファーストインプレッションだった。

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