92話:そして永遠の終焉へ
あと1話で終わります。ここまで持ってくるのに長かった・・・・T_T
その日、ユフテス王城で行われる予定だった第一王子の成人の儀式は思わぬ波紋を諸国に広げた。
竜の咆哮を聞いた者は国中に溢れ、もはやその存在を隠しておく訳にもいかず、だが古の契約が解かれた以上、後の事も考えた上で今迄国の秘密とされていた王家の歴史を真に語る事によって諸国と新たな関係を見いだす事にユフテス王家は心血を注いだ。
今迄、謎とされていた古の竜、そして隠されていた第二王子の存在を告げると同時に現王はその王位を第一王子カイルに譲ると宣言し、また存在が明らかにされた第二王子は静養の為、引退を宣言したユフテス元王とその妃と共に医療技術の高いアステール帝国へ行く事が告げられた。
諸国はユフテスの新王となった若き王に祝いの言葉をのべると同時にユフテスで起こったこの一連の事件についてある者は密偵を放ち、ある者は何らかの情報を引き出す為に王に近づいた。
古の竜に守られていた王家はこの時より新たな道を歩む事となる。
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〜5年後〜
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アステール帝国王宮の南奥に位置する小さな庭園、その一角に一人の若い女性が佇んでいた。
「母様!」
振り向くと小走りに近づいてきた小さな娘を抱き上げ、娘と共に歩いて来た人物へと目を留め穏やかな微笑みを返す。その人物と小さな娘を連れてリディア−ナはゆっくりとした動作でこの庭園に設置された大理石の椅子に座り小さな娘の手に乳母が用意した優しい味のするクッキーを持たせると、その子は嬉しそうにはにかみながら食べ始めた。
「あまり体を冷やすと子にさわるぞ・・いくら春先とはいえ、まだ冷える」心配そうにアンゴラの毛で織られたケープをかけられる。
「ありがとう」己の座る大理石の椅子にも同じアンゴラの敷物が敷かれている。夫の過保護さに苦笑しながら己を見つめる瞳を見つめ返した。
「報告・・・していたんです。この子の事を」そういってまだあまり目立たない己の腹を優しくさわる。
「そうか・・・」
「かあしゃま、もう一個欲しい!」テーブルの上に置かれた皿からもう一つクッキーを取ると愛娘の手に渡し、栗色の巻き毛とハシバミに近い瞳を持つ我が子の髪を梳くようになぜながらリディアはこの5年の事を思い返していた。
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あの日、キルケと共に竜が去った後、カイル王子と自分たちはこの後に起こるであろう混乱と対策を話し合い、またすぐに故国へ鏡を使い父王へと報告と願いを申し出た。
すなわち、医術技術の提供である。成人の儀式と共に、簡易ではあるが王位の移譲が執り行われ、すぐさま私たちは名を取り戻した第二王子、エドワードと共に帝国に舞い戻った。
手厚い看護により徐々に体調を回復させていったエドワードは両親の謝罪を受け入れはしたが、その後二度と祖国ユフテスの地を踏む事はなかった。
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「エドワード様今日はご機嫌いかがですか?!」
そういって毎日自分の体調を気遣ってくれる娘が愛おしかった。あの昔、塔の中で出会った少女は眩しいほど美しく成長していた。塔から助け出されてから1年が経ち、当初の死にそうであった状態からは随分回復したものの、長く塔の中で暮らしていた弊害は思わぬ所にでていた。
まず、天気のよい日は外に出る事さえ叶わない。明るすぎる光は己の両目に多大な負担をかけるらしく、体調の良い日でも外に出かけるのは曇りか雨の日だけだった。
王位を返上した両親はアステール王の好意で王都に別邸を与えられ、そこから毎日のように自分の元へと通ってくる。兄も王位を継いだばかりで忙しいというのに何かと理由をつけてはアステールまでやってくる。
先日初めて自分の異母兄弟にあたるという妹と弟達にも対面した。
こんな幸せが自分の元に訪れようとは思ってもいなかった。だが許されるのであれば、もう少しこの幸せなゆめを見ていたい・・・・。リディアーナ、愛しい君をまた泣かせることになるかもしれないが・・・・
アステール王の許しを得て、私はリディアーナと結ばれた。そしてリディアーナは私にもう一つの宝を与えてくれたのだ。元気な産声をあげて産まれて来た私の愛おしい娘、名をレティシアと名付けた。
ある月の美しい夜、ジークフォルン殿に頼んで密かに居所を突き止め手紙をだしていた人物が私の元を訪れた。彼にしか頼む事ができない私の最後の我がままを聞いてもらう為に・・・・
そしてリディアーナ、孤独と暗闇の中から救い出してくれた君に永遠の愛を誓おうーーー