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91話:古の契約の破棄

その咆哮はユフテスの山々を巡り、王子の成人式の為に集まっていた諸国の使者の耳に迄届いた。大地を震わすようなその咆哮に人々は恐れおののき、ひそひそと、または大げさに噂をし合うばかり。本来ならばこういった事態を治めるべきはずのユフテスの王家からは使者の一人もたつことなく沈黙を貫いていた。


「この声は?!」突然響き渡った咆哮にジェラルドはぎょっとして振り向いた。その場に居合わせた、他の男達もその声に空を仰ぎ見る。

「彼の竜の咆哮か・・。」とグランディスの将軍であるイルディアスは腕に抱いた幼帝オズベルトを守る様につぶやいた。

「もうあんたには関係の無い事だ。早く皇帝を連れて国に帰るんだな。これに懲りて二度と竜やこの国に関わらない事だ。」ジェラルドの言葉にイルディアスは頷いた。


突如現れた魔法陣と共に消えてしまった竜の代わりにエストラーダの第二王子ジェラルドらからの言づてが告げられたのは明け方の事だった。調べさせた魔導士によると、どうやらこちらが最初竜をユフテス王城から連れ出した時に使った魔術の痕跡を辿られまた別の場所に移転させられたらしい。誰だかは知らないがなかなかの腕前の魔術師である事は間違いない。消えてしまった竜を探すために兵を出そうとしていた所に言付けられた内容は驚くべきものだった。

それは自国の宰相の裏切りと皇帝オズベルトが誘拐されあろう事か竜の生け贄にされようとしていた事、またそれをジェラルドらが阻止し、皇帝を保護している事、普通であれば一笑にふしたであろう内容だが、宰相とあの魔術師にはもともと良い感情を抱いていなかったイルディアスはすぐに直属の部下にその言付けの真偽を確かめさせた。

そして、分かった真実は今思い出しても腹に据えかねる。宰相は持てる限りの財宝をかき集め逃亡し、またそれに手を貸したとみられる魔術師のジルベスターも未だ見つかってはいない。

「本当に貴殿には感謝している。よくぞオズベルト様を救い出してくれた。」


「まあ・・・別に感謝されるほどの事はない。それよりも、先ほども言った通り、これからはいっさい竜には関わらない事だ。」

「・・・貴殿らは彼の竜の元へ?」

「ああ、仲間が待っているからな。」

「最後にひとつ、彼の竜にあったら、私からの非礼を是非謝っておいて頂きたい。」

「心得た。」ジェラルドは身を翻し、共に来たジークフォルンと館を目指し走り出した。一刻も早く愛しいリディアーナ達の元へ戻るべく・・・。


ジェラルド達がグランディスとの交渉をしていたと同じ頃、カイル王子もまた、ユフテスの王宮へと戻ってきていた。父と母、そして家臣達にすべての事を伝えまた説得する為に。

そしてカイルは彼らの前で今迄の古きしきたりと忌まわしい贄の習慣を廃し、これからあるべき未来の王国の姿をこんこんと語り続けた。そして、彼らを連れ出して来たのだ。この王国を古から守り続けて来た竜の最後を見届ける為に。


そして今、吼える竜の傍ら、横たわる己の息子を抱き上げる王の姿とそれを悲痛な面持ちで見つめる王妃の姿がそこにあった。今更ながらに彼らは思い知ったのであろう。双子であるはずのカイルと違い下手をすると子供の体重よりも軽い、やせ細った青白い顔の息子を王は瞬きすることもなく見つめていた。

「儂は・・・本当になんて愚かな事を・・・・。」

「あなた・・・・」


空を見上げて大きな咆哮を叫んだ竜は嘆き悲しむユフテスの王達を一瞥した。その次の瞬間見上げる巨体を持った竜の姿はなく、流れるような美しい銀髪と銀ががった青い瞳を持つ男がその場に立っていた。

男はゆっくりと魔法陣の中に倒れているキルケの側迄くると、そして唖然とするリディアーナの手の中から愛おしむようにその小さな体を抱き上げ、彼らに振り向いた。


「ユフテスの王よ。古の時、我がユフティアと盟約した血の契約はこの時をもって破棄された。その者の尊い命の灯によって・・。ユフティアの血を引く者達よ、雄々しくあれ、これからは其方達が国を導いて行くのだ。そして、我を救ってくれたその小さきものこそ其方達の宝と知れ。命の代価は命で購われる、だがその正き者にはまだ命の灯が残っているのだから。」

そう言い残し、白き、嫌銀の竜は金の竜をその腕に抱きその場から消え去った。

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