89話:竜の一族6
この魔力は・・・!
キルケは鮮やかな魔法陣の中から出てきた人物の名を驚いた様につぶやいた。
「ミルセ?なんでお前が此処に?!」
「僕の力が必要なんでしょう?もっと僕を頼ってよ、キルケ。」
突如現れた白髪の美しい青年に皆驚きのあまり言葉も無く動かない、ただ一人、ジークフォルンはじっくりと白髪の青年を見つめたまま面白そうに笑った。
(へえ、、、ミルセディまででてくるなんて、これはもうキルケとアルファスだけの問題では無いってことかしら?それにしてもあのちっさかった白竜が美味しそうに育ったわねえ。またキルケちゃんとは違った魅力があるわ。)
固まっていた仲間の内からジェラルドがおずおずと切り出す。
「てかさ、お前の知り合いなのか、キルケ?」
その言葉に青年は貴族や王族かと見まごうような優雅な動作でお辞儀をする。
「初めまして、人間の皆さん。私は古の竜の一族の一人、白竜のミルセディと言います。」
キルケが止めるより早くミルセディは自身を紹介する。その場に居たほとんど全員がその台詞にまた驚き固まる事になった。
「え、えええ?」
「竜・・・?」
「まさか・・・、我が国の古の竜以外の・・?」
「ええ、そこにいるキルケも我らの同族ですよ、ね?」と振り向き様に微笑んだミルセの姿にキルケは唖然としながら仕方ないと言った様子でかむりを振った。
「「「「ええええええー?????」」」」
立ち直りが一番早かったのはリディアーナだった。
「ほ、ほんとなの?キルケちゃん。」
「・・・・。仕方ないな。本当の事だ。だが、ミルセ、何故お前まで一族の禁を犯して地上へ?」
「一蓮托生ですよ、キルケ。私たちだって本当はアルファスの事を貴方と一緒に探しにいきたかった。だけど、私はキルケの様に強い体を持っていない。物理的に無理があるんですけどね。ですが、この間貴方が里に帰ってきてから、ずっと考えていた事なんです。でも、ちゃんと長から承諾は貰ってますよ。「必要最低限」の人間界への干渉と言う事で。あ、盗み聞きしてた事については謝りますけどね。ふふ。」
「そう・・か」
「そうです。それにここに居る人達は皆、あなたが信頼している人間達なのでしょう?貴方が信じるものを私も信頼しますよ、キルケ。」そういってミルセディは部屋にいる一人一人を見回す。
ミルセと目があった者達はみな自然と頷き返していく。そうだ、キルケ達がなんであろうと、俺たちは仲間なのだと。
「わかった、ミルセ、お前の手を借りよう。隣の部屋で眠っている王子を見てやってくれ。どちらにしろ、時間がない。明日の朝決行だ!」
ミルセはリディアーナとマリアベル、そしてカイルに付き添われ、隣室へと移っていった。
残されたもの達はしばらく毒気の抜かれたような顔つきをしていたが、また話し合いを始めた。
「なるほど、お前のその非常識な魔力の多さの源が分かったぜ・・・。」とつぶやくジェラルド。
「古の竜か・・。強いんだろうなぁ?これが終わったら一度相手してくんねーかな。」と言ったカルナをジークフォルンがぶっ叩く。
なんだかんだ言いながら態度の変わらない仲間達を心強く思うキルケだった。
結局それぞれのメンバーはその夜眠る事無く朝の決行を迎える事になる。