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1-39 茨たち、のんびりした時間をすごす

 生憎目の前の大型商業施設はペット同伴禁止であるため、僕たちはそのまま駅へと向かった。


 目の前の階段を上り、だだっ広い空間を歩く。途中駅の改札口を横目に進めば今度は下りの階段が現れる。そこを下りると僕らは駅に隣接する形で店舗がずらりと並ぶ駅北口へと到着した。


「とりあえずここで昼食を買おうか」


「これだけお店があると悩むわね。どの食べ物も初見だからこそ余計に」


 ティアナはどこか新鮮な表情でキョロキョロと店舗へと視線をやる。釣られるようにモフ子も辺りを見回しており、リンクした彼女らの動きが大変可愛らしい。


 僕は思わず笑みをこぼすと「左から順に見ていこうか」と告げる。

 それにティアナはうんと頷き、僕たちはその場から移動する。


 まず一番左には某有名コーヒーチェーンが店舗を構えていた。中では仕事をする会社員や、勉強する学生、談笑をする老若男女の姿で賑わっている。


「ここはドトゥールコーヒーというお店でね。主にコーヒーという飲み物を扱っているんだ」


「茨はよく飲むの?」


「僕は宇治抹茶ラテっていう別のメニューをよく頼むかな。甘くて美味しいんだよ」


「へぇ……」


 ティアナの視線が店の入り口付近に置かれたメニュー表に吸い寄せられている。じっと見つめるその表情にはどこか興味を惹かれているような色が見てとれる。


「もしよかったら買ってこようか?」


「いいの?」


「もちろん。昼食には飲み物も必要でしょ。で、どれか気になったのある?」


「どれも聞き馴染みがないから正直全部気になったわ。でもそうね……せっかくだから定番のアイスコーヒーというものにしてみようかしら」


「了解。苦味が強い飲み物なんだけど、甘みはあった方がいい?」


 ティアナは少し悩んだ後うんと頷いた。


「おーけー。それじゃ買ってくるからちょっと待っててね」


「わかったわ。よろしくね、茨」


 ニコリと微笑むティアナとどこか上機嫌なモフ子に見送られ、僕はドトゥールコーヒーの店舗へと入った。


 レジへ向かうと2人ほど並んでいたためその後方へと並ぶ。そして数分後自分の番になったため、僕は予定していた飲み物を注文した。


 指定された金額を支払い受け取り口で待っていると少しして飲み物が手渡される。アイスコーヒーと宇治抹茶ラテである。

 僕はアイスコーヒーにガムシロップとコーヒーフレッシュを入れると、飲み物を手に店を出た。


 ……よかった。特に絡まれたりしていないみたいだ。相変わらず数多の視線を一身に受けているけど。


「お待たせ。はいこれ、ティアナのコーヒーね。って持てそう?」


「問題ないわ……ってあっ」


 モフ子が突然ティアナの元を離れ、地面へと降りた。どうやら状況を察してどいてくれたみたいだ。


 さすがモフ子。賢い子である。


「モフ子ありがとね」


「ワフッ!」


「それじゃ改めてどうぞ」


「ありがと。えっと、これはここから?」


 そっか、ストローの存在も向こうにはないのか。


「そう、こんな風にね」


 言葉の後、僕は宇治抹茶ラテを飲む。途端に口の中に甘さとミルク感、そして宇治抹茶のほろ苦さが広がる。


 相変わらず美味しいなぁ。


 思わず微笑みを浮かべる僕を目にし「いただきます」の声の後、ティアナは同様にストローへと口をつけた。


「…………っ!」


 目を見開くティアナ。


 やっぱり初手コーヒーはミスだったか?


「どうかな?」


「とても美味しいわ。確かに独特な味なんだけど、この苦味と薄らとある酸味が最高ね。それに香りも……すごくいい」


 普段よりもどこか早口でティアナはそう言う。なるほどどうやらかなり気に入ったらしい。


「気に入ったようでよかったよ。あ、よかったらこれも飲んでみる?」


「え、いいの?」


「もちろん」


 僕は手にした抹茶ラテの飲み口をティアナ側へと向け、彼女に近づける。


「それじゃ遠慮なくいただくわね」


 ティアナはそう言うと、こちらへと顔を近づけ抹茶ラテを口に含んだ。


 ……あっ、間接キス!?


 ここで僕はふと気がつき、内心慌てる。しかし目の前のティアナは特に恥ずかしそうな素振りを見せない。……きっと異世界にはない文化なのだろう。


 そうなると1人だけ狼狽するのも滑稽であるため、僕はなんとか平静を装った。


「どう?」


「甘くて美味しいわ。茨が気に入るのも納得ね!」


 ティアナはそう言うと柔らかい笑みを向けてくる。その笑顔にいったい何度目か見惚れながらも、僕は「でしょ?」と返す。


「茨もいる?」


「えっ」


「ほら、貰ってばかりじゃ悪いし」


「そういうことなら」


「はい」と差し出されたアイスコーヒー。僕はティアナの唇とストローへ視線を行き来した後、一度も二度も同じでしょと自身に言い聞かせ、ストローへと口をつけた。


 スーッと吸い込めば、口内にほろ苦さが広がる。しかしその中に妙に甘さを感じるのはガムシロップの力か、それとも今のシチュエーション故か。


「美味しい?」


「うん、世界一」


「ふふっ、大袈裟ね。でもどこか納得してしまう程美味しいのは間違いないわね」


 どうやら僕のニュアンスは伝わってないみたいだ。でもそれでいい。むしろ伝わってたらキモがられる可能性もあるので、彼女の反応は僕からすれば最善であった。


 ◇


 その後も順に店を回った。1つ1つ紹介していき、結果的に僕たちはカツサンドとデザートのクレープを昼食に選んだ。


 これらを手に、僕たちは近所の小さな公園へと向かう。すると運良くテーブル席が空いていたため、僕たちはそこに向かい合うように腰掛ける。


 燦々と照りつける太陽に、未だ涼しさを届けてくれる風。近くの駅の喧騒や、公園で遊ぶ子供たちの声が僕たちの心をどこか癒してくれる。


「素敵な場所ね」


「ワフッ!」


 どうやらモフ子にも同様の感性が備わっているようで、ティアナに同調するように吠える。

 そんなモフ子の目の前にはお皿とドッグフードが置かれている。実は今日昼食を外でとることを想定し、家から持ってきていたのである。


「さてそろそろ食べようか」


「そうね」


「ワフッ!」


 僕の声に彼女たちが反応し、こうして「いただきます」の後食事を開始した。


 ◇


 昼食を終えた僕たちは、公園で遊ぶ子供たちや駅周辺を歩く人々の姿を眺めながらゆったりとした時を過ごす。


 その中で僕は今日半日を振り返るようにティアナに問うた。


「家の近所だけだけど、外の世界はどうだった?」


「そうね……町の作りも、服装も、人々の抱く感情も何もかもが新鮮だったわ」


 言って微笑むティアナの姿を見れば、彼女が心の底から楽しんでくれていることがよくわかる。


 僕はどこかホッとしながら「楽しんでもらえたならよかったよ」と言った後、その視線を自身の膝の上へと移動する。


「モフ子はどうだったかな?」


「ワフッ!」


 やはり外の空気は格別だったようで、モフ子は僕の手にじゃれついた後、元気よく吠えた。


「ふふっ。モフ子様も充実した時間を過ごせたみたいね」


「だね」


 2人の楽しげな姿を目にすると、頭の中で次はどこに連れていこうかと様々な候補が浮かんでくる。


 モフ子が走り回れる自然公園系もいいし、ペット可の遊園地やレジャー施設なんかに行くのもいいな。あ、アウトレットとかも新鮮で喜んでもらえるかもしれない。


「茨?」


「あ、ごめんごめん。つい次の行き先を考えちゃって」


「次……次があるのね」


「もちろん、ティアナたちが望むならだけどね」


「茨がいいのなら是非行きたいわ。今日外に出て、もっとこの世界のことを知りたいってそう思ったもの」


「ワフッ!」


「そっか。なら近い内に外出予定を立てておくから、楽しみにしてて」


「えぇ、期待して待ってるわね」


 早くも次の予定の話なんかもしつつ、こうして僕たちはティアナ初めての外出をのんびりと楽しんだのであった。

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