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1-38 ティアナ、柄の悪い男たちに絡まれる

「凄い人の数。それにずいぶんと大きな建物ね」


 ティアナが大型商業施設を呆然と見上げる。彼女が抱えるモフ子もその大きさに圧倒されたのか「ワフッ」とひと鳴きする。


「ここはうちの町で一番人が集まる場なんだ。特にこの大型商業施設VeVeにはいろんなお店が入っていてね、ここだけで買い物が完結するほどなんだよ」


  もちろん静岡市や浜松市などの都市部、もしくは東京をはじめとした大都会と比較すれば人通りは多くないし、 VeVeも規模としては小さい。

 しかしそれでも田舎では考えられないほどに人でごった返していることには間違いなかった。


「大型商業施設……大商店のようなものかしら」


「異世界でいえばそうかもね」


「へぇ……」


 感心した様子のティアナ。チラと横に目をやれば、彼女の可憐な唇には薄らと笑みが浮かんでいる。


 どうやら中に入らずとも楽しんでもらえているようだ。


 そんなティアナの様子に釣られるように僕も笑みを浮かべていると、ここで周囲の声が耳に届く。


「なにあの子」


「えっ、まって。やばくない?」


「綺麗……」


 ……当たり前だけど人通りが増すと、ティアナに対する視線も増えるな。


 辺りを見回すと多くがこちらに目を向けている。時折スマホを構えるものもいるが、どうやらティアナの魔法により写真は撮れていないようだ。


「そろそろ次いこうか」


「えぇ、わかったわ」


 再び横並びで歩き出す。もちろん周囲からは数多の視線が突き刺さる。

 それを多少煩わしく思いながらも、特に気にせず目の前の駅に向かって進んでいると、ここでティアナが突然ピクリと反応をした。


「ティアナ?」


 ……いったいどうしたんだろ。


 彼女の視線を追うように前方へと目を向けると、そこには僕たちの方へと歩いてくる3人の柄の悪い男の姿があった。彼らは何やらニヤニヤとしながら、しきりにティアナを指差している。


 ティアナの反応、そして彼らの様子から嫌な予感を覚える。


「ティアナ、向こうに──」


 右方を指差し、そちらへ向かおうと声掛けようとしたところで、男たちが僕らの行方を遮るように身体を滑り込ませてくる。


「おっと……」


「邪魔なんだけれど」


 ティアナが冷たい視線を男らへと向ける。男たちはその鋭い目に若干気圧されたような表情を浮かべるが、すぐにそれをニヤニヤとしたいやらしい笑みへと変えた。


「ヒュー……そそるねぇ」


「なぁ、嬢ちゃん。そんな冴えない男じゃなくて、俺たちと遊ぼうぜ〜」


「いやよ」


 ツンとした態度で断るティアナ。

 男たちはその表情に若干の苛つきを見せる。しかしすぐに笑みを貼り付けると、ティアナや僕の体躯を見て力づくでいけると判断したのか「んなこと言わずにさ、ほら……」と言いながらティアナへと手を伸ばし──


「……っ!」


 バッと男たちとティアナの間に僕が入る。男の1人が一歩前に出ると、片眉を上げながらガンをつけてくる。


「あ? んだよガキ。王子様気取りか?」


「せっかく楽しい時間を過ごしていたんです。邪魔しないでもらえませんか?」


「おいおい、随分と舐めた口聞いてくれるじゃねぇか! あぁ?」


 男が凄む。いつもならば怖気付きそうな場面であるが、不思議と僕の心に恐怖はあまりなかった。


 ……後ろにモフ子とティアナという守るべき存在がいるからかな?


 チラと後方に目をやる。ティアナは困惑した表情で、モフ子は愛くるしい瞳でこちらを見つめている。


 男の1人が口を開く。


「俺たちゃそっちの嬢ちゃんに用があるんだ。ガキがでしゃばってくるんじゃねぇよ」


「そうだぜ。あまり邪魔するようだと……わかってるよなぁ?」


 男は拳を握りしめ、こちらを馬鹿にしたような笑みを浮かべてくる。

 僕はなるべく平静を装いながら首を傾げる。


「邪魔するとどうなるんですか?」


「こうなるんだよ……ッ!」


 言葉と共に目前の男1人が拳を握り、大きく振りかぶった。


 きゃー! と周囲の人々から悲鳴が上がる。


 ……嘘だろ!? こんな場所で殴りかかってくるか普通!?


 さすがにそこまでの強硬手段を取るとは思わず、心の底から驚いてしまう。しかしすぐさま、対処しなきゃと思い立ち──


 ……ってあれ?


 ここで何故か長時間思考できていることに気がつく。おかしい。殴るのなんて1秒にも満たない時間で行われるもののはずなのに。


 不思議に思いながら目の前に視線をやると、いったいどういう訳か、こちらに殴りかかってくる男の動きがゆっくりに見えた。


 ……なんだこれ。ゾーンってやつか?


 何はともあれ好都合であることに変わりはない。僕は手を前に出し男の拳を受け止めた。


「……なっ!?」


 男が驚愕に目を見開く。僕は間髪入れずに足を振り上げると、思いっきり男の股間を蹴り上げた。


「……ヒュッ」


 男は情けない声と共に、股間を押さえて倒れ込む。彼の仲間である2人がすぐさま駆け寄り、男に肩を貸す。


「どいてくれますか?」


 僕は再度問いかける。すると男たちは壊れたおもちゃのようにカクカクと頷いた後、逃げるように僕らから離れていった。


 ……ふぅ。どうにかなってよかった。


 心の中で安堵の息を吐いた後、振り返る。


「大丈夫だった?」


「別に私でも対処できたのに」


 なんであんな無茶をしたのとばかりに、ティアナがジト目を向けてくる。

 僕は照れ臭さに頭をかきながら言葉を返す。


「守らなきゃって、とっさに身体が動いたんだから仕方ないじゃん」


「守るって私の方が強いのに」


 ……おっしゃる通りである。


 僕が苦笑すると、ティアナはその頬をうっすらと赤らめながら言葉を続ける。


「……でも、なんだか悪い気はしないわね。ありがと、茨」


「あはは。どういたしまして」


 ◇


 こうして平和が訪れたことで、僕たちは再び歩き出す。


「そういやさっき拳がゆっくりに見えたんだよね」


「身体強化かしら。魔力の扱いを覚えたことで咄嗟に使えたのだと思うわ」


「身体強化。つまり魔法か……」


 ほんの一瞬、それも無意識下での使用だが、それでも魔法の凄さを身をもって実感した。


 それと同時に思う。今後きちんと魔法を覚えたら、いったい僕はどうなるのだろうかと。

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