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1-10 茨、改めて今後について考える

次回から話が動き始めます。

「南條さんと会話しちゃった……」


 あの後少し世間話をした僕達だったが、散歩の途中だった事もありすぐに別れた。


 南條さんとの会話だ。そんな貴重な機会が次いつ訪れるかわからない。いや、もしかしたら一生訪れないかもしれないが、だからといってこちらの都合でこれ以上この場に縛り付けとくことはできないと、僕から話を切り上げたのである。


 そんなこんなで南條さんと別れた僕とモフ子は散歩を再開した。


 どこか現実感の無いような、フワフワした状態のままモフ子を抱え歩く。


 モフ子は僕が普通じゃない事に気付いたのか、キョロキョロと周囲に向ける視線を、時折こちらへと注ぐ。

 その視線に気づいた僕は、未だ何とも言えない状態のまま、ニコリと微笑むと、


「ありがとねー、モフ子。君のおかげだよ」


 その言葉に、モフ子はまるで僕の感情が伝わっているかの様に、


「ワフッ!」


 と楽しげに、元気の良い鳴き声を上げた。


 ◇


 散歩を終え、帰宅した僕は、リビングの床であぐらをかく。その目前にはモフ子の姿があり、差し出した僕の右手と楽しげにじゃれている。


 その中で、僕の右手に噛み付く事もあるのだが、恐らく力を加減しているのだろう、今まで一度たりとも痛みを覚える事はない。


 ──本当、頭が良いよなぁ、モフ子は。


 最早頭が良いで片付けて良いのか疑問に覚える程の理解力の高さではあるが、だからと言って何か支障をきたすという事もなく、寧ろこちらとしては助かる事ばかりである為、僕は早急に考えるのをやめた。


 そしてその代わりとばかりに、別の事柄に思考を向ける。


 そう、これまで幾度となく頭を悩ませてきた事柄……即ちモフ子を僕が飼うか、それとも里親や保健所等他に任せるかだ。


 僕個人としては、できれば飼いたいと思っている。当初から思っていた事であるが、その思いは日に日に大きくなっている。


 しかしその為には、金銭面と時間面で考えなければならない事がある。


 まず金銭面であるが、こちらに関しては当分問題ないと言える。

 幸いにも両親が用意してくれた生活費がそこそこある上、アルバイトにより稼いだお金もある程度残っている。


 それこそ、モフ子を養うだけの余裕はあると言える程度には。


 こちらは元々さほど心配はしていなかった。


 問題は時間面。つまり、ゴールデンウィークが終われば、僕は毎日学校に行かなければならず、必然的にモフ子がひとりぼっちになる時間が長くなるという事である。


 何度も言うが、モフ子は間違いなく天才だ。それこそ、今までネット等で話題になった天才犬を遥かに超えるレベルで。


 故に、今までの行動を考えれば、間違いなく僕の言いつけを守り、きちんとお留守番できる事であろう。


 しかし、そうは言ってもモフ子はまだ子犬である。


 いくら天才とは言え、子犬は淋しがり屋だとも言うし、僕の心情としても1匹でお留守番というのはどうしても抵抗がある。


 ……ここをどうにかしない事には、モフ子を飼うなんて言えないな。


 思いながら、僕はうーんと唸る。


 ──親戚に預かってもらう? いや、近場に親戚が居ない。


 ──ならば、友人家族に預かってもらう? ……いや、そんな事を頼める程仲の良い友人がそもそも居ない。


 ──あ、なら南條さんに……。いや、それこそ不可能だ。幾ら両親以外でモフ子の事を唯一認識している存在とは言え、モフ子を預かってとお願いできる程の間柄ではない。


 考え、考え──


「……うーん、駄目だ。やっぱり良い方法が思いつかない」


 しかし、やはりどうしてもモフ子を1匹で残さずに済む方法が思いつかず、僕は思わず眉根を寄せる。


 そんな僕の心の内を敏感に察知したのか、今まで右手とじゃれていたモフ子が動きを止め、こちらへと視線を向けたまま小さく首を傾げる。


 ──心配させちゃったかな。


「大丈夫だよ、モフ子。何でもない」


 言ってニコリと微笑んだまま彼女の頭を優しく撫でれば、モフ子は再び僕の右手とじゃれ始める。


 そんな愛らしい姿に、僕は心の底から柔らかい笑みを浮かべつつ、


 ……大丈夫。まだゴールデンウィークは数日ある。その間にきっと良い方法が見つかる筈。


 と、今後の自分に託しつつ、1人うんと頷いた。

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