初ホームルーム
「マジか……」
幸か不幸か、僕の担任は最初に会った若い男の先生だった。
「はい、まず俺の方から自己紹介をさせてもらいまーす! 澤谷爽です! 君たちみんなの面倒を1年間見ます! 仲良くしてねー!」
名前の通り爽やかな笑顔で、教師らしくない挨拶をする。
男子と女子の出席番号順で席が分かれているが、心なしか女子の方から盛大な拍手が聞こえる。
第一印象は上出来らしい。
「じゃあ、女子の方から、1人1人自己紹介をお願いします! 俺の発表みたいな感じでラフにやってくれれば大丈夫だよ!」
そうだ、ここから自己紹介が始まる。
この自己紹介で第一印象がほぼ決まる。
ここで良いスタートを切れるかどうかが重要だ。
女子からだから、雰囲気に合わせていこう。
自己紹介が始まってすぐ、上坂さんの番がきた。
「初めまして、上坂明梨です。 誕生日は12月22日です。 趣味は…………えと、料理を……することです。 よろしくお願いします」
恥ずかしそうに笑って席に戻る。
彼女の一挙手一投足全てが、圧倒的な存在感を発している。
先程の笑顔で男子生徒の大半はオトされたようだ。
まあ、気持ちはわかる。
僕も最初に彼女の笑顔を見た時は引き込まれる気分になったし、今も彼女といると心臓が爆発しそうになる。
にしてもこいつら、わかりやすい人たちだな……。
その後も順調に自己紹介は進んだ。
ただ、順調とは言っても、上坂さんの自己紹介で見惚れていた男子数人が、突然上坂さんに猛烈なアタックを仕掛けるという事故はあった。
上坂さんもやはりそういうのには慣れてるのか、1人ずつ丁寧にお断りさせてもらっていたが。
「次、友潟君」
何故かにやにやしている澤谷先生は無視して、前に立つ。
今までの流れでいくと、上坂さんに向けてアピールする羽目になるので、ここは一旦変な流れを切るためにも、無難に行くのがベストだ。
「えーっと、友潟優です。 誕生日は5月22日。 趣味は……読書ですかね。 よろしくお願いします」
早口にならないように、声が裏返ってしまわないように、極めて冷静に、かつ簡潔に自己紹介を済ませた。
上坂さんを視界の端に捉えると、両手を合わせて僕に少しだけ頭を下げた。
そりゃあ、あの男子たちの対応も疲れることだろう。
第一印象は悪くない……はずだ。
「はい、自己紹介しゅーりょー。 じゃ、ぱぱっと委員決めちゃおっか。」
ようやく自己紹介が終わった。
流石に進学校だからか、脳みそが筋肉でできているような人は誰もいなかったし、やはりみんな緊張しているのか、クラスのペースメーカー的な人はいないように感じた。
あれ、このクラス誰が引っ張っていくんだ?
「じゃあ、とりあえず上坂さんと友潟君、前に出てこようか。 司会進行は任せたよ?」
「「えっ?」」
「ほら、君ら2人は気が合いそうだし、手際良さそうだから。 ささ、前へどうぞ」
……本当にこの人は許せない。
仕方なく前に出る。
「……では、委員長から決めていきたいと思います……どなたかやりたい方はいますか?」
ここでさっきの予想が的中した。
ムードメーカー気質のやつが1人でもいたら、そこからスムーズに進むはずだが……。
誰も出ないなら仕方がない。
後で決めるとするか……。
「私がやっても、いい?」
その声に驚いて隣を見ると、上坂さんが控えめに手を挙げている。
「……本当にいいの? 上坂さん」
小声で聞くと、小さく頷いた。
「他にやりたいという人はいますか」
聞くだけ聞いておくが、この質問は実際意味はない。
最初に誰も挙げていないくらいだ。
やりたい奴はいないだろう。
「では、上坂さんで決まりですね」
「改めて、よろしくお願いします。 次に、副委員長を決めたいと思います。 やりたい人はいますか?」
何故か彼女に背中を突かれたので、彼女を見ると、なにやら口をぱくぱくさせていた。
『あ げ て』
意味が伝わらなかったので首を傾げる。
ザザザッ!
机のずれる音が聞こえた。
目線を戻すと、さっき撃沈されたばかりの男子達が起立し一斉に手をあげる。
委員長と副委員長の関係になって、彼女と仲良くなりたいのだろう。
ようやく彼女の言いたかったことがわかったので、僕も一応手を挙げることにする。
「あ、言い忘れてた。 副委員長は委員長に比べて仕事が少ないから、文化祭関連の仕事もやってもらうからねー」
一斉に手が下がる。
僕の手だけが宙を彷徨う。
彼女はクスッと微笑んで言う。
「では、副委員長は友潟君ということでお願いします」
あ、選択の余地、ないんだ……。
また澤谷先生にしてやられた。
しかも、手を下げた男子が僕のことを睨んでくる。
入学早々敵を作ってしまったようだ。
その後は意外とスムーズに進んでいったが、男子からの熱い視線に負けて僕はその間現実逃避をするのだった。
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