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拝啓、終末の僕らへ  作者: 仁乃 戀
第四章
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嘘はつかない

 押した次の瞬間にはいつも通りに時が進んでいるようだった。


 「ねえ、優?」

 「…………」

 「おーい、優~? ぼーっとしてどうしたの~?」

 「……………………」

 「友潟どうした? 煙が目に入ったか?」

 「さぁ…………?」


 見慣れた顔が2つ、僕の顔の目の前に現れる。

 心配そうな目でしゃがみ込んでいる僕のことを見つめる。


 聞いたことのある会話。

 2人の後ろに立ちのぼる煙。

 楽しそうに笑う声。


 「……っあ、戻ってきた……?」

 「「えっ?」」


 呟いた言葉に2人は変な声を出す。


 ……普通なら、こんなことはしないだろうけど…………。

 この瞬間くらいは……いいかな…………。

 本当に戻ってきたか未だ実感が湧かない僕は、考えるよりも先に体が動いていた。


 「…………へっ……? ゆ、優…………?」

 「ちょっ、えっ……え!? 友潟!?」


 僕の目線に近づけようと体を屈めていた明梨の首に手を回し、優しく引き寄せる。

 明梨の耳はあからさまに真っ赤になっている。

 煙の匂いに混じった彼女の甘い香りが鼻腔をくすぐる。


 「あ、あーー…………。 俺は何も見なかったからな、なるべく早く返ってこいよ」


 居たたまれなくなったのか、シャッチーがこの場から離れていき、一時的に2人きりの空間が生まれる。


 「ねえ、優。 突然どうしたの?」


 彼女の首に腕を回したままだった僕は明梨の声でようやく頭の回転を始める。

 ぼんやりとした意識の中でやっていたが……やってしまったという気持ちが膨れ上がっていき、顔に熱がのぼる。


 「あっ…………ごめん」


 これで明梨から変な目で見られてしまうと戻ってきた意味が一瞬で消えてしまうため、ひとまず軽率な行動を謝る。

 記憶が残っているのは僕だけのようなので、彼女や他の人からすれば完全に不審な行動である。

 しかし、


 「? なんで謝るの?」


 意味がわからないとでも言うように彼女が首を傾げる。

 その様子を見て僕は再び思考停止してしまう。


 「っ、いや、だって……突然抱き寄せようとしちゃったし、嫌だったと思うから…………」

 「あ、あはは。 たしかに突然のことでビックリしちゃったっていうのはあるし、恥ずかしかったけど…………優ってあんまりそういう態度取らないし、ちょっと……嬉しかった、かな?」

 「…………」


 三度目の思考停止。

 彼女が意図してやっているとは思えないが、恥じらいに少し頬を染めて、横目でそんなことを言われると理性が吹き飛びそうになった。

 大袈裟かもしれないが十分にあり得ることなんだ……。


 彼女のその言葉になんと返したらいいか分からず、『お、おう』と軽く返すと彼女も自分の言った言葉に余計な恥ずかしさを覚えてしまい、2人して顔を真っ赤にして黙り込んでしまった。

 ……というか反則だろ。

 顔を真っ赤にしてる明梨なんて初めて見たが、破壊力が桁違いになっている。


 「そ、そろそろ戻ろうか! 早く帰らないとみんなが心配しちゃうし! わざわざありがとう!」


 このまま一緒に居れば間違いなく暴走してしまう気がするので、自分に歯止めをかける意味も兼ねて明梨に声をかける。


 「そ、そうね……」


 先に僕が立ち上がって僕らの班に向かって歩き出そうとしたが、明梨は顔を赤くしたままその場に立ち尽くしている。


 ……先に帰っていようか。

 そう思って再び歩き出そうとしたが、ついさっき聞いた言葉が頭の奥で再生される。


 「純粋に好きでいてくれる、僕が好きだった……」


 そうだ。

 戻ってきた意味を早速忘れそうになっていた。

 本当に変わると決めたんだ。

 自分に嘘はつくな。


 思い直した僕は、だらんと伸びている彼女の手を取り、皆の元に戻った。




 ……たまたま僕らの班のテーブルにいた澤谷先生に、恥ずかしさのあまり顔をを空いている方の手で顔を覆っている明梨ともう片方の手を引いて戻ってくる僕らの様子を見られて面倒なことになってしまったのはまた別の話である。

いつも読んでくださりありがとうございます!


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