オーバーヒート
「はぁー……」
思わず大きなため息をつく。
あの後ホールの席に戻り、上坂さんの隣に座っていたが、隣にいるだけで存在感が半端じゃない。
2階の席にもぼちぼち人が入り始めていたが、どっからどう見ても不釣り合いな2人が話している状況に皆目を見開いて驚いていた。
上坂さんは特に気にしていないが、他人から向けられる視線からどうにか逃げたくて、こうしてホールの外に出て、自販機でコーヒーを買い、ベンチに座って休憩していた。
入学式の開式まであと15分くらいある。
それまでここでゆっくりしていようと思い、普段通りスマホを操作する。
……上坂さんは「ちょっと飲み物買ってきます」と突然席を立った俺をどう思っているのだろう。
あと、この容姿も。
さっき逃げてきたと言ったように、僕は人から注目を浴びるのが嫌いだ。
1人でいる方が好きだから、と言って1人で行動していたら、いつの間にか僕に関わる人も少なくなっていった。
僕自身、最初はそれで良いと思っていたが、いつしか友達と笑い合っているクラスの人たちが羨ましく思えてきて、自分もそんな生活がしたいと思って行動した頃にはもう遅かった。
そんなこんなで、1人ぼっちの人生を歩んできた僕。
ぼっち生活が自分の性格に大きな影響を及ぼしているなんて考えもしなかった。
僕が友達と笑っている日々が想像つかない、それくらいの引っ込み思案になってしまった。
「なんでかなぁ……」
俯いて、気の抜けた声で独り言を呟いた。
独り言のはずだったが。
「どうした、少年!」
呆れたような、鼓舞するような声が背中で聞こえ、同時に背中をバシンと思い切り叩かれた。
「!?」
驚いて後ろをみると、知り合いでもない女子が優しい笑みを浮かべて立っていた。
童顔で、上坂さんのような清楚系女子ではなく、どちらかといえばカワイイ系女子と呼ばれる部類だろう。
黒ベースに茶色が混ざったセミロングの髪で、パッと見で運動部に所属していたとわかる体つきをしている。
服装を見るに、彼女も僕と同じく、この高校に入学する生徒なのだろう。
「これから入学式があって、夢のような青春が始まるっていうのに……。 どうして俯いてなんかいるのさ! 君、名前は!」
わざとらしく頬を膨らませて、僕を叱るかのように言う。
「ぼ、僕は友潟優です……」
「優くんね! 私は与那嶺玲だよ。 よろしく!」
「よ、よろしくね。 与那嶺さん」
「玲でいいよ!」
休憩するために来ていたので、あまり人が来なさそうな場所を選んだのだが……。
こうなると、休憩どころじゃなさそうだ。
彼女が、明るくて親しげな態度で僕に接することが悪いわけではないが、こういうタイプが僕の1番苦手とするタイプだ。
きっと僕を陰キャラだと認識した段階から、僕を空気のように扱うだろう。
経験上、こういう人はすぐに掌を返す。
接し方を間違えてはいけない。
「じゃあ、玲。 これからよろしく。 入学式がそろそろ始まるみたいだから、僕はもう戻るよ」
早口にならないように注意して彼女に言う。
「えー、せっかく自己紹介したんだから、もっと話そうよぉ~」
少し屈んでいた玲は見上げるように僕に言う。
実際、話したいという気持ちはあったが、今会話をしたところできっとロクな会話にならない。
かわいい女子に連続で遭遇した僕の脳と心臓はオーバーヒートを起こしそうになっていた。
この状況を打開する手立てはないのか、と考えていたところ。
「友潟君ー?」
若い長身の男性が僕に助け舟を出してくれたようだ。
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