自分なりの優しさ
プシュー。
電車のドアが開き、ぞろぞろと人が降りていく。
人の流れに身を任せ、自分も外に出る。
本格的に今日から授業が始まる。
それは大事な1ヶ月のスタートラインにようやく立った感覚だった。
今日は、色々な人とも話してみようかな。
「友潟くーん!」
そんなことを考えていると、後ろから名前を呼ばれる。
声の主は上坂さんだ。
「おはよう。 上坂さんも結構早い時間から学校に行くんだね」
「私、時間に余裕を持って行動したいタイプなんだよね~」
「僕と同じだ」
ホームルームの25分前には教室に着く予定で家を出ているので、同じ高校の生徒はまだ周りにほとんどいない。
部活が始まったら、朝練などで早く来る人もいるだろうから、この時期にしか見られない光景だ。
「そういえば上坂さん、もう入る部活は決めた? 僕は、まだ迷ってるんだけど……」
「んー、私は運動部で頑張るっていうよりかは、ゆる~く活動していきたいんだよね。 趣味のことも考えると、料理部が妥当かなー」
「ほんとに料理好きなんだね……」
「大好きだよ? 大変だなって思うこともあるけど、美味しい料理ができたときの喜びを知っちゃったら、もう抜け出せなくなっちゃった。 こんどお弁当作ってきてあげよっか?」
「なんてことを言うんだよ」
会ってからまだ1日しか経っていないのに、もう冗談を飛ばしてくる彼女に少し驚いたが、僕は笑って受け流す。
彼女は自然と振る舞っているのだろうが、僕からしたらこういうのは新鮮だ。
いつか友達と笑ってくだらない話をしていたい、とふと思った。
だから、これも必要なことなんじゃないか?
「あ、ごめん、ちょっと先行ってて」
そう言って僕は足を止める。
「どうしたの?」
「ご飯買ってくるの忘れたから、さっき通ったコンビニで買ってくるよ」
「食堂で買って食べたら?」
「あそこの雰囲気あんまり好きじゃない」
「じゃあ私も行く!」
「時間ないから、ほら、先行ってて」
「なんでよー」
「いいからいいから」
「じゃあ、昼ごはん一緒に食べよ」
「……考えとくよ」
思ったより彼女を引き離すのに時間がかかったが、これで問題はないだろう。
彼女にはちょっと申し訳ないことをしたと思う。
昨日も同じようなことをしたが、お互いの立場を考えた上で、この行動をとった。
……心配が過ぎるかもしれないが、それでもやらないよりはいいだろう。
彼女の隣に堂々と立つことができるのは、僕が変わった後だ。
彼女の姿が遠くなったところで、自分もゆっくりと歩き出す。
今日の昼ごはんはなんとかして断らないと。
立場とか何も関係なしに、単純に緊張で胃に穴が空きそうだ。
そうして断る理由を探しながら、学校に向かうのだった。
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