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女の子でも主人公に転生したので勇者王を目指す。

主人公に転生したので勇者王になりたいけど、兄が離れてくれません。




 それは、大人気の少年マンガだった。

 知らない日本人なんていないくらい有名で、日本だけでは留まらないかもしれない。海外でも人気なマンガはもちろんアニメ化もしていて、映画も何作も上映されている。

 胸が熱くなるような、その少年マンガの内容はこうだ。

 少年ルメロが、世界中を冒険した勇者の最高の称号『勇者王』を手に入れるために冒険する物語。

 舞台は、もちろんファンタジーな世界。人々が魔法を使う、そんな世界。

 仲間を集め、ともに強くなり、時には涙の別れをして、そして突き進む。

 少年ルメロは、少年マンガの主人公らしく、元気で夢に突っ走る性格だった。そんな彼に惹かれて、仲間になる登場人物達。

 私も仲間になりたいと強く願うほど、それは輝かしい物語だった。

 眩いほど輝く太陽のようなお話だったのだ。

 しかし、ある日突然、訃報が届いた。

 その少年マンガの作者が倒れてしまったのだ。そして帰らぬ人となってしまった。

 私は、闘病中だった。ガンが見付かり、治療をしていた最中。そのマンガを支えにしていたと言っても過言ではなかった私は、一気に体調を崩した。ショックは計り知れないものだったようだ。作者である先生を尊敬して、最新刊は欠かさずに即購入していた。支えを失くしたように、私も倒れてしまったのだ。

 そのまま、私も死亡してしまったのだろう。


 気付けば、生まれ変わっていたのだ。


 それも、あのマンガの中。しかも、主人公。

 ただしーーーーーー女の子である。


「なんでだぁあああっ!!!」


 記憶を取り戻したその日に、森の奥の崖の上で、叫んだ。

 マンガの主人公の名前はルメロだったけれど、ルメリと女の子らしい名前を名付けられた。

 ダンダンと地面を叩いて嘆く。

 なんでせっかく愛していると言ってもいいくらい大好きなマンガの中に転生したのに、どうして主人公ポジションなんだ!

 百歩譲って、ヒロイン枠がよかったよ!

 神様のミスか何か? 神様に会った記憶ないな!


「……生まれてきたものは、しょうがない」


 嘆き飽きたのか、そう思うことにした。

 いくら頬をつねっても、夢ではないのだ。現実として、受け入れる。

 主人公ルメロではなく、私はルメリ。その幼少期。

 マンガで見たことのある幼顔は、ちょっと女の子らしく、睫毛が長く上向きになっている。だいたいは、同じ顔だ。主人公ルメロと同じ、水色の髪の毛は短い。肌は、健康的な明るい色。

 主人公ルメロこと、私ルメリの出身は、国の最果ての貧しい村。

 それも、勇者なんて生まれそうにないような平凡な村だった。

 それもそのはずだ。

 勇者になるのは、攻撃魔法が優れている者が通常なる世界。

 この世界では、生まれたその日に使える魔法が決定する。

 主人公ルメロは、たった一つの魔法しか使えなかった。

 それも攻撃魔法ではなく、ただの生活魔法。種類は【水】。そういう設定だった。私もそうなのだろう。多分。

 ゲームのように、ステータスは見られないけれど、この村の人間は皆が生活魔法のみしか使えない。だから私も、この村にいるのだ。

 退屈この上ないこの村にーーーー。

 けれども、抜け出したい。

 この村から抜け出して、勇者になって、目指したい。

 そう、マンガで読んでいた物語のように、勇者になって仲間を集めて、世界中を冒険して、そして勇者王になる。

 記憶は朧げだけれど、母親が読み聞かせてくれたのだ。勇敢な勇者王だった男の話を。

 自然と笑みになるのは、何故だろうか。

 これは、主人公ルメロの性格を持って生まれた証だと思うと、それはそれで嬉しい。


「ーーーーーー勇者王に、なるっ!!!」


 女の子でも主人公に転生したから、勇者王を目指してやる!

 これから出逢う登場人物達と会うことに、眩しい物語や熱い展開に胸を躍らせて、決意をした私は拳を空に向かって突き上げた。

 主人公は、私なのだから!




 それから、十年。

 兄的存在と師匠と出逢って、修行をして生活魔法【水】を強くした。

 幼い頃には、水鉄砲と言う技がぴゅーっと水飛沫を出す程度だったけれども、今では本物の弾丸の如くビュッと飛んでいき、衝撃を与える。空中の水を掻き集めて放つので、ほぼ無限に放てるのだ。

 もじゃもじゃ師匠ことモーア師匠は、攻撃魔法【木】を操る人だった。

 私が女の子でも、容赦なかったのだ。大変、厳しかった。

 そのおかげで、私の生活魔法【水】は、攻撃魔法に匹敵するレベルまで上がったのだ。

 十六歳になった日。

 勇者になるために、生まれ育ったマーフ村を飛び出した。

 勇者は名乗れば、勇者。

 ただし、十六歳になってから許される。

 そして、勇者と名乗る以上は、責任が生じるのだ。

 勇者として、恥じぬ言動をする。当然のことだ。

 勇敢なる者が、勇者と名乗り、そして冒険をする。

 それが、この世界の勇者だ。

 魔法がある世界だけあって、冒険するところはたくさんある。

 冒険地と呼ばれるそこに、マンガの通りに出逢った仲間と共に挑んだ。


 一人目は、最強のドラゴンを夢に目指す強面顔の同い年の少年、名前をグディ。

 言葉遣いが乱暴だが、気の合う仲間である。前髪以外を後ろに向かってはねさせている髪型は、エメラルドグリーン。

 持つ魔法は、変身魔法【ドラゴン】だ。


 二人目は、放浪の牧師だったクリュス。

 長い楊枝をくわえ、右に片眼鏡をかけ、黒一色の服装。一番大人のはずだけれど、気が抜けているし、女性慣れしていなくおどおどする。

 刀を使い、持っている魔法は、攻撃魔法【氷】だ。


 三人目は、ウエイトレスととある勇者ギルドの回復役を掛け持ちしていたヒロインのアナである。

 同い年だけど、自由奔放な私達の中で、一番しっかり者。

 魔法は小規模なものしか使えないけれど、かなり役に立つ存在。

 持っている魔法は、防御魔法【バリア】と治癒魔法【キュア】だ。


 今のところ、この三人と旅をしながら、近辺の冒険地を制覇していた。

 生まれ育った村を旅立って、一ヶ月ほどが経っただろう。


「やっと見付けた! ルメリ!!!」


 多くの魔獣に囲まれていた時、彼が現れた。

 ボボボンッと、赤い爆発で魔獣達は吹っ飛んだ。

 こんな登場で、マンガで派手に初登場したのだっけ。

 十年が経ち、私の前世の記憶は朧げになり、今や主な登場人物と大まかな出逢いくらいしか覚えていない。残念な記憶力である。転生した意味が、あんまない気が……。


「あーっ!!! ティアス!!」


 兄的存在のティアス。三歳年上で、三年前に勇者王を目指して旅立ってから、久しぶりに会う。

 白い頭と毛先が紅い髪。丈の短いファー付きのジャケットを一枚着ているだけで、上半身は裸。逞しい筋肉を惜しみなく出して、ズボンと大きなブーツを履いている。

 ティアスの魔法は、攻撃魔法【火】と【爆発】だ。

 本来なら、兄貴分と弟分の再会に喜ぶのだが。

 あいにく、主人公である私は女。なので、普通なら兄貴分と妹分の再会になるはずなのだが……。

 真っ直ぐに駆け寄ってきたティアスは、がばっと両腕に閉じ込めてきた。

 肌が直に触れて、あったかさを感じる。というか、これムキムキの胸だ。


「ルメリ〜!!! 三年見ないうちに、成長したな!!」

「ぷはっ!」


 大喜びしているティアスが、誰だかわからず、ただただ抱擁したことに驚く仲間の三人。いや、さっきの爆発の魔法に驚いたのかな。


「よし、ルメリも結婚出来る歳になったことだし……結婚するか!」

「いやしねーよ!!!」


 笑顔で言ってくるティアスは、そう。シスコンなのだ。それも重度の。

 全力で断った。相変わらずのやり取りに呆れてしまう。


「はぁー、ティアスは変わらないな。あっ、紹介するよ。私の兄貴分のティアス」


 はぁ、と息を吐いてから、置いてけぼりの仲間に兄貴分を紹介する。

 すると、キリッとした目付きになったティアスが言い放った。


「兄貴じゃない!!! オレは勇者王になって、お前を勇者王の女にする男だ!!!」

「ならないって言ってるだろうが!!! 勇者王になるのは、私!!!」


 くわっと全力で言い返す私。これも一体、何回目のやり取りだろうか。


「ぶはっ!!」


 そこで吹き出したのは、グディ。

 つられたように、クリュスとアナもクスクスと笑い出す。


「本当に、兄妹きょうだいだな!!」

「そっくりですね」

「どこでどう育ったかはわからないけれど、兄妹なのはよくわかったわ」


 納得してくれた三人。

 異論を唱えるのは、ティアスだった。


「ちょっと待ってくれ! 兄妹じゃない! オレは昔から兄になる気はないって言ってんだ! ルメリを嫁にするからな! ルメリは昔から決めたことを譲らねぇが、これだけは譲らねぇ。勇者王になって、ルメリを嫁にする!」

「だぁーから!! ティアスは兄貴分なんだよ!! 兄なの!! そして、勇者王になるのは、私!!」


 ティアスの異論をバッサリと切り捨てて、胸を張って言い放つ。


「……デカくなったな」

「どこ見て言ってんだ!!!」


 明らかに私の胸を凝視していたから、ティアスの右頬に拳を押し付けた。

 殴るぞ!?


「こうは言っているが、勝負ごとになれば、オレがいつも勝ってた。今回も勝つのはオレだ」

「ぐぅ……!」


 ニヤリ、と口角を上げて見せるティアスに、私は押し黙ってしまう。


「え? 嘘! 喧嘩強いルメリが、一度も勝ったことないの!?」


 驚きの声を上げたのは、アナ。

 喧嘩もしたんだよなぁー。この一ヶ月。


「昔は負けっぱなしだったけど……勇者王になるのは私だからな!!!」

「それより、ルメリ」

「流すなよおい!! ふざけんな!!」


 プンスカと怒る私の両手を取ったかと思えば、ティアスが膝をついたからギョッとしてしまう。

 真面目な顔付きをしている。


「お前に謝らないといけない……」

「な、何?」

「一月、お前の誕生日、間違えて覚えてた!!」

「あー別にいいけど」


 身構えたのに、そんなことか。

 だから一ヶ月して、再会したのだ。


「ごめんな!! 大事な女の誕生日を間違えるなんて、最低だよな!? 本当にごめん!! 責任取って結婚するから!!」


 また結婚を言い出すから、右頬を殴ってやった。

 どんな責任の取り方だよ。

 大丈夫。加減はしている。それに私のパンチくらいでは、めげない。

 マンガでも結構なブラコン……ではなく、弟分思いの兄貴分だったけれど、重い。愛が重いよ、兄貴。

 主人公の性別が、変わった影響なのだろうか。


「改めまして、オレはルメリの婚約者のティアスだ」


 右頬を赤くしたまま、自己紹介。

 回し蹴りをしたのだが、それは躱されてしまった。


「オレはグディだ」

「クリュスです、どうぞよろしくお願いします」

「アナです」


 やっと仲間が自己紹介出来た、と思いきや、グディとクリュスと向き合ったティアス。


「オレの大事なルメリの何かな?」


 笑顔で牽制。


「仲間だ。それ以外の何でもない」

「ぼ、僕も、恋愛感情はありませんよ? 大切な仲間と思っています」


 グディはケロッと返し、疑われたクリュスはしどろもどろになる。

 女性相手には自信ないからな、クリュスは。

 現在も、私とアナにはたじたじである。

 仲間だと認められていると、照れるなぁ。


「よし、わかった。ルメリが、いつもお世話になっています」

「あ、はい、お世話をしています」


 ぺこり、と頭を下げて挨拶をするから、アナもお辞儀をした。

 クリュスも、ぺこり。


「いいお兄さんね、ルメリ」

「自慢の兄ちゃんだよ」


 アナにニカッと笑って見せれば。


「兄ちゃんじゃない!! 婚約者だ!!」

「私の十六の誕生日を祝いに戻ってきたの? ティアス」


 また言ってくるから、スルーして用件を問う。

 確か、旅立ちを祝うつもりで、戻ってきたはず。

 そういう登場だった。


「もちろんだ。結婚しにき、たっ!?」


 蹴りをしたら、ティアスの腹に入る。

 いい加減にしろ。


「しばらく一緒に冒険する」

「え!? なんで!? ティアスにはティアスの冒険があって、私には私の冒険があるだろ! ……あっ! 私の仲間になる!?」

「いや、オレにはオレの仲間がいるから、それはない」


 きっぱりと断られた。

 ぶーっと膨れっ面をすると、頭を撫でられる。


「ただ、デカくなったお前が心配でな……悪い虫がつかないように」

「だからどこ見てんだ!! 自分の仲間の元に帰っていいから!!」


 股間を思いっきり蹴り上げようとしたが、必死な様子で回避された。


「むしろ、ルメリ達がオレの仲間になれよ。結婚するんだし」

「え、無理。結婚もしない」

「なんでだよ!!」


 昔から断っているのに、めげないティアスが理解出来ない。


「ぶはははっ! おかしな兄妹!」

「おっかしい!」

「仲が良いですね」


 グディとアナは大笑いをして、クリュスは微笑ましそうな顔をする。

 それから本当にマンガの通りとは違い、兄的存在のティアスが冒険についてきたのだった。




 勇者王になりたいのに、兄が離れてくれません!








 来世は水使いだと信じて疑わないべにです。(?)

 またもや懲りずに新連載を書いていて、これ先に短編公開したいなって書いてみました。

 ずっと未完のマンガの世界に転生する話が書きたいなぁと思っていたのです。

 ちゃんと完結まで書ける目処が立ったら、連載バージョンを投稿したいなと思います。(希望)

 多分今年最後の短編です。

 覗いてくださり、ありがとうございました。



 20191227

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