第3話
「大変お待たせいたしました。そして、申し訳ございませんでした。ほらあんたも頭下げて。」
謝っている相手は先程電話をぶったぎって、ドアの前で1時間待たせた依頼人である。
「ホントだよ。全くもう。はやくしないと見つかっちゃうじゃないか。」
誰に?見つかったら?といろいろ聞きたそうなきいだが、かいにしゃべるな、触るな、動くなと口うるさく言われたためしぶしぶだまっている。
「実は私ヒューマノイドでして、あ、ニードと申します。あるご主人のところで生活しています。といっても、私がするのは掃除、洗濯、とかなので家事ロボットみたいなもんですけど。」
「それで?ご依頼は」
「家出してきたので、ここで雇って欲しいんです」
「は?何言ってんだ、ですか」
思わずタメ口。しかし、かいとしては今まで一人でやってきたのにいきなり2人も増えるなんて想定外だ。
「···まずはそう思った理由をお聞かせください」
「この前ご主人様たちが楽しそうにワイワイしてたのでちょうど私も終わったとこですしと混ざりに行こうとしたんです。そしたら、こっちを向いてどっかいって!ですよ!ひどくないですか!それで私もうプチンときちゃいまして!怒って、飛びてできました!なんか思い出したらまたムカついてきました!」
まあまあとかいがなだめていると、突然隣りから挙手が。かいがよし、いいぞと言うときいがしゃべりだした。
「でも、さっき見つかっちゃうって言ってましたよね?ニードさんはご主人さんたちが探しに来てくれると思ってらっしゃるってことでは?」
「え、いや私家事ロボットですから、いないと困るので探しに来ると思いまして」
「でも、さっき焦ってたってことは見つかって欲しくない、見つからないと困る。つまりニードさんはご主人さんたちに困って欲しいんじゃないんですか!!!」
「え、いやそのあの···はい···」
「じゃあ、依頼内容は変えなくちゃいけませんね!一緒に困らせる方法を考えましょう!」
これを素でやってるから怖い、そう思ったかいであった。
「困らせる方法ですか···私ニードさんがいきなり踊りだしたら困ると思います!!!」
きいの無茶ぶり。さっきのことがあったニードは言われるがまま踊ってみる。
「すごい!お上手ですね!!」
「ほんとですか?ありがとうございます、ってむしろ楽しんでるじゃないですか」
このままでは依頼は一向に終わらないと悟ったかいがゴホンと咳払いをし、本題まで遡る。
「そもそもなぜご主人たちがニードさんのことを追い払ったのかをまず考えてみては?このようなことは前から?」
「いえ、はじめてです···あんなこと言ってましたが、心当たりがあるんです···私最近ミスばっかりしてたんです。それで、あのときチラッとですがロボットのチラシが見えたんです。法律でロボットは一家に一台って決まってるでしょ?きっと私を捨てて新しいのを買おうとしたんですよ···もう私なんて必要ないんです···」
先程の様子と打って変わってニードはしょぼんと落ち込んでいる。そのとき、きいはいきなり立ち上がる。
「必要に決まってるじゃないですか!ずっと一緒にやってきたんでしょう?ご主人さんたちはニードさんのこと家族だって思ってます!それに家出だって言ってましたけど、ニードさんなにも持ってきてないじゃないですか!追いかけて来てくれるって信じてるんじゃないですか!それなら、最後まで信じましょう?」
ニードははっとし、そのあと力強くうなずいた。
「ニードさん、俺もそう思います。あと、俺の仮説なんですが今日って11月23日ですよね?だから、···」
そのとき、外からドンドンとドアを叩く音が。開けてみると、若い女性。
「ニード!!こん、なところに」
女性は肩を上下に激しく動かしている。
「お母様、なんでここに···」
「真面目なあなたが帰ってこないから、心配して3人で探し回ってたのよ···ほんとに···良かった」
ニードさんはお母さんと一緒に帰っていった。
「ところでかいさん、今日ってなにか関係あったんですか?」
「ああ、勤労感謝の日って言ってだな、いつも働いてくれている人に感謝を伝える日なんだ。おおかた、パーティーでも計画してたんじゃないか」
***
後日、ニードから連絡が。
「全く···騒がしい依頼人だな」
「まあまあ!勘違いだったから、良かったじゃないですか!」
かいの読み通り、3人がこそこそしてたのは、いつも働いてくれているニードに感謝を伝えるためパーティーをする計画をたてていたからだそうだ。チラシの件はたまたま裏がロボットの広告だっただけで、本命は表だったそうだ。連絡と一緒に笑顔で写っているニードと3人の写真が送られてきている。
「いろいろありましたけど、一件落着!良かった!」
「あんた気づいてるか?今回あんたの機械音痴に関しては一切成長してないからな」
きいはてへと困ったように笑った。