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5.

目を開けると、いつもの自分のベッドの上だった。

何が起きたかすぐには分からず、軽く頭を振ると、すぐそばで聞き慣れない声がした。


『あ、起きたネ?』


ソレ(・・)はひゅるんと目の前を飛び、空中で止まった。

声をかける前に、自分から話し出す。


『覚えてる?キミは魔力が開花して、ボクと契約した。でも契約が完了してないんだ。ボクの呼び名を決めて?フェル』

「フェル・・・?」


おかしい。自分の名前はその名ではなかったはずなのに、霞がかって思い出せない。


『キミは今日からフェル。時の魔術師だから、フェル・テンプスとでも名乗るといいよ。で、ボクの真名は知ってるでしょう?そこから呼び名を決めて?それが、ボクの名になる』


真名と聞いた瞬間、知らない名前が頭に浮かぶ。これがきっと、目の前の彼の名前なのだろう。


『じゃあ・・・』


こうして、フェルは契約を完了した。


この時は気付いていなかった。

自身の体に何が起こっていたのかを。




・・・・・・・・・・・・・・・・




さすがと言うかなんというか。


『時の魔女』を名乗っているだけのことはあって、フェルは魔術のことにとても詳しかった。

と言っても、ドルクは魔術についてほとんど何も知らなかったので、子どもが聞くようなことから始めたわけなのだが。


「で、基本魔術は、初めて魔力が開花した時に契約した精霊によって決まるの。種類は7種類。火・風・水・土・光・闇・時。この基本魔術は、他の魔術より格段に上手に使えるようになる。何せ、精霊がついているからね。でも、他の魔術も使えないわけじゃない。弟子入りしたり、独学で学んだりすれば、まあまあ使えるようにはなるの。ま、言語みたいなものかな。母国語はすんなり入るけど、他の国の言葉はがっつり勉強しないとなかなか身につかないでしょ」

「その精霊ってのは自分で選べるのか?契約ってどうやるんだ?」

「選べるというか、自然に決まるというか・・・テン、どうなのそのあたり。・・・・・・は?役立たず」


空中を呆れた顔で見ているところから、おそらく精霊は有益な情報をもたらさなかったことが分かる。ドルクも同じような場所を注視してみるが、やはり何も見えはしない。

城の裏庭、フェルお気に入りの場所で、二人は落ち会い、ドルクは魔術について様々な話を聞いていた。


小さな頃は「自分も魔術師になれるかもしれない」と憧れたものだが、いつまで待ってもドルクに魔力が開花する日は来ず、自棄になって魔術とは距離を置く生活を送っていた。

まさか、この年になって『魔術とはどんなものであるか』を基礎から聞くことになるとは思わなかったが、やはり憧れたことがある物だけに、心の奥では楽しさを感じてしまう。


「ああ、契約の仕方はね、真名を交換するの」

「交換?」

「奪い合うというか、与え合うというか。自分の真名を精霊に渡し、精霊の真名をもらう。それで契約成立。そこから先は、お互いしか真名を言うことはできない。渡しちゃうから、自分の真名も忘れちゃうしね!」

「でも、親とか、自分の名前を知ってるやつがいるだろう?」

「記憶が改ざんされるみたいよ。契約の時に、お互いの呼び名を決めるんだけど、そっちの名前に変わってたから」


懐かしそうに、目を細めながら言うフェルが見ている景色は、300年近く前なのだろうか。


「じゃあ、あんたの名前も?」

「本名じゃない。そして、私は覚えてない。テンにあげたから。テンの真名は知ってるけどね・・・ん?」

「どうした?」

「んー、自分で言ってて何か引っかかったんだけど・・・気のせいかな。ああそういえば、テンの呼び名を決めるとき、ひと悶着あったの。『フー』か『テン』どっちがいい?って聞いたら『どっちも嫌だ』って言われちゃって」


おそらく、精霊が周りを飛び回っているのだろう。フェルは視線を動かしながら、「ねー?」と話しかけている。

ドルクにはやはり、虚空を見つめて話しかけてるようにしか見えないが。


魔力持ちと魔力無しでは、見えている世界が違うらしい。


そう感じたことに、ドルク自身が疑問をもつ。

どうしてそんなことを思ったのか。どうしてそのことが、心に引っかかったように感じるのか。


自分の気持ちがよく分からなくなり、話題を変えることにした。


「魔力量って、決まってるのか?」

「開花時に決まるよ。量は一生変わらないけど、研鑽を積むことで少ない魔力で魔術を使えるようになるかな。ちなみに、使い過ぎると死ぬ」

「え」

「体力と同じだよ。少し経つと回復するしね」


フェルがドルクに向かって指をちょい、と動かすと、ドルクの右肘あたりが光に包まれた。


「怪我したの?」

「ああ、午前の訓練で・・・今のって」

「そ、光魔術」

「光も使えるのか。他に、あんたの使える魔法は?」

「全部」

「ぜん・・・え?」

「伊達に300年も生きてないって。時間だけはあったから、全部習得した。あ、でも、基本の時魔術の次に得意なのは闇魔術かな。初めてついた師匠が闇だったから」

「時の魔術師のところにつかなかったのか?」

「私が魔術師になったころは、いなかったの。廃れてたんだよねー時の魔術。まあ今でも、なり手は少ないかな。他のに比べて、分かりにくい魔術ではあるし」

「俺からすると、光と闇もよく分からないが」

「あー、それは簡単。光と闇って言ってるけど、それはあくまで便宜上なの。光の魔術は、主に肉体面に働きかける。さっきみたいな治癒が代表的かな。あとは、肉体的な能力を上げたり。魔術を使うと実際光る。で、闇は逆で、精神面に働きかける。幻術とか、洗脳とか。あ、変化へんげも、相手の心に働きかける闇魔術の一種だよ」

「へぇ、それはしらなかった。じゃあ変化へんげも得意なのか?」

「まあ得意だけど・・・あまり、好きじゃないかな」


そういったフェルの顔が、いつかと同じように翳りを帯びていたので、ドルクはそれ以上深追いすることをやめた。


「そろそろ仕事に戻るか。・・・あー、治してくれてありがとう」

「どういたしまして。お礼はキスでいいよ?」

「バーカ、何言ってんだ。じゃあまたな」

「うん。またね」


最初の時のようにグイグイ来ることはないが、それでも時折、フェルはこのような冗談を言ってくる。いつも適当に流しているが。

立ち上がって草を払ったドルクを、フェルが見送る。

フェルはもう少し裏庭でのんびりしていくらしい。




仕事とは関係ない、しかし自分にとって憧れである魔術の話を聞くことは、ドルクの心に良い影響を与えていた。それは傍目から見ても明らかなようで。


「団長、最近苦手な書類仕事がはかどっていますね」

「そうか?ならよかった」


ある日、書きあがったばかりの書類を机に打ち付けてまとめているヴェルゼイに言われた。


「裏庭の逢引が効いているんですか?」

「あ・・・っ!?ちが、逢引などではないぞ!!」

「違うんですか?最近部下たちの間でもっぱら噂になってますよ」

「は!?」

「『団長に遅い遅い春が来た』とか『団長がとうとう少女趣味に走った』とか」


それを聞いたドルクは椅子を倒す勢いで立ち上がった。


「一つ目はともかく少女趣味とは何だ人をロリコンみたいに!大体、ただ魔術について話を聞きに行ってるだけだ!何でもかんでも色恋に結び付けるんじゃない!」

「いやーだってー年頃の男女が二人っきりでいて、お話するだけとか信じられないしー」


イライラするような話し方で煽ってくる部下を黙らせようとしたが、生憎手元に武器になりそうなものが無かった。


「・・・お前、明日の訓練覚えてろよ」

「いやですね私情を挟まないでくださいよ。ほら、約束の時間なんでしょう?とっとと行った行った」

「分かってるようるせぇな!」


ちゃんと意識していたから、フェルと会う時間が迫っていることにはとっくに気付いていた。書類仕事の邪魔になるからと脱いでいた上着を着て、副団長の脇を通り過ぎる。

イラッとしたので、とりあえず一発肩を殴っておいた。


「痛いっ!」

「・・・少ししたら戻る」

「はいはい、ごゆっくりー」




裏庭に向かう途中の廊下で、いけ好かない話し声が聞こえた。

反射的に、柱の陰に身をひそめる。


「・・・から、今度ぜひお食事でも・・・」


誰かを口説いているらしい。誰が、という部分は、分かりたくはなかったが、その声と話し方で分かってしまった。

銀の騎士団団長、デイオス・ハヴィットである。


銀はただでさえ黒に突っかかってくる奴が多いが、このデイオスはその中でも特にうるさい、貴族至上主義だ。頭がいい上にそこそこ剣も強いのだが、その排他的な考えの強さからいつまで経っても金の騎士団には採用されない男である。

そんな男が、誰が通るかも分からない廊下でいったい誰を口説いているのかと柱からそっと身を出すと、デイオスの体では隠れ切らなかった銀髪が見えた。


「・・・なんで」


つい、そんな言葉が口から洩れた。あの銀髪。どう見ても相手はフェルだ。


今までデイオスが口説く女性と言えば、妖艶な大人の女性が多く、ドルクと同じような好みだったと記憶している。それが急に、どうしてフェルを、見た目だけはまだまだ幼い少女を口説いているのか。


ドルクが考え込んでいるうちに、話は終わったらしく、デイオスは姿を消していた。

微妙に足取りが重くなりながらも、ドルクは魔女の後ろ姿を追った。


「フェル!」

「あ、ドルク」


いつも通りの表情を見せるフェルに、ドルクは何気なさを装って聞いてみた。


「今、銀の騎士団団長と話してなかったか?」

「ん?あー、どこかで見たことあると思ったら、銀の団長だったっけ。興味ないから忘れてた。何か食事に誘われたんだけど、魂胆透けて見えたから丁重にお断りしたよ」

「魂胆?」


ドルクが聞き返すと、やれやれと言った体で見た目だけ少女は話し始めた。


「大方、銀の騎士団に時の魔女を組み込みたかったんでしょ。騎士団専属の魔術師はいるけど、私はどこにも属してないから。最初から属さないって言ってるのにね」

「・・・それだけか?」

「それだけでしょ。何か嫌味な探り入れられたもん。『最近黒の団長と仲が良いようだが、時の魔女は黒に所属するおつもりか』って。なんでよ。ドルクと会ってるのは完全にプライベートだっつの!」


憤慨するフェルを見て、ドルクは自分の心がどこかほっとしているのを感じた。


「最近しつこいんだよねーあいつ。この前も話しかけて来たし。あんまりしつこいと新作闇魔術の実験台にでもするっての」

「・・・そんなことより、この間の続きを教えてくれ」


いつまでもあんな奴について話していたくない。そう思い、いつものように乞う。それがどんな気持ちから生まれた感情なのか、当人であるドルクは気付いていない。


今日もドルクの知らない世界について、時々実演を交えつつ、様々なことを聞きながら穏やかな時間を過ごすのだった。

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