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4.

またまた時間が空いてしまいました・・・!

すみません、お待たせいたしました。

熱い。痛い。

体中を隅々まで炎が踊り狂っているような感覚に、いっそ気を失いたいと思ったけれどそれも叶わず、自分の体を抱きしめたまま、少女は膝を地面に付けた。


呼吸ができない。


ああ、もしかしたらここで死ぬんだろうか。




一瞬前までは日常だった。

家族に頼まれ、町まで買い物に行く途中、突然にそれ(・・)は来た。


急に心臓がドクンと跳ねて、体中を熱が駆け巡る。

何が起きたのか分からない。

森を抜ける途中だったので、近くに人はおらず、助けを求めようが無い。


視点が定まらない。


頭がガンガンと痛む。


自分の体がばらばらになっていくような感覚に、死の恐怖を覚えたとき、どこかから声が聞こえた。


『名前は?』


え?


『キミの、名前!早く!』


名前?名前は、ーーーーー。


『分かった。我の名前はフギト・イッレパラービレ・テンプス。ーーーーー、我が名を与え、その名を預かる。我と汝のもとに、契約は成り立った』


謎の声が言い終わると同時に、体が一瞬光った。

しかし、体内から焼けつくすような熱は全く引かない。


『・・・何て量だ!普通ならこれで落ち着くのに・・・!キミ!サポートするから、一旦排出するよ?分かった!?』


何も分からなかったが、必死な声に押されてこくんと頷いた。

そういえば、声の主の姿もまだ見ていない。


手に温かい何かが触れた。体中をうごめいていた熱が、出口を見つけたように手に集まって来る。

そしてーーー。


眩い光と、どぉんという轟音に飲み込まれ、少女ーーーフェルの意識は、ぷつりと途切れたのだ。




・・・・・・・・・・・・・・・・




フェルが懐かしい記憶を思い返しているうちに、目の前の腹に脂肪をこれでもかと蓄えた男は、勝手に話を進めていた。


「世間では、その姿は敵の油断を誘うための変化へんげだとか、魔女殿ご本人の趣味だとか言っているようですが、それは違います。私は知っているんですよ。あなたは不老不死にする術を手に入れた。だから、その姿から変わらないのでしょう?違いますか?」


肯定も否定もせず、にこりと笑ったまま、フェルは出された紅茶のカップを持ち上げる。

さすがは貴族、いい茶葉を使っている。

その割に、フェルをここまで連れてくる手段は、ずいぶんと荒っぽいものだったが。


気落ちしたまま城内をとぼとぼと歩いていたら、急に何かの薬品を嗅がされ、袋に入れられて連行された。

しかも荷物のような適当な扱いだった。


それでいて、目の前の男は平然とこちらに言うことを聞かせようとしてくる。


いつの時代にもいるんだなーこういうどうしようもない奴。そういえば最近はご無沙汰だったけど。

フェルは優雅に紅茶を飲みながら、心の中で男をこけ下ろした。男の嘘くさい演説はまだ続いている。


「だが、そんなことが世間に公になってはまずい。そこで国王は、箝口令を敷いた。しかしね。私のような優秀な人材は、不老不死になってでも国のために尽くした方がいいと、そうは思いませんか?」


自分で優秀とか言ってるよコイツうぜぇな、何てことは一切顔に出さず、「まぁ!」と可愛らしく驚いて見せる。伊達に300年もこの姿で生きていない。容姿に合った言動を演じることなど朝飯前だ。


「驚きましたわ。ご自分の私利私欲のためではなく、国に尽くすために、不老不死になりたいと仰るの?」

「当たり前です、魔女殿。私がこれまでにしてきた事業をご存知ですか?それらはまだ計画途中。とても私一人の寿命が尽きるまでには終わりそうもないのです。しかし私が不老不死になったなら、」

「お話は分かりましたわ。アンドレイ・ソブリュート様のそのお気持ち、しかと受け止めました」


まだ長々と話が続きそうなところをぶった切って、フェルはすっと立ち上がった。これ以上聞くと、耳が腐りそうである。時間も勿体ない。

それにしても、名前負けしてる男だ。何もかもが残念な奴である。


「あなたを、不老不死にしてあげましょう」


そう言って笑った魔女の顔は、容姿にそぐわない、嫣然としたものだった。




・・・・・・・・・・・・・・・・




「ただいまー」

『タダイマー』

「おかえりなさい。珍しいですね?寄り道(・・・)されるなんて」


魔術師棟の自分の部屋に帰ると、現在唯一の弟子であるティムが出迎えてくれた。


「まーねーたまにはねー」

『ネー』

「そんなこと言って。どうせ何かあったんでしょう?」


調子よく合わせたテンには目もくれず、ズバリと指摘され、フェルの唇は自然に尖った。


「・・・勘のいいガキって嫌い」

「すみませんね。師匠が師匠なもので、自然とそうなってしまって」


悪びれもせずに言い返してくるあたりが可愛くない。


「ちょっと嫌なことがあったから、気晴らしに行って来ただけ」

「行かずに穏便に済ませられるでしょうに、わざわざ行ってきた、と。それでまたえげつない魔法掛けて来たんでしょ」

「ちょっとだけだよー。不老不死になりたいって言うから、【もし不老不死になったら~史上最悪のルート】を幻影で見させてあげただけ」


親指をぐっと立てながらいい笑顔でそう言うと、弟子は顔をひきつらせた。


「お得意の闇魔法ですか。それは・・・廃人コース確定なのでは?」

「だいじょぶだいじょぶ、ああいうのは図太いから。でもねー、さすがに国家反逆の罪で毎日処刑されてるのは大変そうだったかなー?不老不死だって、痛みは感じるのにねー」

『首落としても死ねないなんて、辛いよネ。それにしても、処刑のバージョンってあんなにあったんだ!ニンゲンってすごいヨ!勉強になる~』

「ま、あれだけやれば、少しは私の気分も晴れたかな。あ、あといろいろな(・・・・・)証拠持ってきといたから、後で宰相あたりに高く売りつけよーっと」


テンと二人でケラケラ笑っていると、少し顔を青くしたティムがコホンと嘘っぽい咳をした。


「そうそう。師にお客様です」

「やぁだ。またミハエル?あいつ、いい加減ここを隠れ家に使うのよせって言ってるのに」

「いえ、違います」


パタン、と、隣の部屋に続くドアが開いた。隣は一応、テーブルといすが置いてあるから、そこで待っていたのだろう。


国王である四十路近くのオヤジが出てくると思っていたフェルは、ドアから現れた人影を確認して目を見開いた。


「お、おう」


躊躇いながらも右手を上げて挨拶したのは、フェルが落ち込む元凶ともなった、ドルクだった。




ドルクの顔が見えた途端、肩にとまっていた相棒から常に無い魔力が放出されているのを感じた。


「テン、やめなさい」

『だってフェル~』

「いいから。私は大丈夫だから。・・・ありがとね」


指でそっと頭を撫でれば、テンは渋々と魔力を引っ込めた。


「大丈夫ですか?ドルク様」

「今の殺気は・・・」

「申し訳ありません。私の相棒の精霊です」


攻撃的なテンの魔力は、ドルクには殺気に感じたらしい。さすがは黒の騎士団団長だ。

普通なら、魔力が無い人間に、精霊の気配を感知することはできない。たとえ、どんなに強いものだったとしても。


しかし、どうしてここにドルクがいるのか。

それを聞いていいものか考えていると、あちらも何も言ってこない。


あんな別れ方をしたばかりだ。

微妙に気まずい空気がフェルの部屋に流れる。


「あー、僕、国王に今回のこと一応報告してくるんで、後はお二人でゆっくり話してください」

「え、ちょっと、ティム・・・!」


気を遣ったのか、不詳の弟子はぱたんと扉を閉めてしまった。


再び、重い沈黙が二人(と精霊一匹)を包む。

以外にもその空気を壊したのは、ドルクだった。


「あー、大丈夫、なのか?」

「え?」

「攫われたんだろう?・・・まあ、さっきの会話聞いてりゃ、大丈夫そうなのは分かったが・・・」

「え、まさか、さっきの聞いて・・・!」


好き勝手思いっきり八つ当たりしてきたぜ!という話を全て聞かれていたらしい。


「いや、その、聞くつもりじゃなかったんだが!あんたが攫われるの見かけて、弟子に救援を頼もうとしたら、『必要ないです。仕事に戻ってください』って言うから、『そんなわけにはいくか!』って言い返したら、『じゃあそこで待っててください20分以内には帰るでしょうよ』って・・・。まさかと思ったが、本当に無傷で戻ってくるとは・・・」


ぺらぺらと状況説明するドルクの言葉に、フェルは一筋の光を見出す。


つまり、ドルクは。


「ワタクシのことが心配で、ここで待っていてくださったんですのね!」

「し、心配っつーか、攫われるの見かけちまったし!何もしねーわけにはいかねぇだろうが!」

「それでも!・・・嬉しいです。もう、お会いすることもできないかと思ってましたから・・・」


潤んだ目をそっと伏せたフェルは気付かなかったが、ドルクは罪悪感で顔をゆがめていた。


「・・・あんたさぁ」

「はい?」

「さっきの話し方が素だろ。何でそんな、取ってつけたような変な喋りしてんだよ」

「え?男性人気ナンバーワンの話し方を勉強して・・・」

「それ、ガセネタじゃねぇか?普通に話せ、普通に。あと『様』付けやめろ。あんたの方がどう考えても階級が上だろ。年齢だって・・・」


そこで、何かを思い出したように咳払いをしたドルクは、フェルの顔を見た。


「とにかく、むず痒いからやめろ。俺も今更、あんたに様付けとかできねぇから、このままいかせてもらうけど」

「それはつまり・・・名前を呼び捨てしてもいいと!?」

「近いっ!」


ずいっとお互いの体が触れ合いそうになるほど迫ったフェルの頭を鷲掴みにしたドルクに、一定の距離を取らされる。


「別に構わねぇよ。・・・さっきは悪かったな」

「え?」


見上げたフェルからの視線を受け、ドルクは気まずそうに顔を背けた。


「あんたのこと、何も知らねぇのに好き勝手言って悪かった」

「・・・ううん、今までも、しょっちゅう言われてたことだから。別に大丈夫」


ニコッと笑ったフェルの顔を一瞬ちらりと見た男は、苦虫をかみつぶしたような顔をした。


「たくさん言われたからって、別に傷つかないわけじゃねぇだろ」

「・・・優しいね、ドルクは」

「・・・どこが」


本当に優しいやつはそもそも、他人を傷つけるようなことをうっかり言ったりしないだろう。

そうは思ったが、フェルはゆっくりかぶりを振って、ドルクを見つめた。


「優しいよ。こうして話してくれるんだから。・・・ねえ。また話してくれる?」

「・・・全休憩時間追いかけ回さないなら考えてやらんこともない」

「ん、分かった」


あっさりと承諾したフェルの顔を、今度はドルクが、目を見開いてまじまじと見つめた。


「え?何?」

「いや、まさかそんなに早く同意するとは思わなくて」

「まあさすがに押し過ぎかなって、自分でも思ってたところだったし。・・・やりたいことも、できたから忙しくなるし」

「あ?」

「ううん、何でもない。あ、ドルク、魔術好きなんだよね?そっち系の話なら、いっぱいできるよ、私」

「・・・・・・興味は、ある」


素直に好きと言わないごつい男を可愛く感じてしまうのは、フェルだけかもしれない。

それでも、好きな相手が興味をもっている分野の話をできるのは、嬉しい。


「じゃあ、また明日にでも!いつなら大丈夫?」

「確認しておく」

「分かった。・・・ドルク、ありがとう」

「・・・ああ」




こうして、フェルは『追いかけ回す迷惑なやつ』から、『魔術に詳しい話し相手』になり、二人の関係も、一歩進んだのだった。

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