おまけ1.好きと言って(ウラver.)
ヤッホー!ボク、テンだよ。みんな、元気ー!?
え、お前消えたはずだろ?
何ちゃっかり出てきてるんだって?
ノンノン、ちゃんと説明するからちょっと聞いてヨ!
ボクだって、びっくりしてるんだからサ。
フェルが魔力を失って目覚めたとき、実はボクもすぐそばにいたワケ。
で、大丈夫そうなのを見届けて、精霊樹のもとに行ったんだよネ。まっさらにしてもらおうと思ってサ。
そしたら「無理」って言われちゃって、もうどうしようって感じだヨ!
どうして無理かっていうとネ、あ、いや、そもそもどうしてまっさらになるかを説明した方が早いか。
魔術師とボクたち精霊は、真名を交換することで契約する。そして通常は、【契約が終わる時】っていうのは、魔術師が死ぬときなんだヨネ。
魔術師が、精霊の真名を持ったまま死ぬから、その精霊は、自動的に精霊樹のもとに行ってまっさらな状態に生まれ変わる。
これが、まあ【精霊の一生】なわけダ。
ところがさぁ、フェルとボクはイレギュラーにイレギュラーを重ねてるんだヨ。
まず第一、実はボク、フェルの真名を完全に奪ったわけじゃなかった。契約時に、何故か咄嗟に、「真名を預かる」って言っちゃったんだヨネ。どうしてそう言ったのか、今でも不思議なんだけど。
ちなみに普通は、「真名をもらい受ける」って言うヨ。ウァリーとティムも、そういう契約をしたはずナンだ。
で、イレギュラー第二が、真名を返したこと。
普通なら、そう言うことはできないんだけど、何せボク、「預かる」って言ってたからね。返せちゃったわけ。ま、一か八かだったケド。
そして第三が、フェルは魔力が無いのに、ボクの真名をいまだ持っていること。
魔力が無いと真名は返せないから、ボクは実に、中途半端な状態になっているってわけサ。
で、結局、フェル、じゃなくてフェリシアが死んだらまっさらになれるらしいから、それまで待つしかないらしいって結論。
だからボク、フェリシアの守護精霊になろうと思って!
で、ここ数か月、ずっとフェリシアの近くをふよふよしてたノ。
え?何でさっさとティムに言わなかったかって?
そりゃあさ、あんなふうに別れた後だもん。今更「生きてましたーメンゴメンゴ!」なんて出て行けないよ。
え?別にそっちの方が面白そうだからとか、思ってないよ。失敬だなキミタチハ!
まあとにかく、ボクはずっと見守っていたわけだヨ、この数ヶ月間。
もう、何度草葉の陰から泣いたことか!あ、使い方違う?まいっか。
だって一緒に暮らしてるのに、ぜんっぜん進展しないんだよこの二人!
この間だって、珍しく二人で出かけたから、「おっと〜初デートですかいお二人さーん♪」って囃してたら、着いた先は鍛治屋。
おっちゃんが「何だドルク!?お前のコレか!?」って小指立てながら言ったのに、「違う。保護対象」で終了だしサ!
おっちゃんも「なんだつまらん。そうだドルク、研ぎに出しておいたお前さんの剣、そろそろ新調した方がいいぞ・・・」ってどうでもいい話始めちゃうし!
そこ、もっと突っ込んでヨおっちゃん!!
その後のぶらぶら町歩きでは少しはデートっぽくなるかと思いきや、そこの男が言ったのは「キョロキョロするな、人にぶつかるぞ」「迷子になったらじっとしてるんだぞ。知らない奴についていくなよ」「夕食前に間食するんじゃない」・・・ねえなんなの!?黒の団長って実はオカンなの!?
まあそんなわけで、ぼくは悟ったネ。
この二人に任せてたら、永遠に距離は縮まらないと。
こういう時こそ、守護精霊である僕の出番サ!
フェリシアはドルクが好きなんだから、あとはドルクがフェリシアを好きになれば、自ずと上手くいくだろうって考えたボクは、ドルクを見張った。
何のためか?もちろん、ドルクがフェリシアをどう思ってるか探るためだヨ!
雨の日も風の日も、ボクはアンパンと牛乳片手に見張りを続けた。
え?精霊なんだから食べないだろって?そこはほら、様式美ってヤツだネ。
そうしたら、昨日。
ドルクと副団長が話してるのを聞いちゃったんだボク。
「団長、ただいま戻りました」
「おう。国王勅命の用件はなんだった?」
「・・・・・・若い女性とお話しすることでした」
「げ。国王自ら見合いの斡旋か?お前には必要ないだろ。いざとなれば選び放題なんだから」
「はは。若い女性といえば団長、フェリシア嬢はお元気ですか?」
「・・・ああ、まあ、元気は元気だ」
「まだ手は出されていないので?」
「ぶっ!何言ってんだヴェルゼイ!まだも何も、俺はあんなガキに手を出したりしない!」
「ガキって言いますけど、あっという間に成長しますよ?あの年頃は」
「・・・それでも、今すぐ手を出していい歳じゃねぇだろ」
それを聞いてボク閃いちゃった!
だから急いで精霊樹の下に行って、ちゃんと許可取って戻ってきて、寝ているフェリシアに時魔術をかけたんだ。
10年だけ、体の成長を進める魔術を。
いやー、普通は精霊がただの人間に関わるのはタブーなんだけどネ。
流石に300年も精霊樹に栄養送り続けてた功労者だからサ、フェリシアは。
あっさりオッケーが出たんだヨ。
起きたらフェリシア喜ぶだろうなって、楽しみにして朝を待ってたら、なんか予想と違う反応ジャン!
真っ青な顔でドルクのところに駆け込んで、おいおい泣いてるし。
「もうすぐ死ぬ」だのなんだの言ってるしサ。
ボクの方が慌てちゃったヨ。フェリシアってば昔から、斜め上の方向に想像力豊かなんだモン。
なんだよ【時間のリバウンド】って。ナイナイそんなの。
もうフェリシアは本当に、ただの人間なんだから。
っていうボクの声は届かないからサ。
もう最終手段を取るしかないよヨネ?
で、ティムを叩き起こして、このことを伝えにきたってわワケ。
さてフェリシア、誤解が解けたところで。
ボクに思いっきり感謝してよネ。これでドルクとイチャイチャできるようになったんだから☆
・・・・・・・・・・・・
「・・・以上です」
ティムが長い話を終え、出されたお茶を一口飲み、カップをテーブルに戻す。
フェリシアが着替えている間にドルクが淹れてくれたお茶は、意外に美味しくて、喋り疲れた喉を癒してくれた。
何も言わない元師匠をちらりと見ると、テーブルの上の両拳がぶるぶる震えている。
これはまずい、と慌ててお茶を避難させた瞬間、ドンっと拳が振り下ろされ、フェリシアがブチ切れた。
「ぬぁああにが『感謝してよネ』だぁああ!こっちがどんな思いでここのところずぅっと悩んでたと思ってんだよぉおおおおお!!」
「お、おい、落ち着けよ、な?」
椅子を蹴倒し、近くにあったクッションやなんかを投げ飛ばしているフェリシアをドルクがなんとか宥めようとするが、それを完全に無視して叫び続ける。
「ティム!テンはどこ!?もう許せない!何よなんなのよそのありがた迷惑な魔法は!どうせならちゃんとドルク好みの【ぼんきゅっぼん美女】にしてよ!なんなのこのささやかな胸の膨らみは!」
「え、そこの問題?えーと、『ボクは成長させただけ。フェリシアが【ぼんきゅっぼん美人】になるなんて、闇魔術の変化でも使わなきゃ無理だヨ。まあいいじゃん、ドルクに育ててもらえば?』って何言ってんですかテン様ぁ!」
「え、胸って育てられるの?ドルク、やり方知ってるの!?」
「ちょ待てこらおいそこのエロ精霊なんてこと言いやがる!」
「わ、僕に言われましても!」
フェリシアはドルクに迫り、ドルクはテンが見えないためティムに詰め寄り、ティムは誰にも助けを求められずに視線を泳がせる。
休みの朝からカオスである。
「そうだドルク!さっきの続き、続きしよう!今すぐティム追い出すから!」
「ちょ、バカ元師匠、ぐいぐい押さないでくださいよ!」
「もうなんの憂いもなくイチャイチャできるらしいし!ね?ドルク!」
「アホか!!!」
腕力にモノを言わせ、フェリシアとティムをぽいっと外に放り出したドルクは大きな音がなる程強くドアを閉めた。
何が起こったか把握できずに呆然とするフェリシアの耳に、「ガチャン」という無情な音が聞こえる。
「ちょっとドルク!どうして鍵閉めるの!?入れてよ!続きしようってば!ドルク?ドルクーーーー!!!」
ドアにすがりつき、どんどん叩く元師匠を尻目に、疲れた顔をした弟子は呟いた。
「・・・帰ろ」
「ドルク!?開けてよ!開ーけーてー!!!」
この時、ドルクはもちろん、フェリシアもティムも知らなかった。
フェリシアがドアを叩く姿が複数の人に目撃されていたこと。
成長したフェリシアを【フェリシア(14歳)の姉】だと町人が勘違いし、「黒の団長が姉妹二人ともを囲っており、ある日、妹といちゃつきたいために姉を追い出していた」という不名誉な噂が生まれたこと。
自分たちのことに必死だった当人は、まだ、何も知らない。
「ドルクぅーーーー!開けてよぉーーーーー!!」
一旦完結設定しておきますが、まだまだ書きたいです。
なかなかちゃんとくっつかないコイツら・・・!