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おまけ1.好きと言って(オモテver.) 後編

「・・・よし、これでオッケー!」


明日はドルクの仕事は休み。いつも通り先に風呂に入り、その後にドルクが入浴している間に、フェリシアは準備を進めた。




以前、ドルクの行きつけだった娼館のドアを「たのもー!」と叩き、営業時間前に乗り込んだフェリシアを、何故か美しいお姉様たちは温かく迎えてくれた。

何でも、黒の騎士団団長が城下に居を構え、年端もいかない少女を囲っていると町で噂になっていたようで、「アナタがあのごつい黒の団長様の幼妻なの!?騙されてない?脅されてない!?」から始まり、実際はフェリシアはただ保護されているだけで、一方的な片想いなのだと告げると「こんないい子を袖にして!任せなさい、お姉さんたちがなんでも教えてア・ゲ・ル」と、フェリシアの相談にも真摯に答えてくれた。


ただ、問題の【既成事実の作り方】についてだが、「アナタみたいな若い子が、一から十まで知ってたら、ああいうタイプの男は逆に萎えちゃうと思うわ~。え?やり方を知らない?好都合じゃないの。初心なまま迫った方が効くわよ!」と言われ、策として授けられたのが。


「っくしょん!・・・やっぱりこれ、薄すぎだよね・・・」


白いナイトドレスである。


お姉様方が、「まだ誰の色にも染まってない白がいいわよね!」「これは?」「ちょっと露出多すぎない?」「こっちは?」「透け過ぎ!もう少し厚手の!」と、熟考に熟考を重ねてフェリシアのために選んでくれた勝負服は、ぎりぎり肌が透けない白で、可愛いレースが胸元と裾にあしらってある、膝丈のものだ。

細い肩ひもで吊られた生地は着心地がいいが、何せ布面積が小さいので寒い。

さすがに下はショーツ(両脇が紐タイプ。もちろんお姉様セレクト)を穿いているが、寒いことこの上ない。

お姉様方が着れば、エロ可愛いであろうナイトドレスも、元から痩せ気味でチビでつるぺたの自分が着ても全く色気を感じない。


「これ着て、ドルクのベッドで待ってればいいって言われたけど・・・」


不安と期待でドキドキしながら勝手にドルクの部屋に入り、ベッドにもぐりこむ。こまめに洗濯はしているが、染みついたドルクの匂いがして、フェリシアは思い切り息を吸い込んだ。


ちなみに、フェリシアの部屋には鍵がついているが、ドルクの部屋には無い。それは、緊急時にすぐ外に出られるようにだが、こうして夜這いをかけるにも便利だと初めて気が付いた。そしてフェリシアも、いつドルクが来てもいいように、鍵をかけたことはない。もちろん、ドルクが夜中に侵入してくれたこともない。


水音が止まり、風呂場のドアを開ける音が聞こえる。

フェリシアは布団をぎゅっと握り、時が来るのを待つ。


自室のドアを開いた瞬間、ドルクがため息とともに呆れた声を出した。


「なんだ?怖い夢でも見たか?」


その言葉に、フェリシアは切れた。


こっちは必死でドルクを誘惑しようとしてるのに、何よその子ども扱い!


そしてベッドの上で、布団を跳ね除け、立ち上がった。


「違うもん!夜這いに来たんだもん!」

「は?・・・お前、なんて格好を!そんなんじゃ風邪ひくだろうが!」


最近、ドルクはフェリシアのことを【アンタ】ではなく【お前】と呼ぶようになった。「なんだか長年連れ添った夫婦みたい!」とはしゃいでいたのは先日のことだったが、今日のフェリシアはそんなところに喜ぶ心の余裕はない。


「ドルク、抱いて!」

「バカ言ってんじゃねぇよ。ほら、ガキは温かくしてさっさと寝ろ」


そう言うや否や、あっという間にフェリシアは布団で簀巻きにされ、自室のベッドに連れて行かれた。


「ほら、眠れないなら子守歌でも歌うか?」


ぽんぽんと寝かしつけるように叩かれる。完璧な子ども扱いに、ついにフェリシアは切れた。完全に、切れた。


「ドルクのバカ!もう出て行って!嫌い嫌い、大っ嫌い!!!」


それだけ言うと、フェリシアは顔を枕に埋めた。


長いため息の後、ドルクの気配が離れ、部屋のドアが閉められる。


「・・・うっく、どるくの、ばかぁ・・・」


我慢できず、両の目からはぼたぼたと涙がこぼれた。




わたぢ()のじかん、ないかも、()れないのにぃ・・・」




フェリシアが心配し、しかし誰にも言えなかったこと。


それは、いつか、【時間のリバウンドが来るのではないか】ということだった。


魔術で戻っていたとはいえ、300年以上も生きてきたことは事実。

いくら宮廷医師や国家魔術師が【健康体】と太鼓判を押そうが、いつ肉体が限界を迎えるか、それは誰にも分からないのだ。


もしかしたら、明日の朝にはよぼよぼのおばあさんになっているかもしれない。

もしかしたら、夜のうちに老衰で死ぬのかもしれない。

もしかしたら昼間だって、何かの拍子に一気に年を取るのかもしれない。


そんな恐怖から、元気なうちに、まだ普通なうちに、ドルクとの関係を進めたいと願っているのに、当の本人があんな態度では、どうしようもない。


「どるくの、ばかぁ・・・」


ヒックヒックとしゃくりあげながら、勝手にでてくる涙を枕に吸い取らせる。

その泣き声は、明け方近くまで続いたのだった。




・・・・・・・・・・・・・・・・




翌日。

ドルクが休みの日は、いつもより少し遅く起きる。

フェリシアは腫れぼったい目をこすりながら、部屋についている鏡を見た。


「うわ、ひどい顔・・・え?」


自分の顔と髪の長さに違和感を覚えた。

幼さが残る顔立ちは、大人らしく変わり、平凡な茶色い髪は床に着きそうなほど伸びている。

そっと下を見ると、昨日着たままのナイトドレスの、つるっつる平原だった胸がほんのり盛り上がっている。

膝丈だったそれは、太ももの半ばまでになっており、ぴったりだったショーツが、今は少しきつい。


「え?え?え?」


頬を触り、髪を触り、体を触る。

骨っぽかった体はあちこち丸みを帯びて、女性らしい曲線を描いている。




フェリシアは恐怖にとらわれた。

恐れていた事態が、起きた。




どう見積もっても10年ほど進んでしまった体は、懸念していた通り、時間のリバウンドが来たのだろう。そうでなければ、こんなに急に、成長するわけがないのだから。


「ドルク!ドルクー!!!」


真っ青な顔でドルクの部屋に駆け込む。


「どうした朝っぱらから・・・っておい、お前、それ・・・!」

「どうしようドルク!私、明日には死んじゃうかもしれない・・・!」


泣き腫らした目にさらに涙を浮かべ、フェリシアはドルクに抱きついた。

いつもは避けるドルクも、フェリシアの尋常じゃない様子に気が付いたからだろう、しっかりと受け止めてくれた。


「う・・・」

「うぇっく、ひぇっ、ど、どうしよ、どるく、どるくぅ・・・」


今までとは違い、ホワンと柔らかなフェリシアの体の感触をもろに味わってしまい、下半身に熱が集まりそうになるのを必死で堪えているドルクに、泣いているフェリシアは気付かない。


このままではいけないと、立派な女性に成長したフェリシアを昨夜のように布団で巻いてから抱え直し、宥めるように背中を撫でた。




「それで?朝起きたら、急にこうなっていたってことか?」

「・・・うん・・・。だから、リバウンドが来たんだって思って」

「リバウンド?」


フェリシアが落ち着くまで待ってから、ドルクは状況を聞き出した。

目を濡れたタオルで冷やしながら、フェリシアは独り抱え込んでいた不安を打ち明ける。


「私、300年生きてたんだもん。健康だって、普通だって言われても、いつ急に年を取るか分からないって、ずっと怖かったの。だって、そんなにうまくいくはずない。・・・やっぱり、幸せな時間は長く続かなかった。こうしてる間にも、どんどん年を取ってるんだ・・・!」


一度止まった涙がまたぶわりと溢れそうになって、濡れたタオルでごしごしこする。


「こら、こすると余計に腫れるぞ」

「・・・ドルク・・・ごめん、一緒に過ごせるの、あとちょっとだ・・・。ずっと一緒にいたかったのに。・・・って、これは私の勝手な願望か、ごめん」

「・・・」

「・・・ドルク、最期にお願いがあるの。・・・抱いて、くれない?きっと、明日にはおばあちゃんになっちゃうから」


濡れタオルを外し、自分を見上げるフェリシアの顔を直視して、ドルクは先程散らした熱が再び下半身に集まってきた。

それもそのはず、フェリシアは今、意図せずに涙目で上目遣い、しかも布団でぐるぐる巻きとはいえ、先程のナイトドレスと言う破壊力抜群の格好である。しかも大人になったフェリシアは、なかなかに可愛らしい顔立ちをしていた。


その上、ここからは完全にドルクの都合だが、【時の魔女】フェル・テンプスにつきまとわれるようになってから、ドルクは娼館に行っていなかった。早い話が、溜まっている。


先程の柔らかな感触を脳が勝手に思い出す。

目の前には、眉をへにゃりと落とし、ウルウルした瞳で見つめてくる妙齢の女性。

その女性からのお願いを、聞かないわけにはいかない。


たくさんの言い訳をしながらも、結局は己の欲望に負けて、ドルクは華奢な肩をそっと掴み、顔を寄せた。

フェリシアも、ドルクの意図を察したのだろう。濡れた睫毛をそっと伏せた。




二人の距離が、ゼロになる。

まさに、その時。




どんどんどんどんどんっ!


「師匠!師匠大変です!開けてください師匠!師匠ってば!」




あまりの騒音に、つい二人とも目をぱちりと開ける。

そしてお互いの近さに、慌てて距離を取った。


その間も、騒音は続いている。


どんどんどんどんどどどどどどどっ!


「早く!師匠!開けて!開けろバカ師匠!」

「うるさい!今開けるから待ってよ!」


早朝ではないとはいえ、まだ朝と呼ばれる時間にこんな大きな音を出していたら、ご近所トラブルに発展しかねない。

フェリシアはドルクのベッドを飛び降り、玄関の鍵を開けた。


「何なのよティム!こんな朝早くに!」

「うっわなんて格好してんですか師匠!あ、本当に大きくなってる・・・じゃなくて!師匠!それ、全部テン様のおかげです!」


元師匠のあられもない姿に顔を赤くしつつも、来た時の勢いそのまま叫んだティムの言葉に、フェリシアは固まった。


「今、何て・・・?」

「テン様ですよテン様!生きてらっしゃったんです!あ、厳密には死なないわけですけど。でも、あの(・・)テン様がまだいるんですよ、ここに!」


ばっとティムが片手を上にあげるが、もちろん魔力無しのフェリシアには見えない。


「テン・・・だと・・・!?ティム、一から百まで、全部説明しろぉーーーーーー!!!」


フェリシアの叫びは、のどかな朝の城下町に響き渡った。

今思ったけど、髪伸びてるなら爪も伸びてるんじゃ!?・・・でもビジュアル的に格好がつかないから、爪はどこかの精霊さんが整えてくれたってことでお願いします( ̄◇ ̄;)

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