第3話 屈託のない毎日
「じゃあ、見回りに出発しましょうか?」
「っとその前に・・・」
モアは何かを思い出したという感じで、手をポンっ叩いた。
「カインとナユは二人で行動して?何故かは分かってるわよね・・・ナユ?」
「あー、はい、はい。わかりましたよ隊長。」
「カイン、あなたはナユの言うことをよく聞くこと。わかった?」
「はい・・・」
「まぁ、せいぜい俺の足を引っ張らないように、しっかり働いてくれよ?新米。」
ナユはカインを挑発的な目で見つめた。
「わかりました、先輩」
あっさりと返答されたナユは軽く舌打ちして、一人で先に外へ出て行った。
「まぁ、気にすんなや。アイツは毒舌だが、実力だけは確かだぜ?」
マックが軽くカインの肩を叩いた。本人は軽くのつもりなのだろうが、やられている側としては相当痛い。
カインとナユは町外れの森に来ていた。この森にはたくさんの魔獣が住んでいるため、人々は怖がって近づかないことから、不入らずの森と呼ばれていた。
「よし、じゃあ見回りを始めるか。新米、お前は3時の方向に回れ、俺は9時の方向に回る。森の中でお互いが出会ったら、見回り終了だ。途中、魔獣が出てきたら躊躇いなく殺せ」
ナユの指示にカインは少し感心した。ただ毒舌なだけかと思っていたのに、的確な指示を出したからだ。
「・・・?なんだ人の顔をジロジロと見て・・・」
「いや、なんでもありません。じゃあ俺は先に・・・」
そういうとカインはナユを残して一人先に森に入った。
「何だ?あいつ?」
ちょっとビックリりした様子でナユもカインとは逆方向から森に入った。
3時の方向から森に入ったカインはわずか十分足らずで森の中間地点の目印となる白い像の立った泉まで来ていた。
カインは白い像の前で立ち止まった。片手に斧、片手に盾を持ち、動きにくそうな重装備を身に纏った女性の像。ラドクリフでは、
「戦いの女神エイドス」と呼ばれて、市民から慕われていた。
「こんな、弱い相手しかいない、平和な町じゃその英名も廃れてしまうぜ?女神様。」
カインは、何も起らない毎日飽々していた。だから、ラドクリフで一番評判のいいモア・ギルドに入った。しかし、実際には見回りだ、奉仕活動だと、まったくやり応えのない仕事ばかりだった。
「何でこんなところに生まれてきたのかなぁ」
カインは青く広がる空を見上げて、深くため息をついた。
そんな風に思って空を見上げていたカインはあることに気がついた。最初はただの黒い点だった何かが確実にゆっくりとカインの方に近づいてくることに。