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女刑事と吸血鬼 ~妖闘地帯LA  作者: ビジョンXYZ
Case4:『エーリアル』
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File9:吸血鬼流の説得術!?

 そして約束の刻限が近付いてきた。もしかしてすっぽかされたのだろうかとローラが不安になり掛けた時、クラブのドアが開き新たな来客を告げた。


 赤毛が特徴的なロシア系の美女……ナターシャだ。ローラが手を上げると彼女はすぐに気付いたようで、こちらに向かって歩いてきた。いよいよだ。


「待たせたかしら? 昨日の取材の原稿を起こすのに思ったより時間が掛かっちゃってね。でも9時には間に合ったでしょ?」


 ナターシャは上着を脱ぐとローラの向かいの席に腰掛けた。早速メモ帳を取り出している。


「さて……『真実』を話してくれるという約束だけど、その前にそちらの『ご友人』について説明して貰えるのかしら?」


 当然ローラの隣に座るミラーカの姿は、この店に入ってきた時から気付いているはずで、説明を求めてきた。ミラーカは艶然と微笑む。


「初めまして。あなたがナターシャ・イリエンコフね? 私はミラーカ・スピエルドルフ。このローラの『特別な』友人なの。まずはローラの話を聞いて頂戴。そうすれば私がいる理由はすぐに解るはずだから」


「はぁ……そう、なの?」


 怪訝そうな様子のナターシャ。まあ当然の反応だろう。だがいきなりミラーカの正体を話す訳にも行かない。まずはローラの主導で話をして反応・・を見るという事で方針は固まっていた。


「ナターシャ、これから『真実』を話す事になる訳だけど、もしかしたらあなたにとって荒唐無稽と思えるような話もあるかも知れない。でもまずは私の話を聞くと約束して」


「……荒唐無稽、ね。私はジャーナリストよ。ただ物見高いだけの一般人とは違う。見くびって貰っては困るわ。前置きがそれだけなら、早速聞かせて貰いましょうか」


「……解ったわ。じゃあまずトミーの話からね」




 そうしてローラは『サッカー』事件のあらましを語り始めた。最初は真剣に聞き入っている様子だったナターシャだが、話が進むに連れてどんどん懐疑的な表情になっていき、やがて聞き終わると同時にメモ帳を閉じて立ち上がった。



「……なるほど。『サッカー』の正体はドラキュラ公とその愛妾達で、フラナガン刑事はその毒牙に掛かって吸血鬼化してしまったと……。あなたが私の事を馬鹿にして真面目に答える気がない事だけは解ったわ。あなたも所詮体制側の人間って訳ね。もう誰も頼らない。私は独自に『真実』に辿り着いてみせるわ。それじゃ、さようなら」



 それこそが危険なのでありローラが恐れている事なのだが、ナターシャはもう聞く耳持たないといった感じで、上着を手に取るとさっさとドアを潜って店から立ち去って行った。


 やはりこうなってしまった。ローラは救いを求めるようにミラーカの方を見た。ミラーカは苦笑しつつ立ち上がった。


「さて、それじゃそろそろ私の出番ね。30分もあれば充分だと思うから、悪いけどこの席をキープしたまま待っていて頂戴」


「ミ、ミラーカ。本当に大丈夫なの? あの様子じゃもう何を言っても……」


「大丈夫よ、私に任せて。30分で戻ってくるわ。彼女と一緒に(・・・・・・)ね」


 ミラーカはそう言ってローラにウィンクすると、自らもコートを羽織って足早に店を出て行った。



****



(本当に大丈夫なのかしら? ミラーカの事だから心配はないと思うけど……)

 

 そろそろ30分経つ。ソワソワと不安になり掛けた時、再び店のドアが開いた。


「あ…………」


 ドアを潜って現れたのは、ローラの愛しい恋人の姿。ローラに向けて笑顔で手を振ってくる。ローラが反射的に手を振り返していると、ミラーカの後からもう1人ドアを潜ってきた人物。赤毛の女性……ナターシャだった。少し青ざめた顔色をしていた。


(ほ、本当に連れ戻してきた。それに彼女のあの様子……一体何をしたの、ミラーカ!?)


「待たせたわね、ローラ。約束通り彼女を連れて戻ってきたわ。これで問題ないでしょう?」


「え、ええ……ありがとう、ミラーカ」


 ローラの待つテーブル席に戻ってきた2人。ローラはチラッとナターシャの様子を窺う。彼女はまだ少し青い顔をしていた。


「か、彼女に何をしたの、ミラーカ?」


「うふふ……別に、ただ誠心誠意『説得』しただけよ。ねえ、ナターシャ?」


「……ッ!」


 艶然と微笑むミラーカに水を向けられナターシャが、ビクッとしたように身体を震わせる。


「え、えーと……ナターシャ? とりあえず私達の話を信じてくれる気になったという事で良いのかしら?」


「……ええ、信じるわ。信じるわよ。……あんなもの(・・・・・)見せられちゃ信じるしかないでしょ……」


「ナ、ナターシャ?」


 血の気の引いた顔でテーブルに俯いてブツブツ呟くナターシャ。


(ホ、ホントに何をしたの!? ……お、恐らく吸血鬼としての『本性』を見せたって事なんでしょうけど……)


 やはり一番説得力があるのは、何と言っても『証拠』を見せる事だ。元々そのつもりでミラーカに同席を頼んだ訳なので、まあある意味では狙い通りに行ったと言えるのだが……


 しばらく俯きながら現実と戦っていたナターシャだが、やがて整理が付いたのか頭を振って顔を上げた。そしてローラが頼んでおいたワインの入ったグラスを盛大にあおった。グラスを置いた彼女の顔は完全に元の色を取り戻しており、その目には新たな情熱のような物が燃え上がっているように見受けられた。


「ギブソン刑事……いえ、ローラと呼んでも良いかしら?」


「え、ええ」


「ありがとう。それじゃあローラ。先程の態度を心から謝るわ。あなたは真実を言っていた。まずは『サッカー』の犠牲になったフラナガン刑事の冥福を祈らせて頂戴」


「あ、ありがとう、ナターシャ」


「いいのよ。そしてその上で私は『真実』を知りたいの。『ルーガルー』事件や『ディープ・ワン』事件についても真相を話してもらう事は出来ないかしら?」


 ナターシャは真摯な態度でローラを見つめる。


「……話すのは構わないけど、新聞に載せるのは……」


「解ってるわ。その点に関しては安心して貰っていいわ。私もグール(・・・)にはなりたくないし……」


 ローラはミラーカの方を見た。彼女はニッコリと微笑みながら肩を竦めた。ローラは天を仰ぎたい気持ちを堪えて、代わりにハァ……と溜息を吐いた。


「いいわ。それじゃ時系列的に『ルーガルー』事件の方からね……」



 そしてローラはナターシャを信じて、『ルーガルー』事件及び『ディープ・ワン』事件の真相を余す事無く話し終えた。マイヤーズ警部補の正体や、『ディープ・ワン』がダリオの成れの果てである事なども全てだ。ここまで来たら中途半端に隠しても却って逆効果だろうと判断したのだ。



「マ、マイヤーズ警部補が狼男……。そして新しい相棒のロドリゲス刑事が『ディープ・ワン』って……」



 全てを聞き終えたナターシャは流石に絶句していた。


「あの……こんな事言うのも気が引けるんだけど……ローラ、あなた何かに呪われてでもいるんじゃないかしら?」


 遠慮がちに述べるナターシャに、ローラも疲れた表情で頷いた。


「ええ、冗談抜きにそう思うわ。しかもそう思った矢先に、今度は『エーリアル』と遭遇だからね……。私とミラーカは今までの怪物達による一連の事件には『黒幕』がいるんじゃないかと睨んでいるのよ」


「黒幕ですって!? 何故そう思うの?」


 ローラは、マイヤーズの言葉やミラーカの推測などを伝えた。ナターシャの顔が青ざめる。それは先のミラーカに脅されて(?)いた時とは種類の違うものであった。


次回はFile10:有力な手がかりと新たな仲間


ナターシャは自らが調査していた有力な情報をローラに提供する。

その代わりに彼女はとある条件を持ちかけてくるのだが――

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