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女刑事と吸血鬼 ~妖闘地帯LA  作者: ビジョンXYZ
Case3:『ディープ・ワン』
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File11:サンタカタリナ島へ



 ――気配が……陰の気が消失した。



 次の瞬間、消えた時と同じように部屋中の電気が一斉に点いた。唐突に明るくなった視界にカーミラは一瞬目を細める。TVからは何事もなかったかのように映像と音声が流れてくる。


「…………は、あ……! はぁっ! はぁっ! はぁっ!」


 激しい精神的重圧から解放されたカーミラは、思わずその場に片膝を着いて激しく喘いでしまう。既に死神の姿は影も形もない。元通りの自分達の部屋だ。


 まるで今の一幕が全て夢ではなかったかと錯覚する程の平穏さだ。だが……



(いや……夢なんかじゃない)



 カーミラは視線をテーブルに移した。そこには粉々に砕けたグラスの残骸が、奇妙な形(・・・・)に散らばっていた。


(……何かの模様……それとも絵、かしら……?)


 それは左半分が尖った形をしていて、右半分はそれより広く丸みを帯びた形をしている奇妙な形状の模様であった。


 あの死神はわざわざこの模様を作り、最後にも指を指していた。何の意味もないとは思えない。


(あいつは「島」へ急げと言っていた。となるとこの模様はもしかして……)


 カーミラはスマホで地図アプリを起動し、このロサンゼルス近海から地形を確認してみる。すると……ビンゴだ。


 ロングビーチ市から海峡を挟んで南に下った場所にある島、サンタカタリナ島……。あの死神が残した「模様」と、この島の形は完全に一致していた。



(あいつは何故この島を……? 私が求めるものって一体?)



 少なくともカーミラ自身には全く心当たりがなかった。しかもあの死神はもう時間がないというような事も言っていた。増々訳が分からない。急げとは、何を急げばいいのだろう。


 奇妙な謎にカーミラが途方に暮れていると、部屋のインターホンが鳴った。今の今であった為カーミラは一瞬ビクッとするが、すぐに苦笑して気を取り直した。


 ローラならわざわざインターホンを鳴らさない。こんな時間に誰か来客だろうか。とりあえず画面を覗いてみると、それは意外な人物であった。



「え……あなた……ジェシカ? ジェシカ・マイヤーズなの?」



 カーミラの記憶にある少女とは随分異なる、Tシャツにショーツという年頃の少女らしい格好であったが、それは紛れもなくあのジェシカ・マイヤーズであるようだった。


(そういえばローラが更生したって言ってたような……)


『あ……ああ、良かった。居てくれた……。そうだよ、ジェシカだよ! ミラーカさん、頼む、入れてくれ! あの人が……ローラさんが大変なんだ!』


「ッ! な、何ですって……!?」


 何やらただならぬ雰囲気と、ローラが大変という言葉に、カーミラは慌ててエントランスのドアを開いた。




 その後部屋に上げたジェシカから、ビーチであった一部始終を聞くことになった。因みにこのアパートの住所は以前にローラ自身から聞いていたらしい。


(ローラが『ディープ・ワン』に!? 何て事……!)


 ジェシカによると白昼堂々襲撃してきた『ディープ・ワン』の毒によって麻痺させられ、ローラとジェシカの先輩であるヴェロニカ・ラミレスの2人を抱えて連れ去ってしまったのだという。


 死んだのではなく麻痺させられたと解ったのは、もう1人被害に遭ったローラの相棒のジョンという刑事が生きていたかららしい。


 どうやら『ディープ・ワン』はロングビーチ市警に使ったような致死毒以外にも、いくつかの種類の毒を使い分けられるようだ。


 ジョンは再び病院に運ばれた。ジェシカは狼の血のお陰か1時間程で、何とか歩けるまでに自力で回復したらしい。ロングビーチ市警の部隊が全滅したのはジェシカもニュースで知っており、警察では駄目だと判断して思い浮かんだのがカーミラの顔であり、とにかくこの事を報せなければとここまで走ってきた、というのが事のあらましだ。


「ど、どうしよう、ミラーカさん! どうしたらいいんだ! あたし、ローラさんに何かあったら守るなんて言っといて、何の役にも立たなかった……! このままじゃ先輩とローラさんが……!」


 激しく動揺して涙目になっているジェシカを見ている内に、カーミラの心は冷静さを取り戻していた。他にもっと慌てている者がいると冷静になれるという心理と、自分までパニックに陥るわけには行かないという使命感が働いた結果だ。


「落ち着いて、ジェシカ。あなたは最善を尽くしたわ。私に報せてくれたのは正解よ。相手はあの『ルーガルー』以上かも知れない化け物よ。あなたの手に負えなかったのは仕方のない事だわ」


「ミ、ミラーカさん……でも……!」


「奴はローラ達を麻痺させて連れ帰ったのよね? なら今すぐに殺されるという事はないはずよ」


 だが一刻の猶予もないのは確かだろう。『ディープ・ワン』がローラ達を殺さずに連れ帰った理由は不明だが、いつ気が変わってメインディッシュにしようとするか分からないのだ。


「どこに連れて行ったのか……それが重要ね」


「あ、あたしには解らないよ。ビーチからそのまま南に向かって泳いで行っちまったから……」


「南……。ッ! まさか……!?」


 ロングビーチの南の海には何がある? カーミラはつい先程それを見ていたばかりではないか。この奇妙な符合は偶然だろうか。いや、それはあり得ないと首を振る。余りにもタイミングが良すぎる。



(私が求めるもの……それは一つしかない)



 即ちローラがあの島にいるという事だ。そして死神の言葉が正しいのであれば、もう余り時間的猶予は無いという事になる。カーミラは顔を上げてジェシカを見た。


「詳細は言えないけど、ローラ達の居場所には心当たりがあるわ。私は今からすぐに向かう。あなたは家に帰っていなさい」


「ッ! い、いやだ! あたしも行く! 先輩とローラさんがあいつに捕まってるって言うのに、家で寝てなんていられないよ!」


「ジェシカ、これ以上危険な――」


「行くったら行くんだ! 足手まといにはならないよ! それにローラさんだけじゃなくて、先輩も捕まってるんだ! ミラーカさんだけで先輩まで守れる保証があるのかよ!」


「……! そう、ね。……解ったわ。一緒に行きましょう」


「! ありがとう、ミラーカさん……!」


 確かにジェシカの言う事は尤もだ。『ディープ・ワン』と戦闘になった時にローラは何としても守るつもりだが、ヴェロニカの方まで手が回らない可能性は高い。


 まだ高校生であるジェシカに殊更危険に首を突っ込んで欲しくはなかったが、カーミラ自身がヴェロニカまで必ず守ると確約できない以上、連れて行かざるを得ない。


「ただしウォーレン神父に電話で事情を説明して、彼から学校とあなたのお母さんに連絡しておいて貰う事。これが条件よ」


 ジェシカはまだ法的に自立した大人ではない為、勝手に連れ歩けば誘拐扱いになりかねない。ジェシカもすぐにその事に思い至ったのか、しっかりと頷いた。


「ああ、今すぐ電話するよ。……神父様、まだ起きてるかな……」


 幸いウォーレンには無事繋がったのでカーミラも口添えする事で、ジェシカの母親と学校に彼の方から上手く言っておいて貰う事を何とか了承させた。ただしローラ達は勿論、絶対にジェシカも無事に連れて帰ってくる事を約束させられた。


 新たに増えた課題に溜息を吐きつつ、カーミラはジェシカを伴いロングビーチの港へと急いだ。目的地は……サンタカタリナ島だ。


 今、怪物達が血みどろの死闘を繰り広げる悪夢の夜が、三度みたび始まろうとしていた……


次回はFile12:狂気の研究室


囚われの身となったローラとヴェロニカ。

そんな彼女達の前に、元凶となった人物が遂に姿を現す――!

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