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女刑事と吸血鬼 ~妖闘地帯LA  作者: ビジョンXYZ
Case2:『ルーガルー』
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File8:作戦開始

 市警の捜査本部。ローラはマイヤーズのオフィスで、難しい顔をした彼と向き合っていた。


「……正気か、ローラ。どんな危険があるか解らんのだぞ? 前回奴が君を見逃したのは、ただの気紛れという可能性だってある」


 その可能性は勿論ローラも考慮している。前回見逃されたからと言って、今回も都合よく助かるとは限らない。だがそれを考慮しても尚、ここが決断のしどころだと思っていた。


「FBIが万全の態勢でのサポートを約束してくれています。勿論私だってむざむざ殺されたり何なりしてやるつもりはありません。これは奴との……『ルーガルー』との戦い(・・)です。そして私達は……人間は絶対に負ける訳には行かないんです!」


「…………」


 尚も険しい表情のまま考え込んでいたマイヤーズだったが、ローラは特に心配していなかった。現状が手詰まりなのは、誰よりも彼自身が一番身に染みているはずなのだ。そしてこの『戦い』の重要性も彼なら理解してくれるはずだ。



 ややあって、マイヤーズは顔を上げてローラをジッと見つめてきた。



「……絶対に油断するな。いざとなったらFBIなど何人犠牲にしても構わん。必ず無事に帰ってこい。これは命令だ」


「警部補……ありがとうございます! 了解しました!」


「それと念の為、ジョンはそのままお前に同行させよう。FBIだけではどうにも信用が出来んしな。本来なら私が直接同行したいくらいだが……」



 今回の『作戦』自体はFBIの主導となる。市警が加わっても上手く連携が取れない可能性が高い。人数ばかり増えてもその分小回りが利かなくなり、隠密性も低下するというデメリットがある。ましてや『ルーガルー』の外見・・を考えると、余り市警の人間に目撃させたくないという面もある。FBIほど情報統制や教育が行き届いている訳ではないのだ。どこからマスコミに漏れるか解ったものではない。


 その為、市警側の捜査責任者であるマイヤーズが出向く訳には行かないという訳だ。彼が出向けばそれは、FBIと市警の『共同作戦』という形になってしまい騒ぎが大きくなる。あくまでローラとジョンを『協力』という名目で出向かせる形だ。



「そのお気持ちだけで充分です。必ず任務を成功させてきますので、吉報をお待ちください!」


「うむ。成功と無事を祈っている。宜しく頼むぞ」



 こうして正式に『ルーガルー』逮捕・捕獲作戦が実施される運びとなった。ローラは進んでその身を『ルーガルー』の脅威に曝す事になる。グッと拳を握り締める。



(絶対にあの化け物を止めてみせる……。ミラーカ、私に力を貸して頂戴)



 どこか遠い地にいるであろう美貌の吸血鬼の顔を思い浮かべながら、ローラは決意を新たにするのだった……。




****




 時刻は夜。ただでさえ人通りの少ない場所にある寂れたゴルフ場は、夜には完全に無人となる。ごくまれにホームレスや、いかがわしい目的の人間が通りかかるくらいのものだ。


 場所は前回2人の警官が殺された現場となったゴルフ場。「犯人は現場に舞い戻る」という言い回しではないが、この場所は『ルーガルー』の縄張りの一つと目されており、タイミング的にも現れる可能性が最も高いとされた。



「さて、準備は良いわね、ギブソン刑事?」

「ええ、いつでも行けるわ」



 クレアの確認に、緊張した面持ちで頷くローラ。クレアが少し苦笑する。



「まあ気持ちは解るけど、もう少し肩の力を抜きなさい。余り強張った顔をしていると奴に不審がられるかも知れないわよ? 私達が2人共(・・・)なるべく自然体でいるのが理想的なのよ」


「待って。今、2人共って言った?」



 するとクレアが人の悪そうな笑みを浮かべる。



「あら、言ってなかったかしら? ウチが主導するのに、危険な囮役は他所任せっていうのは格好が付かないでしょう? 私にとっても今回の事件は本部への転属が掛かった大きなチャンスなの。手柄をアピールするには絶好の立ち位置でしょう?」


「チャンスって、あなたね……」


「それに男女2人組より女2人の方が奴を誘き寄せるには好都合でしょう? 流石に1人でこんな所をうろついていたら、奴も怪しんで出てこないかも知れないし」



 それは確かにその通りだろう。『ルーガルー』も基本的に人間である以上、獣相手のような単純な罠では見抜かれてしまうだろう。夜の犯行現場をうろつくのに、いくら刑事とは言え相棒も連れずに1人というのは流石に不自然だ。相方がいた方が自然に見えるはずだ。それが女性の2人連れとなれば奴の獣欲――あるいは食欲――をより刺激できるかも知れない。



「……いいけど、足を引っ張らないでよ?」

「あら、それはこちらの台詞よ」



 そんな彼女達に近付いてくる足音。ジョンソン捜査官だ。ローラの今の相棒のジョンもいる。



「アッカーマン。こちらの準備は整った。総員12名の部隊、配置完了だ」


「ご苦労様。……ふぅ、いよいよね。上手く釣り針に掛かってくれればいいけど」



 基本的な作戦はローラ達に釣られて現れた『ルーガルー』を、予め死角に配置してある部隊を使って制圧すると言うシンプルなものだ。


 まず外縁に配置された狙撃部隊6名がありったけの麻酔弾を撃ち込み、それでも倒れないようなら内縁にいる制圧部隊6名が射殺を考慮に入れた重火器を手に突入という内訳だ。勿論その時点でローラ達は安全な場所に避難出来ているのが理想だ。



「ローラ……くれぐれも無理はするなよ。もしもって時は勝手に突入するからな。作戦なんざクソくらえだ。お前の命の方が大事だ」



「ジョン、ありがとう。そうならないように願ってるわ」



****



 そして作戦が開始された。ジョン達もその場から居なくなり、現場にはローラとクレアの2人だけになる。元々それ程人通りも多くなかった事に加えて、凶悪な殺人事件の現場となった事で、特に夜間の人通りは完全に途絶えているといって良い。


 人払いという意味では好都合だが、果たしてこんな所に『ルーガルー』が本当に再び現れるのかという不安もある。



「奴には一定の『巡回ルート』がある事が確認されてるわ」



 ローラの心を読んだかのようにクレアが説明してくる。或いは彼女も自己の不安を紛らわそうとしているのかも知れない。



「巡回ルート?」


「そう。いくつかの『狩場』を持っていて、そこを巡りながら獲物を物色しているようなの。全ての『狩場』を特定できた訳ではないけど、有力な候補地はある程度絞れてる。他の『狩場』と思しき場所には予め警備員達を配置してあるわ。それも奴が嫌いそうな屈強な男性の警備員達をね。だから奴は必ずここにも顔を出すはずよ」


「…………」



 裏でそんな事までしていたとは驚きだ。どうやらFBIの捜査状況は市警よりもかなり進展しているようだ。尤もそれは捜査能力の優劣という訳ではなく、認識の差というやつだろう。


 基本的に市警では『ルーガルー』はあくまで人間の犯罪者という扱いだ。その為捜査の方針もそれに準じた物にならざるを得ない。真実を知っている者はローラを含めてごく僅かしかいない。能動的な捜査は困難な状況にあった。


 対してFBIはクレア達の口から語られたように、恐らくそういった超常犯罪を扱う部署が実際に存在するのだろう。最初から『ルーガルー』が人外の怪物であるという前提で捜査している。この認識の差が如実に捜査の進捗度合いとなって表れているのだ。


 市警の一員としては少々思う所はあるが、とりあえず今だけは彼らが頼れる存在である事を喜ぶべきだろう。今はとにかく『ルーガルー』の事件を終わらせて、街の安全を取り戻す事が最優先だ。もうつまらない所轄争いをしている段階ではない。

次回はFile9:闇夜の殺戮者


待ち構えるローラ達の元に、本当に『ルーガルー』が姿を現した!

クレアは潜伏しているFBI部隊に攻撃を指示するが――!?

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