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女刑事と吸血鬼 ~妖闘地帯LA  作者: ビジョンXYZ
Case2:『ルーガルー』
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File5:FBIの介入

 非番明け。ダリオの意識はまだ戻っていないようだった。暗い気持ちのままそれでも何もしない訳には行かずに捜査本部に出勤すると、マイヤーズが難しい顔で出迎えた。他の署員も全体的に暗い表情だ。



「……来たか、ローラ。体調の方は問題ないかね?」


「え、ええ、警部補。私ならもう大丈夫です。それより何かあったんですか? まさか『ルーガルー』が新たな事件を……?」


「いや、そうではないんだが……」



 マイヤーズが苦虫を噛み潰したように言い淀んでいる所に、2人に近付いてくる者達がいた。



「待ってたわ。あなたが『噂』のギブソン刑事ね?」



 やや居丈高な口調と共に近付いてきたのは男女の2人組であった。声を掛けて来た女性の方は、ローラと同年代かやや年上くらいだろうか。30歳前後と言った所か。


 美人だがキツめの顔立ちにスーツ姿と細い眼鏡が妙にマッチしていた。濃いブラウンの髪をアップにして纏めている。男性の方はもう少し年上で40絡みに見えた。固めの役人のような雰囲気であった。



「!? ……警部補、こちらの方々は?」


「うむ、それは……」



 とマイヤーズが何か言い掛ける所に、再び被せるように女が喋ってきた。



「まどろっこしいやり取りは無しよ。シンプルに行きましょう」



 女はそう言ってバッジを見せてきた。その金色に輝く独特の徽章は……



「ま、まさか……」


「連邦捜査局LA支局のクレア・アッカーマン捜査官よ。こっちはジョンソン捜査官。今日から私達も『ルーガルー』事件の捜査を担当させて貰うわ。これはそちらの本部長を通した正式な決定よ。あなた達に拒否権は無いわ」


「……!」



 連邦捜査局。つまりはFBIという事だ。政府直轄の捜査機関で、あらゆる所轄を飛び越えた捜査権限を持つ。それだけに管轄を重視する各所轄の自治体警察からは嫌われる傾向にある。通常は所轄の警察が対処できない、州を跨いだ犯罪などに関わる事が多い。



「でも……何故FBIが? 『サッカー』の時ならいざ知らず、『ルーガルー』は基本的にこのロサンゼルスだけで活動している殺人鬼のはず。FBIが関わるような理由は……」



 ローラが疑問を呈すると眼鏡の女性――クレアは、クィッと眼鏡を押し上げて不敵な笑みを浮かべる。



「本部が重大だと判断した、国内の治安を脅かす可能性のある案件に対してはその限りではないわ。そしてこの『ルーガルー』は私達としても非常に興味深い(・・・・)案件なの。前回ここで起きた『サッカー』事件と同様に、ね」


「…………」



 確かに『ルーガルー』の推定・・被害者は50人を超えると見做されており、史上稀に見る凶悪殺人鬼ではある。だがあくまで個人の犯罪であり、テロや麻薬取引のような大規模な組織犯罪という訳ではない。治安維持という名目でFBIが積極的に絡んでくる理由が解らない。それに今の言い方自体も何か引っかかる物があった。


 クレアが一旦ジョンソンの方を向いて頷き合うと、再び視線をこちらに戻した。



「待っていたと言ったでしょう、ギブソン刑事。あなたに……あなた達に少々確認したい事があるのよ。ここではマズいわ。警部補、あなたのオフィスをお借りしてもいいかしら?」



 提案の体を取っているが、実質は命令のような物だろう。それが解っているのか、マイヤーズは苦々し気な表情のまま頷いた。



「よし、決まりね。ふふ、色々と楽しい(・・・)話が聞けそうね?」



 クレアはさっさとマイヤーズのオフィスへと入って行った。ジョンソンも無言で続く。ローラはマイヤーズの顔を見た。



「……何も言うな。嵐のようなものだ。大人しく過ぎ去るのを待つ他あるまい」



 その表情と口調には諦観の念が滲み出ていた……




****




 オフィスに入るとドアが閉められ、窓のブラインドが降ろされた。これはこの中で内密の話をする時の合図のようなものだ。場を整えたクレアがローラの方に向き直る。その視線に居心地の悪い思いを感じたローラは、無意識にスーツの首元を緩めていた。



「さて……それではギブソン刑事。あなたは先日『ルーガルー』に遭遇した。これは間違いないわね?」


「は、はい」


「そして相棒のロドリゲス刑事は『ルーガルー』によって負傷し、意識不明の重体のまま病院で治療を受けている。これも間違いないわね?」


「……その通りです」



 何を聞きたいのだろうかとローラは身構える。マイヤーズも緊張した面持ちだ。



「では……その上で改めてあなたに『ルーガルー』の容姿・・や相棒を負傷させた方法・・について説明して欲しいのよ」


「……!」


 容姿や方法という所に妙にアクセントを置いた言い方が気になった。だがまさか真実・・を言う訳にも行かないので、ローラは様子見も兼ねてマイヤーズの上げてくれた報告書の内容をなぞった。即ちフードを被った大男で、鉤爪のような凶器を使ってダリオを襲ったという内容だ。


 それを聞いたクレアが声を出して笑う。



「あははは、良く考えたわね。でも、それでもちょっと無理があるんじゃない? エレン・マコーミックやその他の被害者……獣の牙(・・・)で喰い散らかされた死体をどう説明するのかしら?」


「そ、それは……」



 ローラは困ってマイヤーズの方を確認する。するとマイヤーズが重々しく口を開いた。



「……単刀直入に行こうじゃないか。君達は……FBIは何を知っている(・・・・・・・)?」


「ッ!?」



 ローラは息を呑む。クレアの持って回った言い方からもしやという思いがあったが、実際にどうなのだろう。ローラは緊張しつつクレア達の動向を見守る。すると今まで黙っていたジョンソン捜査官が喋り出した。



「……非公式だが我々FBIには国内における超常犯罪(・・・・)を扱う部署が存在している。一般には知られていないが、全国からは様々な超能力、心霊、UFO、そしてUMAと思われる目撃情報、またはそれらが関わったとされる犯罪の情報が寄せられる。それらを捜査する為の部署という訳だ」



 それを聞いたマイヤーズがピクッと眉を上げる。



「単刀直入にと言ったはずだが? それに非公式であるなら何故私達の前でその事を明かす?」


「理由は簡単だ。お前達がまさにその超常犯罪の目撃者・・・であると我々が睨んでいるからだ」


「……ッ!」



 ローラは今度こそ絶句してしまう。マイヤーズの表情も見る見る険しくなっていく。



「……どこまで知っている?」


「残念ながらまだ確証は得られていないわ。でも検死結果から見ても、私達は『ルーガルー』がただの人間ではあり得ない事を確信している」



 マイヤーズの問いに再びクレアが引き継いで答える。彼女はもう一度ローラの方を見やる。



「だからこそ、あなたの証言が聞きたいのよ。実際にマコーミックの家で何があったか……話して貰えるかしら?」



 ローラは確認の意味も込めてもう一度マイヤーズに視線を向ける。マイヤーズは諦めたような表情になっていた。



「……構わん。これ以上隠し立てしても無意味だろう。話してやれ」


「は、はい……」



 ローラも覚悟を決めて話し出した。マコーミック邸に着くと玄関のドアが開いていた事。中に踏み込むと子供部屋で息子のショーンが惨殺されていた事。そしてダリオの悲鳴と銃声。階段から転げ落ちてくるダリオ。2階を見上げるとそこには――



「――ッ!」



 あの時の恐怖を思い出してローラは思わず目を瞑ってしまう。



「大丈夫よ。ゆっくりで良いわ。落ち着いて、深呼吸しなさい」



 クレアが意外な程穏やかな優しい口調で宥めてくれる。ローラはそのお言葉に甘えて、一旦深呼吸して気持ちを落ち着かせる。動悸が収まってきたのを確認してから再び話し始める。


 そこに居たのは、人間とオオカミが掛け合わさったような異形の怪物だったという事。そして目の前に降り立った狼男は、まるでローラの恐怖を楽しむかのように不気味に嗤いながら窓をぶち破って外へと消えていった事……。



 全てを話し終ったローラは、ふぅっと息を吐くとグッタリと椅子にもたれ掛かった。背中に嫌な汗を掻いていた。あの体験を鮮明に思い出して言葉にして語るというのは、ローラをしてかなりの心理的負担であったのだ。

次回はFile6:疑問と糸口


ローラからの報告を聞いたクレア達はFBIの見解を披露する。

彼女らの視点は市警に比べて一歩進んでおり――!?

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