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女刑事と吸血鬼 ~妖闘地帯LA  作者: ビジョンXYZ
Last case:『ゲヘナ』
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File7:邪悪の残滓

「ふぅぅぅ……。一時はどうなる事かと思ったが……済まんな、ゾーイ。君が加勢に来てくれたお陰だ」


 ビブロス共の殲滅を確認し、それ以上新手の敵が襲ってこない事を確信して、セネムはようやくといった感じで一息吐いた。


 正直尖兵というイメージからは程遠い、かなりの強敵だった。少なくとも霊鬼(ジャーン)を始めとする【悪徳郷】との戦闘で戦った雑魚共よりはるかに手強い。『エーリアル』の『子供』よりもだ。

 


「でも……何故あなたがここに? しかもこのタイミングで」


 モニカがゾーイに質問する。それはセネムの聞きたい事でもあった。するとゾーイではなくナターシャが答えた。戦闘が終わったのを確認して、隠れていた場所から出てきたらしい。


「私と彼女がプライベートでも友人だって話はしたわよね? それで最近、連続失踪事件の影響で色々ときな臭くなってるじゃない? 何となく魔物が関わってそうな気がしたから、事件の調査に際して元々彼女に護衛(・・)を依頼していたのよ」


 ゾーイは約束通りLAに戻ってきた後、現在はあの『ディザイアシンドローム』事件の発端となったLA自然史博物館に、ローラの口利きによって職を得ていた(ローラは博物館の現館長の弱みか何かを握っているらしい)。しかし時々アルバイト(・・・・・)で、こうしてナターシャの取材や調査にボディーガードとして付き添っていたのだとか。


 今回は『死の博物館』の下見の予定だけだったらしくゾーイは同行していなかったのだが、思いがけずセネム達と出くわしてそのまま随伴する形になり、もしもの時の為に自分達が潜入している間ミュージアムを外から見張って貰っていたらしい。そしてビブロス達との戦闘で苦戦しているセネム達を見て、ナターシャがゾーイに携帯でヘルプ要請したというのが真相のようだ。



「なるほど、そういう事でしたか……。本当はこれ以上他人を巻き込みたくなかったのですが、助けて頂いた身の上ではそうも言えませんね。ゾーイさん、ありがとうございました。お陰で助かりました」


 事情を聞いたモニカが素直に礼を述べる。ゾーイが慌てたように手を振る。


「そ、そんな、いいのよ。私なんてこれまで皆に散々迷惑を掛けてきたんだから、これくらいならいつでもお安い御用ってものだわ」


「まあここまで関わってしまった以上、今更気にせずに帰るなど不可能だろうしな。済まないがこのまま君も、私達の調査に協力してくれないか?」


 セネムが頼むと、ゾーイは解っているという風に頷いた。


「そりゃ、あんな物見ちゃったらね……。で、あいつら一体何だったの? 何か悪魔みたいな外見だったけど、まさか本物の悪魔とか言わないわよね?」


「まだこの建物の邪気は晴れていません。時間も限られていますし、まずは探査を再開させましょう。その道中でご説明します」


 一行のリーダー役であるモニカが促して、邪気の探査を再開させる。ゾーイに対しての説明はナターシャが請け負ってくれた。



 そして4人になった一行はそのまま探査を継続させる。ホールの奥……ビブロス達が現れた廊下を進んでいく。進むにしたがって邪気はどんどん強くなっていく。


 やがて一行は倉庫と思しき場所に到達していた。倉庫の奥には地下室に続くと思われる扉があった。邪気はこの扉の下から漏れ出してくる。扉は施錠されていたが、セネムが再びピッキング技能を駆使して扉を開ける。


 そして地下室へ踏み込んだ一行の目に入ってきた光景は……


「う……こ、これは!」

「……っ!」


 セネムが呻き、モニカが息を呑んで無意識に十字を切った。


「う、嘘……何なのよ、これ……」

「うぅ……ゲェェェェッ!!」


 ナターシャが青ざめた顔で呆然と呟く横で、ゾーイが堪え切れずに嘔吐していた。



 彼女達の目の前に広がる光景……。それは、地下室の床にうず高く積まれた人骨の山(・・・・)であった!



 ざっと見積もっても数十人分の量がある。しかも……


「……漂白していない。まだ新しい(・・・)な。しかも傷や破損も目立つ。これは腐敗や火葬によるものではないぞ」


「ええ……恐らくあのビブロス共に食われた(・・・・)人達の成れ果てでしょう」


 セネムが極力冷静な目で骨の山を検分すると、モニカが痛まし気な表情でそれに同意するように頷いた。それを聞いたナターシャが口を挟む。


「ま、待って……。あいつらってその『ゲート』に関係してるのよね? という事は、この骨の山はまさか……」



「はい。間違いなく今回の連続失踪事件の被害者(・・・)の遺骨でしょう。ここに全て集められているようです」



「「……っ!!」」


 モニカの答えにナターシャとゾーイが青ざめて瞠目した。ローラ達警察が捜している被害者達の遺体(・・)を発見してしまったのだ。



「ど、どうするの、これ? 警察に通報するべきよね?」


 ゾーイがまだ青い顔のまま提案するが、残りの3人は難しい顔で首を横に振った。


「いや、それは無理だ。我々はここに不法侵入しているからな。状況説明が出来んし、それでは通報の義務は果たせん」


「あ……」


 セネムに指摘されてゾーイもその事実に思い至ったようで絶句していた。


「それにこれを発見してしまう事で、ローラさんは『ゲート』の存在により迫ってしまう可能性が高いです。それは出来れば避けたい所ですが……」


 ローラ達を闇の世界から遠ざけて守る事を主目的としているモニカも、心苦しい様子でかぶりを振った。とはいえ、この哀れな被害者達の遺体をそのまま放置していく事にも抵抗があるようだ。



「……そもそもこの大量の骨の山が、この施設の人に今まで気付かれてなかったのもおかしな話よね? これには何か理由があるの?」


 ナターシャがモニカに質問する。


「それは……恐らく、この邪気によって何らかの認識阻害の力が働いているのだと思われますが……」


 彼女が何を言いたいのか解らず戸惑うモニカだが質問には答える。



「で、その認識阻害の力とやらは、あなたの力で解除(・・)する事は出来ないの?」



「……!!」

 モニカが目を見開いた。ナターシャが何を考えているのか悟ったのだ。そしてそれはセネムも同様だった。


「なるほど……。つまりこの施設の職員に自然に発見してもらう(・・・・・・・・・・)という訳だな?」


「その通りよ。そしてこんな物を見たら間違いなく警察に通報するでしょう? ちゃんと正規の手段(・・・・・)でね」


 ナターシャが首肯する。確かにそれなら自分達が直接関わらずに、警察にこの事を通報してもらえる。そしてその場合は通報されるのはどんなに早くとも、明日の開館時刻以降となるはずだ。


 つまり自分達がこのまま調査を続行するなら、ローラに先んじて『ゲート』を探し出す時間的猶予は充分取れるという事でもある。  


「それがベストだろうな。勿論ここの邪気を祓う事が可能なら、だが……」


 全員の視線がモニカに集中する。そういう事が出来るとしたら一番可能性が高いのは彼女だ。セネムでも出来ない事はないが、これだけ濃密な邪気を建物ごと祓うとすれば相応の準備と時間が必要になる。


 果たしてモニカは神妙な表情で頷いた。


「解りました。ここを汚染していた悪魔達は斃しました。確かに今なら邪気を祓う事が可能なはずです。それでこの方達の供養にもなりますし」



 そしてモニカの主導で、このミュージアムに満ちる邪気を祓う事となった。セネムとゾーイも霊力や魔力を提供して、モニカがそれらを一つに束ねて自身の霊力と共に建物中に浸透させる。そして……


「邪なるモノよ! この場から消え去りなさいっ!!」


 モニカが一気に力を解放すると、僅かに空気が振動するような感覚があった。そして……


「おお……邪気が、消えていく……!」

「す、凄いわね……」


 セネムとゾーイが感嘆の溜息を漏らす。このミュージアム内に満ちていたあの濃密な邪気が一切感じられなくなったのだ。いや、それどころか、どことなく心地が良いような清浄な気に満ち溢れているように感じた。


「何だか……空気の臭いが変わった? ような気がするわね」


 霊力や魔力を持たないナターシャにも何となく感じられるくらい、空気の質が明らかに変わっていた。



「これでもう大丈夫です。恐らく明日にはここも発見されて通報されるはずです。亡くなった方々にせめてもの安息を……」


 モニカが改めて人骨の山に祈りを捧げる。それからセネム達の方を振り返った。


「さあ、もうここでの用件は済みました。先を急ぎましょう。連中はここを仮の拠点にしていたようなので、ここから邪気の痕跡を辿れば遠からず『ゲート』に行き着けるはずです」


「うむ、そうだな。では出発しよう」


 そしてナターシャ達も含めた一行は失踪被害者達の墓標となった『死の博物館』を後にして、『ゲート』を見つけ出すべく探査を再開させるのだった。


次回はFile8:魔界への入り口

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 結局、ローラも事件に巻き込まれてしまいそうですね。
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