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女刑事と吸血鬼 ~妖闘地帯LA  作者: ビジョンXYZ
Case7:『シューティングスター』
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File4:甘い思い出?

「消えただと? ふざけてるのか? 一日ほっつき歩いて、持ち帰ったのが酔っ払いの浮浪者の妄言だけか。つくづく優秀な捜査員だよ、君は!」 


 署に戻ったローラは、とりあえず義務(・・)としてアルヴィンの証言を上に報告した。すると案の定(・・・)、ネルソンから罵詈雑言を浴びせられる羽目になった。


「申し訳ありません、警部。しかし……」


「口答えするな! いいか? 今度こんな成果なし(・・・・)の報告を持ち帰ったら、お前を捜査から外してやる。役立たずなど必要ないからな!」


「…………」


 彼に何を言っても無駄だろう。ローラはひたすら反省している振り(・・)を装って、嵐が過ぎ去るのを待った。



 捜査の責任者がジョンであればこんな事にはなっていない。彼なら即座に『シューティングスター』の危険性に気付いて対策を考えてくれていたはずだ。だがジョンは、ネルソンが直接捜査の指揮を取るのに邪魔だと思われたらしく、今回の捜査では最初から除外されていた。


 彼はローラに意地の悪い笑みを向けて、「俺の予感じゃ今回の事件、ネルソンの手に負える代物じゃないぜ。お前さん、苦労する事になりそうだなぁ。俺は折角頂いたありがたい休暇だから、ちょっくらバカンス(・・・・)に出掛けてくるぜ。お前も程々に力抜いてやっとけよ」と言い残して、本当に休暇旅行・・・・に出掛けてしまった。


 早くも彼の言っていた通りの状況になりつつあり、ローラは思わず内心で嘆息していた。



 ひとしきりローラを罵倒し終わったネルソンは、忌々し気に鼻を鳴らした。


「フン……ただでさえFBIの連中がしゃしゃり出てきて目障りだというのに、その上使えん部下まで抱えていては、まともに捜査が進まんわ」


「え……FBIが?」


「ああ。お偉方や有名人ばかり殺されている事件だからな。我々だけには任せておけんという訳だ。ふん! 奴等に手柄を横取りされてたまるか! この事件を解決するのは俺だ!」


 根拠のない妄言を吐き散らすネルソンを無視して、ローラはFBIが介入してきた理由を推測する。


 ネルソンの言う理由だけで彼等が介入してくるとは考えられない。そして『シューティングスター』は州を跨いでいる事件でもない。となると…… 


(FBIも何か掴んでいるという事? 例えば……『シューティングスター』が人間ではない(・・・・・・)証拠などを)



 そんな事を考えていると、ネルソンから意外な言葉が。


「で、そのFBIの連中が何やら君に話があるらしいぞ。会議室でお待ちかねだ」


「私にですか?」


 ローラに個別に話が、という事になると人外の怪物絡みしか考えられない。増々怪しい。或いはクレア達が来ているのかも知れない。


「何の用事か知らんが、くれぐれも連中に余計な情報を漏らすんじゃないぞ。何を話したか後ほど全て報告しろ。いいな!?」


(漏らすような大層な情報が集まってる訳でもないでしょうが)


 心の中で毒づく。唯一の『大層な情報』はつい先程自分で黙殺したのだ。ローラはネルソンに生返事を返してオフィスを後にした。その足で会議室まで向かう。




「失礼します、ギブソンです」


 断って会議室に入ると、そこには3人(・・)の人間がいた。


「ローラ! 久しぶりね」

「クレア、やっぱりあなた達だったのね!」


 予想通り、1人はローラの友人でもある捜査官クレア・アッカーマンだ。お互い何かとそれぞれの仕事で忙しく、久しぶりに会った友人とハグを交わす。彼女がいるという事はもう1人は……


「おや、ローラ? 僕とはハグをしてくれないのかい?」


 両手を広げて準備万端の姿勢のまま放置されたニック・ジュリアーニが爽やかに笑う。ローラは肩を竦めた。


「やめておくわ。クレアに悪いからね」


 『ディザイアシンドローム』事件終息後、セネムの紹介と送別会・・・を兼ねて集まった際にクレア自身から、ニックとそういう関係(・・・・・・)になった事を報告されていたのでちょっと揶揄してやる。クレアが少し顔を赤らめた。


「やれやれ、そう来たか。それを言われると弱いね。でも握手くらいなら構わないだろう?」


「ええ、勿論」


 苦笑したニックが手を差し出してきたので、快く応じて握り返す。すると……


(……ん?)

「……!」


 妙な違和感を覚えたローラは顔を顰める。見るとニックの方もそれまでの笑みを消して、心なしか厳しい、探るような表情となっていた。


「2人共、どうしたの?」


 ローラ達の様子にクレアが訝し気な声を上げる。2人は示し合わせたように手を離した。


「ああ、いや……何でもないよ、クレア。済まなかったね、ローラ。最近ちょっと冷え性気味でね」


「あ、ああ、そうだったのね。ちょっと運動不足じゃないかしら? 気を付けなさいよ」


 ローラも取り繕って返事する。今の感触はきっと気のせいだろうと思った。だがニックに触れた際に、ローラの奥底に眠る『ローラ』の力が反応したような気がしたのだ。あれは市庁舎の戦いでジョフレイに抱き着いた時に感じた不快感と似たような感覚だった。


(まさか、ね……)


 ここで自身の感覚を信じてもう少し突き詰めて考えていれば、或いは彼女は真相・・に気付いていたかも知れない。少なくとも警戒心・・・を抱く事はできた。


 だが……間の悪い事に、この部屋にいるもう1人の人物(・・・・・・・)から声を掛けられた事で、他の疑問は全部彼女の頭から吹き飛んでしまった。




「ふん……相変わらずのようだな、ローラ(・・・)


「え……?」


 いきなりファーストネームを呼ばれて戸惑ったローラは3人目の人物に視線を向ける。その人物は窓の方を向いて入り口に背を向けて立っていたので、部屋に入った時にすぐに顔が視界に写らなかったのだ。背の高い男性だという事だけは見て取れていたが。


 男性が振り向いた。その瞬間、ローラの目は大きく見開かれた。


「な……あ、あなた、まさか……クリス? クリスなの!?」


「クク……久しぶりだな。あれから10年以上は経っているが、覚えていたか」


 男性――クリスが含み笑いのような嫌らしい笑い声を上げる。自分でも意外な事に忘れてはいなかった。いや、正確には顔を見た瞬間に、即座に思い出したのだ。



 それもそのはず。彼はローラが過去に唯一交際(・・)した事のある男性だったのだから……!



 クリス――クリストファー・ソレンソンは、ローラの高校の1学年上の先輩だった。当時高校生にしては浮ついた所がなく落ち着いた性格で、それでいてルックスが良く勉強もスポーツもそつなくこなしスクールカーストの上位にいた彼は、はっきり言えばかなりモテた。


 だが当時はローラも高校女子の花形であるチアリーディング部に所属しており、スクールカースト上位の一員であった。


 彼から告白された時も決して不釣り合いだとは思っていなかった。むしろ自分の方がこれくらいの男でなければ釣り合いが取れないくらいに思っていたのだ。


 あの頃の自分を顧みると頭を掻き毟りたくなるが、当時は本気でそう思っていた。自分は学校一の美少女だと自惚れていたのだ。 


 高校卒業後はポリスアカデミーに入る事は決めていたが、それだけに高校時代は有意義に過ごして甘い思い出を作りたかった。クリスとの交際はそんな彼女にとって最高の思い出となるはずだった。だが……


 彼はあろう事かローラとの交際中に、彼女の友人であるゾーイ・ギルモアにも手を出していたのだった。クリスは浮気が発覚してもローラが自分と別れる事はないという謎の自信を抱いていた。どうやら最初から二股を狙っていたらしい事が判明した。


 その事に増々プライドを傷つけられたローラは怒り心頭に発し、『つまみ食い』扱いされて怒っていたゾーイと謀ってクリスに陰湿な復讐を敢行したのであった。



「ゾーイですって? …………あっ! あの『バイツァ・ダスト』事件の時、彼女とのメールで……!」


 クレアが何かを思い出したらしく、口に手を当てて驚いていた。同時にメールの内容も思い出したのだろう。クリスの方に若干同情するような視線を向ける。 


 ローラ達は一部始終を隠しカメラで撮影していた上に、クリスは結局便座から離れるのに他人の手を借りなくてはならず、パンツまでずらして局部を露出した姿を衆目に晒す羽目になった。


 この一件で学校中の笑い者になり軽蔑と嘲笑の対象となったクリスは、スクールカーストの上位から転落。卒業まで日陰者として扱われた。卒業後は地元から姿を消し、消息不明となってローラの記憶からも封印されかかっていたのだが……


次回はFile5:フロム・ジ・アウタースペース

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