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女刑事と吸血鬼 ~妖闘地帯LA  作者: ビジョンXYZ
Case6:『ディザイアシンドローム』
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File10:歪呪の処刑場

 そして時計は約束の夜11時を回った。指定された廃倉庫は埠頭から外れた場所にポツンと建っており、夜中ともなると人通りは完全に途絶える。


 シンと不気味に静まり返った倉庫の内部を、壊れた天井の隙間から覗く月明かりが照らしていた。ローラ達はそんな倉庫の物陰に半ば身を潜めるようにしてシモンズを待っていた。すると……


 倉庫の入り口に人の気配。


「……おい。いるのか?」


 シモンズの声だ。抑えてはいるが、人気のない倉庫ではそれでも響く。ローラ達は物陰から月明りの中に出た。向こうもすぐに気付いたようだ。


「ああ、良かった。いないのかと思ったぞ」


「まさか。あんな意味深なメッセージを渡されて、来ないはずがありません。市庁舎で何があったのか、お話しして頂けるという事で宜しんですね?」


 前置きなしで本題に入るローラだが、シモンズの方も気が急いているのか気にする事無く頷いた。


「ああ、解っている。だがその前に重複・・を避ける為にも、警察が一体どこまで掴んでいるのか教えてくれないか? そもそも人が本だのカードだのに変わるなんて……あんな訳の分からない現象が人為的に引き起こされた物だと、警察が信じて捜査している事自体がまず驚きだよ」


 その疑問は尤もではある。あれを殺人事件・・・・として扱う事自体が異例中の異例だ。今までの被害者・・・達が皆市長に関わりがあったとはいえ、市長を犯人・・として疑うという発想がそもそも通常はあり得ないだろう。今まで数多くの人外の事件に接してきたローラだからこそ、疑いを持つ事が出来たのだ。


「……詳細までは明かせませんが、私は個人的に今までにもこうした常識外れの事件を数多く経験してきたんです。その私の経験と勘が、市長が何らかの魔術のような力を振るってあのような事件をひき起こしたのだと告げているんです」


「……! そう、か。個人的に……という事は、警察全体がその方向で捜査している訳ではないんだな?」


「ええ、その通りです。頼りないと思われるかも知れませんが、私は必ず市長の犯行を止めて見せます。どうかご協力を……」


 ローラ個人が警察全体の理解を得られないまま捜査していると知られれば、頼りないと思われて口を噤んでしまうかも知れない。そう考えて言い募ろうとしたローラだが、そこで初めてシモンズの様子がおかしい事に気付いた。


 彼は微妙にだが、口の端を吊り上げて笑っていたのだ。そう言えば先程の問いかけも、まるで他にも理解者がいないか確認するような口調だった気が……


「……ッ!」


 ローラは咄嗟に後ろに飛び退って距離を取ると、銃を抜いてシモンズに銃口を向けた。リンファが呆気に取られる。



「せ、先輩?」


「リンファ、下がりなさいっ!」


「……!?」

 何が何だか分からないながら、それでも本能的に警告に従ってシモンズから距離を取るリンファ。その間もローラの目線と銃口は油断なくシモンズを捉えたままだ。



「……あなた、市長に寝返った(・・・・)わね?」



「寝返った……とは心外だな」


 シモンズが向けられた銃口をなんら気にした様子もなく含み笑いする。雰囲気が一変していた。酷薄で、傲慢で……残忍なこの雰囲気にローラは憶えがあった。シルヴィアやアンジェリーナ、それにカルロスやフィリップ、ジェイソンといった人外の力を手にした人間に特有のこの雰囲気は……!


「あ、あなた……あなたは、まさか……」


「寝返ったのではない。ただ受け入れた(・・・・・)のだ。あのお方が与えてくれたこの恩寵・・をな」



 シモンズが両手を広げると、倉庫の割れた窓や壊れた壁や天井などから次々と黒い影が飛び込んできて、素早くローラ達2人を包囲・・した!



「……!」「せ、先輩!?」


 リンファも銃を抜いてローラと背中合わせになると、黒い影に向かって銃を構える。月明りに照らされて全容が見えたその影達は、四肢を備えた一見人間のようなシルエットを持ちながらしかし明らかに人間ではなかった。


 異様に細長く節くれ立った四肢は人間の関節ではあり得ない方向に曲がっており、その先端には鋭い鉤爪の生えた手と足があった。そのシルエットはどことなく蜘蛛を連想させた。


 胴体は人間の男性の物に近いが、腹だけが異様に突き出た醜い胴体であった。そして顔は目が白濁し、口からは上下に不揃いな牙の突き出た恐ろし気な物で、どこかのホラー映画にでも出てきそうな造形だ。


 しかし勿論この連中はCGでもなければ特殊メイクの人間でもない。本物の化け物だ。それが10体以上、気味の悪い唸り声を上げながらその白濁した目でこちらを見つめているのだ。周囲をグルリと包囲されており逃げ場がない。



「な、何なんです、こいつら!?」


 リンファが泣きそうな顔と声で聞いてくるが、聞きたいのはローラも同じだ。シモンズがその質問に答える。



「こやつらは魔神の尖兵……霊鬼ジャーンだ」



「ジャーン……?」


「くくく、下手に嗅ぎ回らねば死なずに済んだ物を……殺れっ!」


 それ以上ローラ達と会話をする気はないらしく、シモンズが周囲を取り囲んだ怪物――ジャーン達をけしかけてくる。


「く……リンファ! 突破するわよ! 出口に向かって走りなさい!」


「は、はい!」


 倉庫の出入り口に向かって一気に走り出す。間に立ち塞がっていたジャーンに向かって連続で発砲すると、そいつは唸り声を上げながら怯んだ。殺す事は出来なくても多少は効くらしい。その事に勇気づけられたローラ達は、周囲から素早い挙動で飛び掛かってくるジャーン達に牽制の銃撃を加えつつ、一目散に出口に向かってひた走る。そして外に出ようと出口を潜った瞬間――


「……え!?」



 ――ローラ達は倉庫のに飛び込んでいた。



「あ、あれ、先輩!? 私達この出口から外に出たはずじゃ……」


 リンファも混乱しながら出口を見上げている。出口は空いており、向こうには普通に外の景色が広がっている。


「……!」


 ローラはリンファの手を取って踵を返し、もう一度出口から外に走り出た。そして……


「な…………」


 絶句した。彼女達は再び倉庫の中へと飛び込んでいたのだ。外は見えているのに出られない。



(――閉じ込められた!?)



 原理は全く不明ながら、その事実だけを認識したローラ。魔法、という言葉が脳裏に浮かぶ。


「無駄だ。この倉庫全体を私の結界・・で覆っている。中からは出られん。外からも入れん。そして……全ての音や映像も遮断されている。外からは静かな無人の倉庫に見えているだろうな」


「……ッ!!」


 ローラ達の混乱を嘲笑うようにシモンズが説明してくる。結界などと言うと増々魔法じみた印象だ。だがローラ達が不可思議な現象によって閉じ込められたのは紛れもない事実であり、となれば結界とやらの効果も言っている通りなのだろう。


(やられた……!)


 充分警戒しているつもりだった。だがそれでも尚、敵の力を甘く見ていたようだ。相手は人間をカードや本に変えてしまう魔法のような力を使う怪物だと言う事は、頭では理解していた。しかし実感としてそれを認識していなかった。


 しかも敵はジョフレイ市長だけだと思っていたので、同じような力が使える仲間――もしくは部下――がいる事を全く想定していなかった。それがジョフレイに脅されていたはずの市議の一人であれば尚更だ。


次回はFile11:相棒


閉じ込められたローラ達に容赦なく襲いかかるジャーン達。

リンファはローラを庇ってどんどん傷ついていき――

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