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女刑事と吸血鬼 ~妖闘地帯LA  作者: ビジョンXYZ
Case6:『ディザイアシンドローム』
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File5:超常殺人


「で? ローラさんがこの大学に何の用なんだ? 何か事件でもあったのか?」


「ちょっと、ジェシー……!」


 気楽に尋ねてくるジェシカをヴェロニカが肘で突付く。それでジェシカも気付いたようだ。


「あ……そうだよな。捜査情報とかを気軽にあたし達に喋る訳にも行かないか」


 そう言って頭を掻く。ローラは頷いた。


「そう、ね。ごめんなさいね、2人共。でも……まだ確定ではないけど、未知の人外絡みの事件である可能性が高いわ」


「……っ!」

 ジェシカとヴェロニカが目を見開く。


「あなた達2人が揃っていて丁度良かったわ。正直人外絡みだとすると、この先どうなるか解らない。その……2人を危険には巻き込みたくないと……」


 この大学で学生生活を送る彼女らを見て改めて思った。彼女らは人生を謳歌し、自分の夢に向かって着実に歩んでいる。そんな彼女達をローラの事情に巻き込んでしまう事が心苦しいのだ。


 いくら人外の力を持つとは言え、彼女らはあくまで1人の人間であり、自由な人生を楽しむ権利がある。そう思ってのローラの言葉だったが、他ならぬジェシカ達によって途中で遮られる。


「ローラさん……そっから先は言いっこなしだぜ? 普通の事件じゃあたしらは力になれないが、事が人外絡みと来れば話は別だ。なあ、先輩?」


 ジェシカの振りにヴェロニカも頷く。


「ええ。相手が人外の怪物ならローラさんは刑事や大人という立場ではなく、1人の人間として私達を頼って欲しく思います。それでローラさんの力になれるなら、私達にとってそれに勝る喜びはありません」


「ジェ、ジェシカ。ヴェロニカ……」


 ローラは不覚にも涙ぐみそうになってしまう。人外の怪物に狙われて不安が無いはずはない。刑事という仮面で己を律していなければ、恐怖と不安に押し潰されてしまっていたかも知れない。だがそれにも限界はある。


 そんな中でミラーカ以外にも自分の味方がいるという事実は、彼女の心に非常な安堵と安心をもたらす。


 ローラはそれを認め、ヴェロニカの言う通り刑事や大人という立場に拘泥する事をやめた。どの道彼女達には今まで何度も助けられているのだ。今更な話でもあった。


「ありがとう、2人共……。そうならないように願っているけど、もしもの時は頼りにさせて貰うわね?」


 ローラの態度と言葉に2人は喜んだ。


「ああ、任せてくれよ、ローラさん!」

「本当にいつでもいいのでご相談下さいね?」


 と、そこにリンファも割り込んでくる。


「先輩。私もいるので忘れないで下さいよ?」


 すると初めてリンファの存在に気付いたように、ジェシカが胡乱げな目を向ける。




「アンタが〈信徒〉を倒したっていう、例の相棒の刑事か? ふぅん……何だか頼りなさそうだなぁ。ホントに仕事中のローラさんを任せられるのかよ?」


 童顔とはいえ、一応大人であり年上であるリンファに対してかなり尊大な態度だが、ジェシカは元々こういう性格なのであった。


 リンファも生粋の中国人であり元来かなり気が強い性質なので、年下の少女の挑発的な態度にその眉がピクッと吊り上がる。


「頼りないかどうか……試してみますか? 変身・・とやらをするならともかく、今のあなたよりは確実に頼れると思いますけど?」


「へぇ……面白いじゃん」


 ジェシカがスッと目を細めて前に進み出ようとする。慌てたのはローラとヴェロニカだ。


「ちょっと、ジェシー! こんな場所で喧嘩でもする気!? ローラさんの迷惑を考えなさいよ!」


「リンファ、あなたもよ。それこそ大人気ない真似はやめなさい」


「……!」


 ローラ達の仲裁によって喧嘩を止める事は出来たが、2人はお互いにフンッ! という感じでそっぽを向いて目を合わせない。リンファも少々子供っぽい所があるので衝突してしまい、馬が合わなかったようだ。 


 ローラは溜息を吐いた。上から仲良くしろと言った所で無意味だろう。時間が解決してくれる事を願うしかない。


 そんな少し気まずい空気が漂っていた時……




「け、警察……警察というのはあなた達!?」

「……!」


 突然聞こえた声に振り向くと、顔色の悪い中年の女性が妙にギラギラした目でローラの事を見据えていた。


「あ……じ、事務長」


 ヴェロニカの呟きで、その女性が聞き込み対象のデボラ・アルトマンだと悟る。デボラはしかしただ真っ直ぐにローラだけを見据えてツカツカ歩み寄ってきた。


「あの、アルトマンさ――」


「助けて! お願い、助けて頂戴! ここに来たという事は、アイツ(・・・)のやってる事に気付いたって事でしょう!? 私はドナルドのようになりたくないのよぉ! 助けて頂戴!」


 ローラの肩に掴みかからんばかりの必死の形相で叫ぶデボラ。ローラは呆気に取られた。勿論他の3人もだ。いや、彼女達だけではない。大勢の学生が行き交う日中の構内だ。ヒステリックな叫び声は野次馬達の目線を惹き付けるには充分だ。


 ローラは少し慌てた。とにかくどこか人目のない場所へ移動せねばならない。


「お、落ち着い――」


「アイツは悪魔よ! 比喩なんかじゃない! あれは正真正銘の――――ッ!?」


 喚き声が急に止まった。と同時に恐怖・・に目を見開いたデボラが、自らの喉に手を当てて苦しみ出す。ローラ達は唖然としっ放しだ。


「ア、アルトマンさん? どうしました? 大丈夫ですか!?」


「いいいぃぃぃぃぅうぎぃぃぃぃあぁぁぁあぁぁがががががだばばば」


 ローラは咄嗟に駆け寄るが、デボラの苦しみは止まらず突然奇声を発し…………次の瞬間、目を疑うような現象が起きた。



 デボラの身体が淡い光を発しながら急速に縮み始めたのだ!



 野次馬の学生達からも悲鳴が上がった。


「ロ、ローラさん!」「こりゃ、一体……!?」「先輩、離れて!」


 3人が咄嗟にローラを庇うように位置を入れ替える。だがその時には既に光は収まり、デボラの姿は……消えて無くなっていた。



 その後には……一冊のハードカバー本が転がっていた。凝った装丁の表紙には、『デボラ・アルトマン。その生涯』というタイトル(・・・・)が印字されていた。



「せ、せ、先輩……。これって……」


 真っ青な顔をしたリンファの震える声。予備知識もなく完全に初見だったジェシカとヴェロニカは、未だに目を疑うように硬直している。


 ローラも顔を青くしながら頷いた。


「ええ……ええ。間違いない。ドナルド達と同一犯・・・の仕業だわ。あの野球カードや陶人形は、本当に彼等自身・・・・だったのよ……!」


 ここに、恐ろしい魔法の如き力の実在が証明された。同時にそれを為した悪魔の存在も……。今再び新たなる闇が、ローラの頭上に暗雲となって覆い被さろうとしていた。






 目の前で起きた超常の現象に気を取られて誰も気付かなかった。悪意のある視線がデボラを……そして彼女と接触したローラ達を、まるで監視するように見据えていた事を。


 その視線の主は、誰にも気付かれる事なく建物の陰から姿を消して跳び去っていった。影が跳び去った方向には……LA市庁舎(・・・・・)が存在していた……。



次回はFile6:駄目女と恋人達


ローラは情報共有の為に皆を自宅に呼び集めるが、何故かミラーカは

ジェシカとヴェロニカだけ先に呼ぶように提案してきて――!?

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