運命に導かれ魔王を封印した勇者(Lv.6 商人)の帰郷
俺の名はアレム。勇者だ。
7日前に激闘の末魔王ガラを封印し、この世界に平和をもたらしたばかりだ。
共に戦った頼れる仲間たちは今はそばにいない。皆あるべき場所に戻り、傷ついた世界の復興に尽力している。
俺も故郷のリダシ村に戻るところだ。
魔王封印のしらせは辺鄙なあの村にも届いているはず。きっと、俺の帰りを祝ってくれるだろう。
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・世界の掟その1:自分以下のレベルのモンスターを倒しても、経験値は増えない。
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「おかえり、アレム!!」
「これでもう、モンスターにおびえなくてすむのね!」
「よくぞ無事に戻ってきてくれた・・・」
「今でも信じられねえぐらいだぜ!お前が魔王を倒してきただなんてよ!」
「精霊王のお告げでアレムが旅立ったときは、どうなることかと思ったけど・・・」
「この平和はお前のおかげだ!ありがとうアレム!!」
村の皆が、俺を出迎えてくれる。祝福してくれる。
ちやほやされるのは気持ち良いものだ。
「一体どれくらい強くなったんだ?レベルはいくつになった?」
幼馴染の言葉に、どきりと心臓が跳ね上がる。
多分来ると思っていた質問が来た。
できるだけ動揺を顔に出さないように、落ち着いて答える。
「ろ、66・・・」
大丈夫、ばれないはず・・・そう自分に言い聞かせる。
額に汗が流れた気がした。目が泳いだりしてないよな?
「マジかよ!?すげえ!ステータスカード見せてくれよ!!」
続く言葉で希望が絶たれた。
「みっ、みみ見せられないぃ・・・」
自分の声が震えるのを自覚する。
もうダメだ、おしまいだ。魔王を前にした時に匹敵する絶望にも似た、これまでの帰路での体験がよみがえる。
さっきまで俺を褒めたたえていた村の皆がいぶかしげな目を向ける。
パチンッ!
「放せ!やめろ、見るな!見ないでくれぇ・・・!!」
親友が指を鳴らすと筋肉オヤジ1号と2号が現れ、俺を羽交い絞めにした。
抵抗むなしく懐をあさると俺のステータスカードを抜き取る。
「『Lv.6 クラス:商人 HP:75 MP:0』」
「「「・・・・・・・・・」」」
読み上げられてしまった。
皆の沈黙が痛い。
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・世界の掟その2:自分の能力(腕力、魔法、技術等)でトドメを刺さないと、経験値は増えない。
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「おかしいと思ったんだよ、こいつが勇者だなんて・・・」
「子供のころからスケベなイタズラの常習犯だったもんな・・・」
「一体どうやってあのステータスで生き残ったんだ?」
村の中央にある集会場。
『祝 勇者の帰還』と書かれた大看板の上から紙が貼られ、『疑 勇者の査問』と書き直されている。
俺は演説台の上で正座。首には『商人Lv.6』と書かれたプラカードをさげさせられた。
「確かに、村を出た時点でお前の適性クラスは商人・・・だが、魔王城を目指す道中にはクラスチェンジできる神殿があったはず。
なぜ商人のままなんじゃ?」
村長が問い詰める。
「確かに神殿には寄ったけど・・・クラスチェンジはLv.20からだって言われて・・・」
村人たちのため息が聞こえる。
「次の質問じゃ。村を出た時のレベルは2。なぜ4しか上がっていない?」
「おいおい、それはよく3倍の強さになったなってほめるところじゃないか?」
「バカモーン!!ワシでさえLV.12じゃぞ!!
どれだけサボれば1年も旅してLv.6なんてことになるんじゃ!!」
「いや、むやみに戦って死んだら困るし・・・基本モンスターを避けてたから・・・」
「あるじゃろうが!ボス戦が!!
洞窟の宝を守る魔物とか、塔の主とか、モンスターが大臣に化けてたとか、そういう戦いを避けられない、経験値ががっぽりもらえるのが!!!」
話すにつれ村長がにじり寄ってくる。正直あまりアップで見たくない顔だが、演説台は狭いのであまり後ろにも下がれない。
「話術スキルで騙して通り抜けた後見つからないよう逃げたり、塔の最上階から突き落としたり、正体を暴いた偽大臣はお城の兵士たちが協力して倒したり・・・」
「まともに戦わなかったのか・・・?」
「商人に攻撃スキルはないし・・・」
「仲間のサポートは!?」
「俺、僧侶、盗賊、道化師の4人パーティだったから・・・」
村人たちが呆れたように首を横に振っている。
「びっくりするほど攻撃力に欠けるパーティ編成じゃな・・・」
「でもあいつらの誰が欠けていても魔王封印はできなかった。自慢の仲間たちさ!」
「最初に編成するときにバランス悪いとは思わなかったのか・・・?」
「キャラクター性のバランスを重視したから。
たったの4人旅でキャラかぶってるのがいたらまずいだろ?
熱血、クール、天然でバランスよく・・・」
「何を重視しとるんじゃ、何を・・・ちなみに、仲間の最終レベルは?」
「僧侶Lv.10、盗賊Lv.9、道化師Lv.18!」
「なんで道化師が最高戦力でお前が最低レベルなんじゃ!?」
「・・・なんでだろう・・・?」
「こっちが聞きたいわ!!」
声を荒らげる村長。もう歳だろうに、そんなにエキサイトして大丈夫だろうか。脳溢血とか。
「で、一番肝心なことじゃが・・・魔王は?」
「俺が封印しといたぞ。」
『絶対嘘だ・・・』というつぶやきが聞こえる。道具屋のオヤジの声だってちゃんとわかってるからな。後で覚えとけよ。
「どうやって!?」
「あらかじめ用意した封印魔法陣の上に魔王を誘導して、精霊王がくれた封印の剣を魔王に突き立てて。」
「無理じゃろ!あのレベルとステータスじゃ!!」
「それはそれ、最上級シールド魔法(1ターンだけ無敵)の巻物とか、ガッツの首飾り(HP0になるときHP1で耐える)とか、アイテムを駆使して。」
「・・・めちゃくちゃ高価なアイテムじゃろ、それ。
モンスターが落とす金も手に入らないのに、まさか犯罪に手を染めて・・・」
「おいおいおい、俺のクラスは商人だぞ。
ダンジョンで手に入れたアイテムを店に売らずに直接別の冒険者に売りつけたり、魔王城近くの街で買ったアイテムをもっと手前の街で高値で売ったりしただけだぞ。」
後はダンジョン内で回復屋を開いたり、セーブポイント屋を開いたりしたが、どの国の法律でも違法ではない。
「「「・・・・・・・・・」」」
村長も村人たちも、何か言いたげな様子ではあったが何も言わなかった。
その後、大看板の紙は剥がされ予定通りに祝賀会が行われた。ごちそうはすでに作ってあったので、無駄にしないための会だった気もする。
魔王封印が事実である以上めでたい場のはずだが、終始微妙な空気のままだった。
俺の肩書は、『一応勇者』に決定した。
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・世界の掟その3:大いなる存在(精霊王、竜神、大天使等)は、勇者の力を試すものにあらず。その心を試すものなり。
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後に伝説として語り継がれる勇者アレム。
あまたの試練を乗り越え、仲間との絆をはぐくみ、精霊王の助力によって魔王封印を成し遂げた彼の物語は後世でも人気を博した。
しかし、彼の公式記録に魔王討伐時のレベルは載っておらず、クラスチェンジ履歴も白紙のまま。
彼のステータスとして記録に残っているのは、リダシ村を出発した時に記録した『Lv.2』と、冒険の途中で一度リダシ村に戻った時と思われる『Lv.6』のみである・・・