一話 狂気の恋情の幕開け
やっぱり作者は病気でした。
私は君が好きで好きで堪らなかった。
でも、君はあと一ヶ月で転校してしまう。
だから私は。君に。
三月一日
春の陽気が漂う頃、ある日担任から生徒へ身勝手な話を突き出された。午後四時の帰宅ホームルームは退屈で意義が見当たらないとさえ感じていた、私は。
「えー井下湊さんは転校する事になりました」
「っ!?ぁ?」
声にならない叫びがコンマ一秒で心を喰い破り声帯から哀しみの叫びが小さく、か弱く、発せられた。
世界がフリーズして白く染まり切った。
クラスはどよめきやざわつきさえ微塵も感じさせなかった。私は気が狂いそうな鬼に成り掛けた。
湊は私の唯一無二の親友で、初めて恋慕を抱いた人だった。
学校から孤立し、他愛な雑談を話す人さえ離れた私の光そのものだった。
昼休みに話題の芸人や本の話題を提供しあって時間を潰した親友。いなくなる?ふざけんな!!!
腹の奥底から悲しみや苦しみや不安が込み上げてくる。
あと一ヶ月もない。何が出来るというのか。
酷すぎる、酷な話だった。話の概要を耳にするだけでもあいつのはにかんだ顔が心に滲み出てくる。
あの笑った時のえくぼ、走る仕草、当てられてどぎまぎする時の慌てよう。全て、いとおしかった。
それがあと一ヶ月で見られなくなるなんて、私にとっては死刑宣告を出されたものと同義だった。
そうして悪魔じみたホームルームは幕を綴じた。
いつも終業のベルが鳴るまでの小さな時間は湊と話すが今日は彼奴の顔はとてもじゃないが見られなかった。
毎日、疲弊した体を引き摺り込んででもする部活さえ今日は無断欠席した。
学校指定の上着を無造作に着て周囲の目を気にする余力さえ無かった私は駆け足で学校を立ち去った。
赤信号を無視してトラックに轢かれそうになりながらも全速力で帰宅した。
「くそっっ・・・!何でだよ!」
自室で布団に心の叫びを吐露した。喉が張り裂けそうになっても叫びを止めなかった。
止めたくなかった。
ふと目を窓に向けると、ぐしゃぐしゃになった自分の無様な顔面が映っていた。
「こんなにも愛しているのに!」
枕を無造作に投げ付けた。ボフリと鈍い音が鳴る。
枕の中の羽毛が部屋に雪のように舞う。
涙は止めどなく溢れてきて、心の防波堤を濁った濁流が破ろうとしている。
愛しい。愛しい。愛しい。愛しい。愛しい。愛しい。愛しい。愛しい。愛しい。愛しい。愛しい。愛しい。
狂える程愛しい。心の中から狂気の恋情が滝の様に溢れてきて・・・。
でもあいつには忌々しい双子の妹がいる。
端から見ると仲の良い双子だ。夜に湊に電話を掛けるとあの妹に邪魔だ、話すな、と言われてしまう。
お前が邪魔すぎるっ!!!
愛想が良くて気持ち悪い。悪寒がしてくる。
この前、寒かったから二人で床を共にしたと報告してきた。キンキン耳に突く赤子の泣き声の様だ。
「邪魔だ!!!」
視界の端が淀んだ闇色に侵食される。窓に映った自分の顔から表情が抜け落ちて行く。
いや、最後に残った表情は狂気の恋慕をあらわにした甘美な笑みと狂気の嫉妬をあらわにした狂人の笑みしか無かった。
瞳孔が墨汁のような闇色に塗りつぶされて行く。
その反対に計画性を無視した残酷な計画が机上で組上がる。
私は決めた。彼奴を・・・殺す、と。
三月二日
朝、目が覚めると眼前に浮遊した包丁が存在していた。
私は幽玄の幻想だと思った。
毎晩の恋い焦がれる恋情と妹への嫉妬の残想だと決めつけて。
しかし眼鏡を掛けても、いくら朝の日出を眺めても包丁は永遠に浮遊していそうな気がした。
私は冷水の冷たさに似た持ち手の部分をそっと持った。
業物だとかは判らなかったが素人の観察眼から見ても人を殺傷する能力は充分に持ち合わせていた。
「カミサマからの神託かな?」
この世の自然法則を無視していた包丁は嗤い掛けるように嫉妬で凝り固まった心と共鳴した。
私はとち狂ったのか刃を陽光に透かした。
刃は鈍い反射光を放ちながら耀く。
「きっと・・・こいつでヤッタラ染まりそう」
無意識の内の呟きだった。意識が何かに乗っ取られて。
包丁は取り敢えず常備携帯出来るようにしたい。
そう自然法則を無視した包丁に祈った瞬間包丁は右手の掌にズブズブと取り込まれて行った。
痛くも、痒くも無かった。
階段を降り一階のリビングについた。
又、退屈な日々が始まるのかな?
私はもう安寧、安泰、平和、豊満、エトセトラは要らない。
だって、湊が唯一無二の親友で唯一無二の存在で彼奴が居なかったらこの世の存在価値なんて、要らない。。
だから、湊と私を邪魔する外敵を私は全力で排除してあげたい。だから、だから、だから、だから、だから、だから、だから、だから、だから、だから、だから、だから。
「手始めに先ずは、×だ」
タイトルが思いつかないのです。
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