弐ノ道ー和ー①
教室に入って最初に感じたことは殺気だった。
紲は殺気を読み取れるほど武を極めていなかったし、それが誰の殺気かは分からなかった。
もしかしたらクラスメイト全員の殺気かもしれなかった。
しかし、肌に何かヒリヒリとしたものは感じていた。
もしもこの時、紲が武芸の達人で、それがたった一人の人物から発される一陣の殺気であることに気付いていたなら、彼の身に降りかかる災難のいくらかは回避できていたかもしれなかった。
それはともかく、彼は自己紹介をした。
記憶が無いことを除けば当たり障りのない普通の自己紹介だった。
そんな普通の挨拶に。
パチパチパチッ
拍手の音が鳴った。
長髪の女だった。
黒髪の長髪の女だった。
なんかニコニコしてるし…。
場がシーンと静まり返った。
なんだこれ。
なんだこの空気。
何だかこっちが恥ずかしくなって来た。
「おぉ!立花さん!夢野君の知り合いだったんですか?では、夢野君のことは立花さんに任せましたよ!じゃ夢野君は立花さんの隣の席で決まりですね!いやぁ良かった!実に良かった!」
急にテンション高くなったな、おい。
しかもこの教師、どさくさに紛れて僕のことを他人に押し付けやがった。
拍手しただけで知り合いかどうかなんて分からないじゃないか。
それにあの女。
立花とかいう女。
ずっとニコニコしてやがる。
胡散臭い。
シュールストレミングより臭い。