弐ノ道ー和ー④
最初に言っておくが、紲は久津和に勝ったことはおろか、戦ったことすらない。
そもそも紲は空手の形で大会に出場していた。
組手で出場していた久津和とはどうやっても戦いようが無い。
「違う違う、俺の言い方が悪かった。”俺が唯一負けたと思った奴”だ。お前の形は難易度は低かったが一つ一つににキレがあった。立ち姿はまるで巨木のようだった。それでいて動きは柳のようにしなやか。頭のテッペンから指先、足の爪先まで洗練され完成されていた」
久津和は興奮しているらしく目が血走っていて若干鼻息が荒い。
はっきり言って気持ち悪い。
「お前を例えるなら・・・そうっ!刀だ!何千回何万回と打たれた一振りの・・・」
「もういい!」
さっきから黙って聞いていれば、人を巨木だの柳だの刀だの。
別に嫌ってわけじゃない。
ただ、ちょっと・・・いや、かなり恥ずかしい。
「なんかすまん。俺ばっか喋っちまって・・・。でも、これだけは言わせてくれ、俺はお前のファンなんだよ」
ここでお前のことが好きだとか言われていたら、紲もさすがに嫌悪の色をその顔に出していたかもしれない。
しかし、ファンだと言われて喜ぶ紲でも無い。
だからこういったシチュエーションでは対応に困ってしまうのだ。
なのでこういった場合に紲がとる行動は・・・
「アハハ・・・ありがとう」
圧倒的笑顔と圧倒的感謝。
ではなく。
愛想笑いとその気のない感謝。